第13話 鑑定が教えてくれたもの
鍛冶場を見学してから数日。
アルスの頭の中は、鉱石のことでいっぱいだった。
(鉄鉱石も興味深い。でも、一番気になるのはやっぱり砂鉄だ。)
前世では、日本刀に欠かせない素材として扱われていた砂鉄。
しかし、この世界では「質の低い鉄の材料」としか認識されていない。
その認識を変えることができれば、世界は大きく変わるかもしれない。
もちろん、今すぐにできることではない。
今はまだ一歳の子どもなのだから。
◇◇◇
「アルス様。」
その日も専属メイドに連れられ、鍛冶場を訪れる。
「おっ、坊ちゃん!」
ゴルンが笑顔で迎えてくれた。
「今日は鉄を打つ前の鉱石を見せてやる。」
「うん!」
木箱の中には、先日見せてもらった鉱石が並んでいた。
鉄鉱石。
砂鉄。
そして少量のミスリル鉱石。
「触ってみるか?」
ゴルンは危険のないよう、小さな鉄鉱石を俺の前へ置く。
俺はそっと手を伸ばした。
(今だ。)
心の中で静かに念じる。
(《鑑定》)
視界の中に、淡い文字が浮かび上がった。
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鉄鉱石
品質:良
純度:72%
用途:鉄製武器・防具・農具
加工難易度:低
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(純度まで分かるのか。)
思わず感心する。
この能力は想像以上に便利だ。
鍛冶師にとって、素材の品質を見抜けることは大きな武器になる。
◇◇◇
続いて、黒い砂鉄へ視線を移す。
(《鑑定》)
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砂鉄
品質:最良
純度:96%
用途:高品質鋼の精錬に最適
推奨製法:たたら製鉄
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(……やっぱり!)
アルスは心の中で拳を握った。
《鑑定》は、前世の知識が正しかったことを証明してくれた。
しかも、「推奨製法:たたら製鉄」とまで表示されている。
この世界には存在しない技術の名前が表示されるということは、神から授かった《鑑定》が、素材本来の可能性まで見抜いているということだろう。
(砂鉄は価値のない鉱石なんかじゃない。)
(世界最高の鋼を生み出せる素材なんだ。)
胸の鼓動が少し速くなる。
今すぐ試したい気持ちを、必死に抑えた。
◇◇◇
「坊ちゃん?」
ゴルンが不思議そうに首を傾げる。
「砂鉄がそんなに気になるか?」
「うん。」
アルスは小さく頷いた。
「変わった子だなぁ。」
ゴルンは豪快に笑う。
「普通の子なら、キラキラ光るミスリルに興味を持つもんだ。」
「でも坊ちゃんは砂鉄ばっかり見てる。」
それを聞いて専属メイドも微笑んだ。
「アルス様らしいですね。」
(いや、理由はあるんだけどね。)
もちろん説明はできない。
今はまだ、一歳の子どもなのだから。
◇◇◇
屋敷へ戻る途中。
庭の脇を流れる小さな川が目に入った。
太陽の光を受け、水面がきらきらと輝いている。
(もしかして……。)
川辺には黒っぽい砂が少しだけ溜まっていた。
アルスは思わず足を止める。
「どうしました?」
専属メイドが尋ねる。
「あっ!」
アルスは川を指差した。
「川で遊びたいのですか?」
まだ幼い子どもの行動として受け取られたようだ。
「もう少し大きくなったら、一緒に遊びましょうね。」
優しく抱き上げられ、そのまま屋敷へ戻る。
(今はまだ我慢だ。)
焦ってはいけない。
いずれ自由に外を歩ける年齢になれば、川で砂鉄を探すこともできる。
その時まで、知識を蓄えておけばいい。
◇◇◇
夜。
ベッドの中で魔力操作を続けながら、今日の鑑定結果を思い返す。
砂鉄。
純度九十六パーセント。
たたら製鉄に最適。
その情報は、アルスにとって何よりの収穫だった。
(前世の知識と、この世界の素材。)
(この二つが合わされば……。)
世界最高の鋼――玉鋼。
その夢は、決して空想ではない。
必ず実現できる。
そう確信したアルスは、小さく微笑んだ。
まだ始まったばかりの第二の人生。
その未来には、鍛冶の槌音が力強く響いているような気がした。




