↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御伽話集成ロスト・ゴンドワナ  作者: 祐川 千
3章 呼水を追って
PR
15/33

3-2

 夏ノ谷の内円第三領域である黄金渓は、その名のとおり黄金色の地肌を持つ渓谷である。

 一日のもっとも明るい時刻である。起伏に富んだ黄金の大地は、あちこちで焼きたてのカステラに似た輝きを放つ。林や竹藪を抜け、渓流に出る。さすがに水は透明のようだが、川に沿う小石はどれも鬱金の塊である。ここへ訪れる葦原民はよくこれを金だと勘違いして狂喜するが、別に金ではない。それでも持って行こうとする者もいて、その時は好きにさせていると聞く。

 誰の姿もなかった。ネルソンたちは渓流のそばを歩き、生命を探す。

「見つけた反応はこの辺りだったはずだ」

「特に異常なものは見当たりませんな」

 クエンティンは光環でやや浮き上がり、渓谷の上も覗く。

「黄金渓に生息している幻性生物は気性の穏やかなものが多く、危険は少ないと聞きます。しかし、本当に危険なのは洞窟なのであります」

「そうなのか」

「夏ノ谷はどこも洞窟だらけでありますが、黄金渓には特に多い。それだけでなく、パンサラサに通じる大地でありますから、洞窟の地形が時折変化するのであります。そもそも先行き未確認の洞窟が多くあるのに、さらにまた地形が変わるのでありますから、大変であります。地図職人は夏ノ谷に居を構えて仕事を得てしまえば、一生仕事に困らないなどという噂も聞きますな」

「ふうん。輪廻講の時、案内番が洞窟の中を案内しないのはそういうわけだったんだね」

「その通りであります」

 同班の案内番御用聞きコンビの会話を聞いて、ネルソンは先行きに不安を感じる。

「俺たちはこのまま遭難しやしないよな」

「もう一度探知をしてみたらどうだい」

「残視の術は、毎回確実に痕跡を拾えるわけじゃないんだ。少なくとも俺は、周囲の安全が確実で、誰かに見守ってもらえる状況じゃないと、やる気にならないね」

「ならば、私がこの辺りを偵察してくるよ」

 アルニが舞い上がった。光環を足場に、軽やかに大空へと発つ。あっという間に竹林の向こうへ消えて行った。マッキーが誰にともなく言った。

「アルニさんは頼りになるなあ」

「そうか?」

 ネルソンはまだ彼をよく知らない。クエンティンが訳知り顔をする。

「マッキーはアルニ殿に憧れているのでありますよ」

「御用聞きの中で、彼は有名人なんだよ」

 マッキーは頭をかいた。

「僕よりもちょっと年上なだけなのに、光環も空櫂も上手に使いこなすんだ。虚神への対処も完璧。どんな虚神も上手く還す。この間なんて、ひとりで虚神を五体分も還したんだよ」

「年上って、俺より?」

「どうだろう。ネルソンよりは下じゃないかな」

「俺より下で上級か。それは出世頭だな」

「そうなんだよ。憧れちゃうよね」

「俺は憧れはしないけど」

「長寿の我々がほんの数十年の差を気にしてどうするのです」

 クエンティンは呆れている。

「僕らは輪廻路を守るのが仕事であります。気にするなら、個人の輪廻路への貢献度合いが先でありましょう」

「貢献度合いね」

 渡守の職務は輪廻転生を滞りなく行い、ロスト・ゴンドワナを維持することである。肝心なのは、隣暮(リンボ)にやって来た転生者を次に送り出すという点だ。つまり、極端なことを言うなら、彼らが次にどこへ行こうが構わないのである。律属界と絶属界のどちらへ発とうが、どの幻界に赴いてどんな生を送ろうが、いい。それこそ、虚神になったって構やしないのだ。

「すべては大いなる循環のために、だ。回りさえすればいいんだから、個人の貢献度合いは大して変わらんだろう」

「そういう物言いは良くないよ。僕らロスト・ゴンドワナの生物には、ロスト・ゴンドワナ全体に仇をなすことをしない、みんなの幸せを守るという幸福の誓いがあるじゃないか」

 マッキーが片方の眉を上げた。

「どんなに小さく思える仕事でも、大切だ。誰かの幸せにつながるんだから」

「それはそうだ。だが、よく考えてみてくれよ」

 多くの魂は何度も海に記憶を還し、輪廻路を繰り返し歩み続ける。なぜか。すべては大いなる循環のため。すなわち、幻界群を維持するためだ。そこに生きる魂の幸福は関わってこない。幻界群のシステムと魂のあり方は関係ない。求められているのは絶え間ない運動だけで、魂がどう生きるべきかはほぼ無制限の自由といっていい。

「ここまで自由だと、大海に放り出されたようなもんだぜ。そんな、転生する度にすべてを忘れるような奴らに、何も学ばないまま無垢であれ、純真であれ善であれ、とにかく動けとなんて言葉をかけながらみんなを幸福にしろなんて、酷な要求じゃないか」

「ネルソンは捻くれたがりの当てこすり好きでありますが、一理ありますな」

 クエンティンが認める。

「生きる時が長くなり蓄えたものが増えれば、癖が強くなります。しかしここまで一つの魂のリセットが早いと、当人の生が苦しくなりましょう」

 言えている、とマッキーが肩をすくめる。

「なら、どうしたらいい。肝心なのはそこだよ。一人ひとり、もしくは種族ごとの生き方や役割を決めるのかい。窮屈じゃないか」

「そうでありますよ。ネルソン、そこはどう考えているのでありますか」

 クエンティンが問う。ネルソンは答えた。

「分からん」

「分からんのですか」

「それこそ、上級渡守どののご意見を伺いたいね」

 そろそろ帰ってくるだろうか。

 三人が空を見上げた時、近くの川面に波紋が広がった。

 波紋から水飛沫が散り、骸骨たちが飛び出してきた。人型の髑髏が三十体ほど。どれも漆黒と鮮やかな色を組み合わせた、洒脱な着物を身にまとっている。骸骨たちはあれよあれよとネルソンたちを囲む。手には、青い炎を宿らせる刀や槍といった武器があった。

 マッキーの喉からげ、と音が漏れる。クエンティンがこめかみを揉む。

「ネルソンの術が探知したのは、不浄訪問者でありましたか」

「お前らはなんだ」

 ネルソンが問う。骸骨の中から一体が進み出る。しゃれこうべに兜、大きく開いた胸元には首飾りが八重に連なっている。

 八重首飾りの骸骨は歯を鳴らした。

「俺たちは、ロスト・ゴンドワナ一番の洒落たしゃれこうべ軍団、お飾り団だ。渡守の坊ちゃんたち、悪いが一緒に来てもらうぜ」

「紅台地まで飛んで逃げるには限度があります。マッキー、なんとかできませんか」

 クエンティンが囁く。マッキーは顔を歪めた。

「ダメだ。数だけならまだなんとかなるけど、こいつらは無駄にいい武器を持ってる。僕らじゃあミンチにされて、パンサラサのプランクトンにされちゃうよ」

 またアルニの仕事を増やしちゃう、と泣きそうな彼に、ネルソンは、気まずいよなと返した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。