第35話 水属性魔法の使い方
火属性魔法の授業から数日後。
アルスは今日も家庭教師リーナとともに、屋敷の訓練用庭園へやって来ていた。
春の日差しは柔らかく、花壇では色とりどりの花が咲いている。
「アルス様。」
リーナが優しく微笑む。
「今日は水属性魔法について学びましょう。」
「はい!」
アルスは元気よく返事をした。
(今日は水魔法か。)
前世には存在しなかった力。
しかし、この世界では生活に欠かせない魔法の一つだ。
◇◇◇
リーナは一冊の本を開く。
「水属性魔法は、火属性と並んで最も身近な魔法です。」
「飲み水を出したり。」
「畑へ水を与えたり。」
「怪我を洗い流したり。」
「生活のあらゆる場面で使われています。」
アルスは真剣に聞いていた。
(戦いだけじゃない。)
魔法とは生活を支える技術でもある。
父やゴルンが話していたことと同じだ。
◇◇◇
「では、お手本を見せます。」
リーナは手を前へ差し出した。
「《ウォーター》」
淡い青い光が集まり、小さな水球がふわりと浮かぶ。
透明で澄んだ水だった。
「この水は飲めるのですか?」
アルスが尋ねる。
「ええ。」
リーナは頷く。
「魔力で作られた清潔な水です。」
「ただし、大量に作るには相応の魔力が必要になります。」
(なるほど。)
井戸がなくても水を得られる。
だが、魔力には限界がある。
だから井戸や川も大切なのだ。
◇◇◇
「では、アルス様もやってみましょう。」
「はい。」
アルスはゆっくりと右手を前へ出す。
(今日も加減しないと。)
ほんの少しだけ魔力を集める。
「《ウォーター》」
ぽちゃん。
手のひらほどの小さな水球が現れた。
少しだけ揺れている。
「素晴らしいです!」
リーナが笑顔で拍手した。
「火属性に続いて、水属性も成功しました。」
アルスは照れたように笑う。
「できた。」
(これくらいなら自然だ。)
本当なら、もっと大きな水球も作れる。
しかし今は三歳。
実力を隠すことも大切だった。
◇◇◇
その日の午後。
アルスは庭師たちの仕事を見学していた。
「今日は花壇へ水やりですね。」
一人の庭師が井戸から水を汲んでいる。
重そうな桶を何度も運んでいた。
「大変ですか?」
アルスが尋ねると、庭師は笑顔で答える。
「大変ですが、花のためですから。」
「雨の日ばかりではありません。」
「こうして毎日世話をするから、綺麗な花が咲くんですよ。」
アルスは花壇を見つめる。
(もし水魔法がもっと使えたら……。)
もっと楽になるかもしれない。
そんな考えが頭をよぎる。
だが、すぐに首を横へ振った。
(今はまだ駄目だ。)
自分一人が魔法を使って解決するのではなく、この世界の仕組みをもっと知ることが先だ。
◇◇◇
夕方。
父カインと庭を散歩していると、小さな池の前で足を止めた。
「アルス。」
「今日、水魔法を学んだそうだな。」
「はい。」
「水は命を育てる。」
父は池を見つめながら続ける。
「人も。」
「動物も。」
「植物も。」
「水なしでは生きられない。」
「だから水を大切にする者は、人々の暮らしも大切にできる。」
アルスは静かに頷いた。
その言葉は胸に深く響いた。
◇◇◇
夜。
いつものように魔力操作を始める。
火属性。
水属性。
二つの魔力を静かに体内で循環させる。
互いにぶつからないよう、丁寧に。
繊細に。
(火は温もり。)
(水は命。)
どちらも人々の生活には欠かせない。
魔法とは、人を傷付けるためだけの力ではない。
暮らしを豊かにし、人を助けるための力なのだ。
アルスは今日学んだことを胸へ刻む。
いつか自分が鍛冶師になった時。
魔法と鍛冶を組み合わせれば、もっと便利な道具が作れるかもしれない。
そんな未来を思い描きながら、アルスは静かに眠りにつくのだった。




