第1話 転生、そして新たな家族
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――暗い。
何も見えない。
身体も動かせない。
(……俺は、死んだんだよな)
ぼんやりとした意識の中で、俺は前世の最後を思い出していた。
日本で平凡に暮らしていた青年だった俺は、病に倒れ、長い闘病生活の末に息を引き取った。
もっと生きたかった。
もっと家族と過ごしたかった。
もっと日本刀を鍛えたかった。
そんな後悔だけが胸に残っていた。
その時だった。
目の前に柔らかな金色の光が広がる。
『よく来ました』
優しく、それでいてどこか神々しい声。
光の中から現れたのは、一人の美しい女性だった。
純白の衣をまとい、長い銀色の髪を風もないのに揺らしている。
思わず息を呑むほど神秘的な存在だった。
「あなたは……?」
『私は、この世界を司る神の一柱です』
やっぱり神様か。
俺は素直に納得した。
死んだのだから、不思議ではない。
『あなたは短い人生でしたが、多くの人を思いやり、最後まで懸命に生きました』
「……ありがとうございます」
そう答えると、神は微笑んだ。
『あなたには、新しい人生を歩んでもらいます』
「異世界……ですか?」
『ええ。世界の名は"セレン"。魔法と剣が栄える世界です』
異世界。
前世で小説や漫画では何度も見た世界だ。
まさか、自分がそこへ行くことになるとは思わなかった。
『転生に際し、特典を授けます』
神が手をかざす。
柔らかな光が俺を包み込んだ。
『あなたには――』
『全属性魔法』
『鑑定』
『身体操作』
『魔力操作』
『以上を授けます』
どれも聞いただけで強力そうな能力だった。
だが、俺は一つだけ神へ尋ねる。
「力をもらえるのはありがたいです。でも……」
『でも?』
「誰かを傷つけるためだけには使いたくありません」
神は少し驚いたように目を丸くしたあと、優しく微笑んだ。
『あなたらしい答えですね』
『その心を忘れなければ、この力はきっと多くの人を幸せにするでしょう』
その言葉を最後に、世界が白く染まっていく。
意識がゆっくりと遠ざかり――。
◇◇◇
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
大きな産声が部屋に響いた。
「おお……生まれた!」
「あなた……元気な男の子ですよ!」
目を開けると、そこには見知らぬ男女がいた。
いや、本能で分かる。
この二人が、俺の両親なのだ。
父は端正な顔立ちの青年。
母は美しく、優しい笑顔を浮かべている。
「エリザ、本当にありがとう」
「ふふっ……あなたとの子ですもの」
二人は見つめ合い、嬉しそうに笑った。
(仲がいい夫婦だな)
前世では、こういう温かい家庭に少し憧れていた。
その時、部屋の扉が勢いよく開いた。
「お父様! お母様!」
金色の髪を揺らした少女が駆け込んでくる。
「赤ちゃん!」
続いて、少し年上の少年も部屋へ入ってきた。
「姉さん、走ったら危ないよ」
父が苦笑する。
「エルゼ、アレックス。ほら、お前たちの弟だ」
「わぁ……かわいい!」
少女――エルゼは瞳を輝かせながら、俺を覗き込んだ。
「弟……僕の弟か」
少年――アレックスも嬉しそうに微笑んでいる。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。
(この人たちが……俺の家族)
家族みんなが笑っている。
誰も争っていない。
優しい空気だけが、この部屋を満たしていた。
「名前は決まっています」
母が優しく俺を抱き上げる。
「アルス」
「アルス・シュゲール」
「あなたは今日から、私たちの大切な家族です」
アルス。
それが、この世界での俺の名前。
(アルス・シュゲールか)
悪くない。
いや、きっとこの名前で、新しい人生を歩んでいくのだろう。
前世では果たせなかった夢。
守れなかった時間。
今度こそ、この温かな家族とともに。
魔法を学び、鍛冶を学び、人々の暮らしを少しずつ豊かにしながら。
この世界――セレンで、新しい人生を精一杯生きていこう。
そう、心に固く誓ったのだった。
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