序 よくある願望の結末
私の前に現れたそれは、私とそっくりな見た目をしていた。いや、なりたい私そのものだった。お日様が糸になったみたいな金色の髪、今の私より少し大きい目、上向きにくるんと丸まる睫毛、ピンクがかった唇、細い手足、全部欲しかった。だから私は言ったのだ。
「私、あなたの見た目になってみたい」
すると彼女は言った。
「そう? 私はあなたの方が素敵だと思う」
「そんなことないよ」
私があなたになったら、もっと他にできることがあるんじゃないかな。両親に褒められて、友達から注目を集めて、素敵な出会いも訪れる。もしかしたら、まだ知らないような輝ける舞台があるかもしれない。
「じゃあ、あなたが私で私があなたね」
「分かった」
彼女は笑って、腹から四つに割けた。みぞおちを中心に十字に切れこみが走り、真っ赤な肉がのぞく。濡れた赤い壁が私の頬や手に触れて、目の前に肉の終焉が迫る。中心は真っ暗で何も見えない。私はやがて何も分からなくなる。
私の目の前には女の子がいる。見ているとどこか落ち着く印象の子だ。
彼女は言った。
「どうしたの? あなた、ここにいてもすることがないじゃない」
することがない。そうなんだ。そうかも。
「早く、来た道から帰りなよ」
うん、そうだ。この人の言う通り。
私は、私の後ろに伸びる影をたどって歩き出した。途中、何人かに出くわしたが誰も私を見なかった。私も彼らのことをどうでもいいと思った。
私はどこまでも歩いていった。景色はやがて黄金の草原になった。吹く風が気持ちいい。私は立ち止まった。穏やかな気持ちだった。
どれほどそうしていただろう。私の前に一つ光が落ちてきて、人の形になった。
「ああ、ここにいたのか」
その人は言った。男の子みたいだった。きれいな顔をしていて、荒っぽい女の子って言われても納得できる。でも顔つきや身だしなみにきらきらとした命が浮かび上がっていない。要は表情が死んでいる。髪の毛もぼさぼさだ。
「もういいんですね」
「何が?」
私は首を傾げた。
「よく分かんないけど疲れた。ここで休みたい」
「それならもっと先。川を渡ってから休むといい」
その人は笑った。眉根を寄せて唇の端を片方だけ持ち上げる、下手くそな笑い方だった。どこか苦しそうにも見えて、こんないいところで何を苦しむことがあるのだろう、と私は考えた。




