表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『伯爵家次男に転生した俺は、前世の知識で世界を変えていく』  作者: バモス
第一章 幼少期編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/57

第22話 二年間積み重ねた魔力操作

 夜の帳が下り、シュゲール伯爵家の屋敷が静けさに包まれる。


 使用人たちも仕事を終え、それぞれの持ち場で休息を取っていた。


 アルスも寝室のベッドへ入り、目を閉じる。


 もちろん、本当に眠るわけではない。


(今日も始めよう。)


 生まれたその日から、一日も欠かさず続けてきた鍛錬。


 ――魔力操作。


 神から授かった《魔力操作》という特典に頼るだけではなく、自分自身の技術として身につけるため、毎晩続けてきた努力だった。


     ◇◇◇


 アルスは静かに意識を体の内側へ向ける。


 心臓の鼓動。


 呼吸。


 そして、体中を巡る魔力の流れ。


 以前は細い小川のようだった魔力は、今では穏やかな川のように全身を巡っていた。


(ずいぶん滑らかになったな。)


 魔力を右腕へ流す。


 今度は左腕。


 次は足先。


 さらに指先一本へ集中させる。


 そのすべてが、ごく自然にできるようになっていた。


 力任せではない。


 水を器へ注ぐように、優しく、丁寧に。


 それがアルスの魔力操作だった。


     ◇◇◇


(次は同時に。)


 右手へ火属性。


 左手へ水属性。


 もちろん魔法は発動させない。


 属性へ変換する直前で止める。


 少しでも気を抜けば暴発しかねない繊細な作業だ。


 しかしアルスの表情は落ち着いていた。


(大丈夫。)


 毎日続けてきた。


 だから恐れる必要はない。


 火の温かさ。


 水の冷たさ。


 異なる魔力が互いに干渉することなく、静かに循環していく。


(成功。)


 アルスは小さく息を吐いた。


     ◇◇◇


 翌朝。


 朝食の席。


「アルス、よく眠れたか?」


 父カインが優しく尋ねる。


「うん!」


 アルスは笑顔で頷いた。


 母エリザも安心したように微笑む。


「最近は夜泣きもしなくなりましたね。」


「成長した証拠だな。」


 父は嬉しそうに笑った。


(夜泣きどころか、夜は毎日鍛錬してるんだけどね。)


 もちろん、そのことは秘密である。


     ◇◇◇


 午前中は家庭教師リーナとの授業だった。


「アルス様。」


「今日は文字を書く練習をしましょう。」


 木の板へチョークのような白い石で文字を書く。


 アルスはゆっくりと線を引く。


 まだ少し曲がる。


 それでも二歳の子どもとしては十分すぎるほど上手だった。


「素晴らしいですね。」


「手先がとても器用です。」


 リーナ先生が感心する。


 アルスは少し照れくさそうに笑った。


(身体操作の訓練も役立ってるな。)


 細かな力加減も、以前よりずっと上手くなっていた。


     ◇◇◇


 午後。


 鍛冶場ではゴルンが農具を作っていた。


「坊ちゃん。」


「見てみろ。」


 鉄を打つたびに、美しい音が響く。


 カン――。


「良い音。」


 アルスが呟く。


「分かるか?」


 ゴルンは嬉しそうに笑った。


「鉄はな。」


「ちゃんと鍛えられると音が変わる。」


「職人は耳でも仕事をするんだ。」


 アルスは真剣に頷いた。


 前世でも同じだった。


 色を見る。


 音を聞く。


 感触を覚える。


 五感すべてが鍛冶師の道具なのだ。


     ◇◇◇


 夕方。


 父は庭で木剣を振るうアレックスを見守っていた。


「良くなってきた。」


「だが、まだ肩に力が入っている。」


「はい!」


 兄は真剣な表情で木剣を振り直す。


 アルスはその姿を見つめながら思う。


(兄さんも毎日努力してる。)


 誰もが積み重ねている。


 父は領地のため。


 母は家族のため。


 兄は将来のため。


 姉は……元気いっぱいだけど、弟を誰より大切に思ってくれている。


(だから俺も頑張ろう。)


     ◇◇◇


 夜。


 今日も魔力操作の時間がやってきた。


 ゆっくりと魔力を巡らせる。


 二年間。


 七百三十日以上。


 一日も欠かさず続けてきた鍛錬。


 その積み重ねは、誰にも見えない。


 誰にも褒められない。


 それでも、アルスは続ける。


(努力は、いつか必ず実を結ぶ。)


 前世で信じていた言葉。


 そして今世でも、その信念は変わらない。


 派手な魔法を放つことよりも。


 強大な力を見せつけることよりも。


 まずは、自分の力を正確に扱えること。


 それが本当の強さだとアルスは考えていた。


 窓の外では、満天の星が静かに輝いている。


 その星空を眺めながら、アルスは穏やかに微笑んだ。


 まだ二歳。


 けれど、その歩みは一日一日、確かに未来へ続いている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ