第3話 初めての鑑定
アルス・シュゲールとして生まれてから三か月。
俺は首も少しずつ据わり始め、周囲の景色を楽しめるようになっていた。
「アルス、今日はご機嫌ですね」
専属メイドが優しく微笑みながら俺を抱き上げる。
「あぅ!」
赤ん坊らしく手を伸ばす。
(演技、演技)
前世の記憶を持っていることは、まだ誰にも知られてはいけない。
今は普通の赤ん坊として過ごすことが一番だ。
そして――。
(今日はもう一つの能力を試そう)
神から授かった転生特典。
《鑑定》。
魔力操作は毎日続けているが、鑑定はまだ一度も使っていなかった。
不用意に使えば何が起きるか分からない。
だから十分に魔力操作に慣れるまで待っていたのだ。
(まずは……このベッド)
視線を木製のベビーベッドへ向ける。
(鑑定)
頭の中でそう念じた瞬間、淡い光と共に文字が浮かび上がった。
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木製ベビーベッド
品質:良
耐久:85/100
製作者:王都の家具職人
素材:オーク材
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(おぉ……)
思わず心の中で声が漏れる。
本当に見える。
ゲームのステータス画面のようだ。
(便利だな)
品質だけでなく、誰が作ったかまで分かる。
これは鍛冶をする時にも役立ちそうだ。
次に窓際へ置かれている花瓶を見る。
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陶器の花瓶
品質:普通
製作者:地方の陶芸職人
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(なるほど)
物の状態まで分かるらしい。
これだけでも十分すごい能力だ。
◇◇◇
その日の昼。
母エリザが部屋へやって来た。
「アルス、今日も元気ね」
優しく抱き上げられる。
その瞬間、俺はふと思った。
(人も鑑定できるのか?)
もちろん、失礼にならないよう心の中だけで発動する。
(鑑定)
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エリザ・シュゲール
種族:人族
年齢:25歳
職業:伯爵夫人
状態:健康
魔力:A
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(母さん、魔力高いな……)
伯爵夫人だからというだけではなく、もともと魔法の才能もあるのだろう。
「どうしたの?」
じっと見つめていたせいか、母が首を傾げる。
「あぅ!」
慌てて笑顔を作る。
「ふふっ」
母は優しく頬をつついた。
◇◇◇
午後。
「アルスー!」
今日も元気いっぱいの姉エルゼが部屋へ飛び込んできた。
「抱っこする!」
「エルゼ、お淑やかに」
「えへへ」
母に注意されながらも、嬉しそうに俺を抱き上げる。
(姉さんも鑑定してみるか)
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エルゼ・シュゲール
種族:人族
年齢:7歳
職業:伯爵令嬢
状態:健康
魔力:B
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(やっぱり魔力を持ってる)
この世界では、貴族は魔力を持つ者が多いのかもしれない。
「アルス、可愛い〜!」
頬ずりされる。
(苦しい苦しい)
もちろん本気ではない。
力加減はちゃんとしている。
それでも姉の愛情表現は少し激しかった。
◇◇◇
夕方になると、兄アレックスもやって来た。
「アルス、今日は剣術の稽古だったんだ」
木剣を持ったまま話しかけてくる。
(兄さんも)
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アレックス・シュゲール
種族:人族
年齢:10歳
職業:シュゲール伯爵家長男
状態:健康
魔力:B
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(なるほど)
兄は魔法だけではなく、剣術の訓練も始めているようだ。
次期伯爵として、様々な教育を受けているのだろう。
◇◇◇
夜。
家族が寝静まった後、俺は今日の成果を振り返っていた。
(鑑定は便利だけど……)
何でも見えるからこそ、使い方には気を付けなければならない。
人の秘密まで覗くような使い方はしたくない。
必要な時だけ使う。
それが前世から持ち続けている俺なりの信条だった。
そして、もう一つ気付いたことがある。
(魔力操作が少し楽になってる)
三か月、毎日欠かさず続けてきた成果なのだろう。
体内を巡る魔力は以前よりも滑らかで、自然に流れるようになっていた。
(焦らなくていい)
(一歩ずつ積み重ねればいい)
鍛冶も、魔法も、人生も。
積み重ねた努力は決して裏切らない。
そう信じながら、アルスは静かに眠りへと落ちていった。
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