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『伯爵家次男に転生した俺は、前世の知識で世界を変えていく』  作者: バモス
第一章 幼少期編

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第2話 赤ん坊だけど、魔力操作を始めます

 アルス・シュゲールとして生まれてから、一か月が過ぎた。


 俺はまだ寝返りすら打てない赤ん坊だ。


「アルス、おはようございます」


 朝になると、専属メイドが優しく声を掛けてくれる。


 柔らかな栗色の髪を揺らしながら、ベッドの傍へ歩み寄ってきた。


「今日も元気ですね」


「あー」


 もちろん返事は赤ちゃんらしく声を出すだけだ。


(……演技も大事だからな)


 前世の記憶があるとはいえ、生まれて一か月で大人のような行動をすれば大騒ぎになる。


 だから俺は、赤ん坊らしく振る舞うことを心掛けていた。


 おむつを替えてもらい、母乳を飲み、眠くなれば眠る。


 そんな毎日だ。


 だが――。


(さて、今日も始めるか)


 眠ったふりをしながら、意識を自分の身体へ向ける。


 神から授かった能力の一つ。


 《魔力操作》。


 魔力は体中をゆっくりと流れる温かな川のようだった。


(焦らず、少しだけ……)


 ほんのわずかに魔力を動かす。


 右腕へ。


 左腕へ。


 胸へ。


 足へ。


 それだけ。


 魔法を使うわけではない。


 魔力を循環させるだけだ。


 すると、身体の奥がじんわりと温かくなった。


(よし。今日も問題なし)


 前世の知識では、筋肉も反復で鍛えられる。


 ならば魔力も同じではないか。


 そう考えた俺は、生まれた日から毎日、少しずつ魔力を循環させ続けていた。


 無理はしない。


 疲れたらすぐにやめる。


 それを繰り返すだけでいい。


 毎日の積み重ねが、きっと未来につながるはずだ。


     ◇◇◇


「アルスー!」


 勢いよく部屋へ飛び込んできたのは姉のエルゼだった。


「今日も可愛い!」


 ぎゅーっと抱きしめられる。


「エルゼ、お母様が抱き方を教えたでしょう?」


 後ろから母エリザが苦笑する。


「はーい!」


 返事は元気だが、目は完全に俺へ向いている。


「ふふ、アルスは本当にエルゼに懐いていますね」


「でしょう!」


 いや、まだ一か月なんだけど。


 そう心の中で突っ込みつつも、エルゼの腕の中は不思議と安心できた。


 優しく抱いてくれるからだ。


 すると今度は兄のアレックスも部屋へやって来た。


「姉さん、またアルスを独り占めしてる」


「いいでしょ!」


「僕も抱っこしたいよ」


 二人は顔を見合わせる。


 その様子を見ていた母が笑った。


「順番ですよ」


「「はーい」」


 何とも微笑ましい光景だった。


(本当に仲がいい家族だな)


 前世では家族の温かさを失って初めて、その大切さを知った。


 だからこそ、この時間が何よりも尊い。


     ◇◇◇


 その日の午後。


 父カインが執務を終えて部屋へ戻ってきた。


「アルスの様子はどうだ?」


「今日も元気ですよ」


「そうか」


 父は俺の額を優しく撫でた。


「健やかに育ってくれれば、それだけで十分だ」


 その言葉に偽りは感じられなかった。


 跡継ぎは兄アレックス。


 俺は次男。


 だからといって冷遇されることもなく、父は俺にも変わらぬ愛情を注いでくれている。


(この家に転生できて、本当に良かった)


 そんな思いが胸に広がる。


     ◇◇◇


 夜。


 屋敷が静まり返る頃。


 俺は再び目を閉じた。


(今日も少しだけ)


 魔力をゆっくり巡らせる。


 昨日よりほんの少しだけ滑らかに流れる気がした。


 気のせいかもしれない。


 それでも続ける。


 鍛錬とはそういうものだ。


 一日では変わらない。


 十日でも変わらない。


 だが一年、二年、三年と積み重ねれば、必ず大きな差になる。


(焦らない)


(誰にも気付かれず)


(毎日少しずつ)


 それが俺の最初の鍛錬だった。


 赤ん坊には赤ん坊の戦い方がある。


 そしてアルス・シュゲールの長い人生は、まだ始まったばかりだった。



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