第21話 家族で過ごす休日
雲一つない青空が広がる休日の朝。
いつもなら執務室へ向かう父カインだったが、この日は違っていた。
「今日は仕事はお休みだ。」
その一言に、食卓の空気がぱっと明るくなる。
「本当ですか?」
母エリザが嬉しそうに微笑む。
「ああ。」
「急ぎの案件も片付いた。」
「今日は久しぶりに家族で過ごそう。」
「やったー!」
真っ先に喜んだのはエルゼだった。
「お父様と遊べる!」
アレックスも穏やかに笑う。
「父上がお休みなのは久しぶりですね。」
アルスも自然と笑顔になる。
(こういう日も大切だな。)
◇◇◇
朝食を終えると、一家は広い庭園へ出た。
色とりどりの花が咲き、噴水からは澄んだ水音が聞こえる。
庭師たちが丹精込めて育てた庭は、まるで一枚の絵画のようだった。
「アルス。」
父がしゃがみ込む。
「散歩しようか。」
「うん!」
アルスは父の手をぎゅっと握る。
まだ小さな手。
それを父は優しく包み込んだ。
◇◇◇
庭を歩いていると、小さな花壇の前で父が足を止めた。
「この花は知っているか?」
アルスは首を横に振る。
「これは四季花という。」
「春から秋まで長く咲く花なんだ。」
アルスはしゃがみ込み、花をじっと見つめる。
黄色い小さな花びらが風に揺れていた。
(前世では見たことがない花だ。)
優しく香る花の匂いに、自然と笑みがこぼれる。
◇◇◇
一方、その頃。
「アルスー!」
エルゼが元気いっぱいに駆けてきた。
「見て見て!」
両手いっぱいに花を抱えている。
「お花で冠を作るの!」
「私も手伝う。」
母エリザも隣へ座る。
三人で花を編み始めた。
アレックスは少し離れた場所で、その様子を微笑ましく見守っている。
「姉さんは本当に器用だね。」
「でしょう!」
得意げなエルゼ。
家族の笑い声が庭いっぱいに響いていた。
◇◇◇
しばらくすると、エルゼが完成した花冠を持ってきた。
「アルス!」
「はい!」
小さな頭へ、そっと花冠を乗せる。
「似合う!」
エルゼが満足そうに笑う。
母も思わず笑顔になった。
「本当に可愛い。」
父も優しく頷く。
「家族みんなの宝物だな。」
その言葉にアルスは少し照れながら笑った。
(こんな幸せな時間が、ずっと続けばいい。)
◇◇◇
昼食は庭での食事になった。
大きな木の下へテーブルが用意される。
焼きたてのパン。
野菜たっぷりのスープ。
串焼き。
果実ジュース。
どれも屋敷の料理人が腕を振るった料理だった。
「いただきます。」
家族全員で手を合わせる。
父が静かに話し始めた。
「食事は一人でするより、みんなでする方が美味しい。」
「だから私は、この時間を大切にしたい。」
母が優しく頷く。
「私も同じです。」
「家族が笑って食卓を囲めることが、一番の幸せですね。」
アルスはその言葉を胸に刻んだ。
(本当に、その通りだ。)
前世では病気で食事も満足に取れない日があった。
だからこそ、こうして家族と食卓を囲めることが、どれほど幸せなことかよく分かる。
◇◇◇
午後。
父はアルスを肩車してくれた。
「わぁ!」
今まで見えなかった景色が広がる。
庭園全体。
屋敷。
遠くの森。
青い空。
「高いだろう?」
「うん!」
アルスは嬉しそうに笑う。
父も一緒に笑った。
その姿を見ていた使用人たちも、自然と笑顔になる。
「旦那様も楽しそうですね。」
「ええ。」
家令ライムが微笑む。
「これがシュゲール家の良いところです。」
◇◇◇
夕暮れ。
家族は庭園のベンチへ腰掛け、沈みゆく夕日を眺めていた。
誰も急かさない。
誰も争わない。
ただ穏やかな時間だけが流れている。
アルスは家族の顔を一人ずつ見つめた。
父。
母。
アレックス。
エルゼ。
みんなが優しく笑っている。
(守りたい。)
自然と、その思いが胸に浮かぶ。
この笑顔を。
この家族を。
そして、この領地で暮らすすべての人たちを。
そのために、自分はもっと学び、もっと強くなろう。
鍛冶も。
魔法も。
知識も。
すべては誰かを幸せにするために。
そう静かに誓いながら、アルスは夕日に染まる空を見上げた。
穏やかな休日は終わる。
しかし、この温かな思い出は、未来へ歩むアルスの心を、いつまでも優しく支え続けるのだった。




