満悦
十一話目を投稿しました!
インフルが完治した二人はまたいつも通りの日常を過ごすかと思われたが...。
二話投稿できたからちゃんと許してね。
最後まで読んでくださると嬉しいです!
支えて支えられて、無事に家のインフルエンザを撲滅して数日が経ち、仕事をしなければならない日々が始まってしまった。
その数日間は私が倖を誤って幸と呼んでしまうことがたまにあった。その度に「名前、教えがいないね」とか「自分で付けた名前の方が好みなんだね」とか私がもちろん悪いんだけど、間違える毎に鋭いナイフを飛ばしてふてくされてしまう。
三か月ぐらいの間ずっと幸と呼んで来ていた弊害でなかなか直せずついに今日、仕事が終わってゆっくりしていた時に「正座」とだけ言われて心当たりしかない私はすぐに従う。だって...朝も...呼んじゃったから...。
「いつになったら呼べるの?さすがに限界超えてきて呆れてるんだけど」
「申し訳ありません...」
私を床に正座させて、倖はいつも座っている椅子を私の前に持ってきて座わる。もう明確に立場は倖の方が上だというのが分かる状況。私が上だった頃がもう懐かしい。その頃があったかも怪しいけれど。
「そもそも、ずっと思っていたけどなんで私の名前から人偏取った名前なの?」
「...出会った当初のさ......倖が」
「あなた...、今もしかして...」
「違う!それは言い過ぎというか、敏感すぎるというか、とにかく気にしすぎ!」
「だったらそんなに焦って言う必要はないと思うのだけど...」
だって図星だもの...。というより、誘導しているかのような質問の仕方の方が悪いと思うのは私だけ?
「コホンッ、話を戻すけど」
「誤魔化した...」
何かボソッと言われた気がするけれど、それに噛みついたところで私にとって悪いことしか起こらないのは明らかなので無視する。
「その時の倖、とっっっても薄幸そうだったから」
「それで”薄”だけ取ったの?」
「うん」
「......安直すぎない?」
確かに私もそう思ったけども、一般的に仮名なんてものは使い捨てる感じで付けていると私は思っているのだけれど、私は世の親達が我が子に付けるように、そう願って付けた。
「てか、そろそろ足崩していい?痛くなってきた...」
「ダメに決まってるでしょ、まだ起源を聞いただけでどうするのかは聞いてないんだから」
クッションはおろかカーペットも引いていないフローリングの床に直で正座して五分。出不精が関係あるのかは分からないけれどすでに膝とか脛とかが痛い。痛いよ~。
私はこんな状況を早くなんとかして足を救うために苦痛に耐えて頭を回転させるのだけれど、浮かぶのは「呼び慣れるまで待ってて」というありきたりで問題を先送りにするだけの安易な考え。
そもそも原因が分からない...と思っていたけどたった今、私の脳裏をかすめた。確かに、思い返して見れば自分の中でだけど言ってたんだなぁ...。
「ねぇ、さ......」
「...もうわざとでしょ」
頭の中がわぁ~!ってなりながらも言葉を選んで口を開く。
「ねぇ!倖!」
「な、なに?」
「倖は今...幸せ?」
「それは私のした質問と関係あるの?」
「とってもある!」
とても選んでいるとは思えない言葉を勢いに任せて言う。その言葉を受けて倖は顎に手を当てて考えるしぐさをし始める。
私はその答えを名付けたところから待ち続けていたから、倖の口が開くのはまだかまだかと待つこと体感五分。実際は一分経った時、倖はしぐさを解いて私に向き直る。足がそろそろ限界です...。
「十段階で言えば六、七ぐらい」
「......それは幸せっていうことでいいの?」
「うーん...、まぁいいんじゃない?」
はっきりしない返事がきて心がもやもやする。やっと聞けた問いをこのままうやむやにされるのはさすがに許せないと思い、問いただそうとして立ち上がるために足を立てるのだけど、足が痺れていたせいで感覚が無い。そのせいで足の状況を忘れてしまって、たった今前傾姿勢の私はもちろんそんな足で踏ん張れる訳もなく前に倒れる。倒れた先には椅子に座っている倖がいるため、倖の太ももに顔を突っ込む形となった。
あまりに急な出来事に加えて、顔から感じる柔らかさで脳がショートする。私の脳が正常に稼働し始めるのは、私と同様に少し混乱した倖がこの状況にツッコんだ時だった。
「...何してるの?変態」
「ち、違くて...、てかごめん。足痺れて動けないからこのまま聞いて」
「滑稽ね」
こんな状況にしたのは半分ぐらいは倖のせい...だということにして、頑張って顔を上げて、倖と目を合わして
「幸せって感じてるなら、ちゃんと私は幸せですって言って!」
「.........わ、私は...」
なんだか脅しているみたいで嫌だけど、多分倖はこうでもしないと言ってくれそうにないと思う。だって、ここまで一緒に過ごしてきて”幸せ”っていう単語はおろか”幸”でさえものの見事に回避してきている。だからちょっとでも幸せって感じているのなら言わせて、認めさせないと、倖はそのままなのかもしれないって思ったから。だから私の告白にも応えられないかもしれない。
続きの言葉をずっと目を合わして待っていると、急に平手で私の顔を押しのけようとしてきた。
「...もう...いいでしょ。ここまで言えば」
「ダーメ!ちゃんと言って!」
頑張って耐えようとするけれど、力が強すぎて顔が痛い。だけどここを逃したら次の機会なんてある保障がないから、腕を椅子の背もたれに伸ばして巻き付いて耐える。
「そもそも!言ったからって呼び方が改ざんされるわけがないじゃない!」
「言って見なきゃわからないでしょ!」
「じゃあ、なんでそう思うの!」
「そう願って付けたから!そうなっていないから呼び続けるんだって思ったから!」
段々とヒートアップしていってもう騒音で怒られるレベルにまで言い争いをしているけど、正直そんなの今はどうでもいい。この戦いの勝ちは譲れないから。
そうやって押し問答を繰り返していると、重心がどんどん後ろの方に傾いていく。それに私たちは気づかずついに椅子諸共倒れる。私は咄嗟に倖の頭を庇うように抱きしめる。
「痛っ......」
倖の頭を庇って無抵抗に床に落ちて衝撃を受けた腕はもちろん痛いのだけど、それ以上の痛みを与えられたのはお腹。厳密に言うとお臍の少し下。椅子の座る部分の角が私のお腹に勢いよくぶつかる。
「...だ、大丈夫?」
「......」
あまりの...痛さ...に...........。
「ちょっと!?何か言いなさいよバカ!!!」
***
なんか...寝ていたみたいで、目を開けてみたら見慣れない白い天井が映った。なんだか下半身が気持ち悪いけどそれ以外はなんともなく、一旦起き上がろうとしてみたら手が降ってきて押さえつけられた。
「病人は大人しくして!」
と言って倖はナースコールを押した。
あまりに覇気のない声を発しながら、険しい表情を浮かべるというなかなか器用なことをする倖に質問する。
「どうしてこんなことになってるの?」
「...それはこれから来てくれる人が説明してくれる。後、正直今はあなたと話したくない」
「......」
「勘違いしないで欲しいのだけれど、別にあなたに怒っているわけじゃない」
「分かった」
それきり私たちの間には会話は無くなり、呼び出されていた看護師に先生っぽい人が私たちのところにやってきて説明をされた。
まず初めに、私はあまりの痛さに気絶して、倖が救急車を呼んでくれてここまで運ばれた。
そして、その痛みの原因は卵巣破裂って言われたけど、もう少しかいつまむと卵巣にできている嚢胞が外力によって破裂したから激しい痛みが襲ってきたらしい。
それを聞いて私は思わずお腹を押さえる。ものすごく痛そうな表現をされて、今はもう痛みがないはずなのになんだかズキズキと感じてしまう。
あらかた説明を終えたのか二人は退室していった。
私は今日から数日間は病院で経過観察らしい。また仕事が滞る...。というか私はまだ倖に言っていないことがあったんだった。
「ねぇ、倖」
「感謝はしないで」
エスパーなの?救急車呼んでくれたから「ありがとう!」って言いたいんだけど...。というか私のせいなんだから何かを感じる必要ないんだけど...って思っても、自分の話はなんとも思って無さそうなのに私が話に出てくると泣いてしまう可愛い子だから仕方ないか...。
「責任感じてる?」
「.........」
奥歯を噛み締めているように見える。私はなんだか嫌な予感がして倖の手を掴む。
「......離して」
「じゃあ約束して、私が退院するまでちゃんと家で待ってて。毎日お見舞いに来るでもいいけど」
「.........うん」
「あ!ちゃんと五体満足でだからね!」
「...分かってるよ」
私は倖がその約束を守ってくれると信じて手を離す。
「じゃあ、帰っていいよ。もう夜遅いしタクシー帰っていいからね」
「...うん」
そう返事して倖は私のいる病室を退室した。
そこから早く家に帰って安否を確かめたいという焦燥に駆られる数日間を過ごした。その数日間倖は一日もお見舞いには来てくれなかった。それが尚更加速させた。
ものすごく長く感じた数日間は説明をしてくれた先生が「もう退院して大丈夫」だと言ってくれたので、タクシーを呼んで颯爽と自宅に帰ってきた。
「ただいま!」
玄関を勢いよく開けて元気アピールをするために大声で挨拶をする。だけど返事は返って来ない...。倖を探すためにとりあえず高確率でいるであろうリビングに入る。...いない。
この時点で動揺し始めていたけど、どうにかこうにか平静を保ちつつトイレを見て、洗面所を見たときに浴室から水の流れる音が聞こえた。だから早く倖の姿を目に映して安心したいがために突撃した。
そしたら、生まれたての姿の倖がお風呂に入っているを見つけた。よかった...。と思っていたらお湯をかけられた。
「変態」
「安心したくて...つい...」
「そろそろ信頼してくれてもいいと思うけど」
「あはは...、ごめんね...」
「別にいい、...一緒に入る?」
「誰かさんのせいで濡れたし入ろうかな」
荷物を置きに行き、着替えを取りに行き、服を脱いで浴室に入る。インフルに続き、数日の病院での経過観察によってほぼ毎日一緒に入っていたお風呂タイムは久しぶりにしているということになる。
そして、この一週間はおろか二週間足らずの時間はなかなかに目まぐるしい変化を与えた。だから今私が抱く感情は...。
「は、恥ずかしいね...」
「そう?というか、私が洗ってあげる」
「......」
「洗ってあげる」
「...どうぞ」
断っても意味が無さそうなので、もう倖に任せることにした。そうしてされるがままに髪を洗われ、体も洗い終わって一緒に湯船に浸かる。
「浸かるのはすごく久しぶりな気がする」
「そうね」
少しの間沈黙の空気が流れる。それを破ったのは倖。
「......ごめんなさい」
「倖が謝ることじゃないでしょ。どう考えても私が悪いと思うから、私こそ...」
謝ろうとしたら倖の片手が私の口塞いできた。
「だから考えたの、償う方法を」
それに対して言い返すために片腕を動かして倖の手を退けようとしたら、倖が塞がっていない片手で退けようとした腕を押さえる。だけど私にもう片方の腕があるからどうしようもないだろうと高を括っていたら押さえていた腕もろとも押さえつけられた。なんで倖はこんなに身体能力が高いんだ...。いや、私が低すぎるだけかも...。
だけど、私は諦めずにまだ自由である足で抵抗するも難なく足の上に乗られて押さえつけられた。もう私に抵抗する力は無くなってしまった。というか...この状況怖すぎるのだけど...。
「”償う”って言うと嘘吐いてるように聞こえるだろうけど、本当に思っていることだから…」
今、何を言われるのかと倖の目を見て待っているのだけど、この状況が恥ずかしすぎて目を逸らしたくなっている。でもここで目を逸らしてしまったら悪印象を与えてしまうから、恥をさながら犯人を捕らえるときのように抑え込んで見続ける。
「あなた…恵が数日間入院して分かった事があるの」
「……」
「それは......私は恵といる時だけ"幸せ"を感じる事が出来るってこと」
それを聞いて私は目を細める。
「だから…、あなたのパートナーになってあげてもいいよ」
それを聞いて私は目を半分閉じる。
倖は言いたいことを言い終わったのか、それとも私が何か言いたげなのを感じ取ったのか私の身体を解放して、私に寄りかかるように浸かる。さすがにそろそろ抑え込んでいるのが限界なんですけど...。
「なんで上から...」
「ただのツンデレよ」
「自分で言うことじゃない...。でも、今日からよろしくね!私のパートナー!」
そう言って倖のお腹に手を回して抱きしめる。なんだかすごくいけないことをしている気分になって心臓がバクバクし始める。私の胸は倖の背中にぴったりとくっついているため、当然の如くこの鼓動は倖に伝わる。
「よろしく。てか、なんでそんなに心臓が動いてるの?」
「......変な気分になってる...から...かも」
「私を抱きしめて興奮したの?」
「多分...。ごめんだけど先に上がる!だから退いて!」
抑え込まれていた恥が逃げ出して”性”とか”焦”とかの仲間を次々と呼び出してきて私の心を侵食した。だから、私は被害が出ないようにお風呂から上がることしたのだけど倖が退いてくれない...。手とか足で退かそうとしてもビクともしない。
抵抗を止めたら倖が起き上がろうとしたので、やっと退いてくれるのかと思っていたら私に体を向けてまた押さえ込まれた。もう限界な私は目を瞑る。
「あの...退いてください...」
「私、言ったはずだよ?抑え込まなくていいって」
「でも、それは恩に報いるためでしょ?」
「誰もそんなこと言ってないけど」
「......そうだけど」
「そもそも、なんで拒むのかわからないのだけど」
「......」
正直、私もなんで拒んでいるかは分からない。こういう状況になると私の脳は警報のように今じゃない今じゃないと思わせる。だから、倖には悪いのだけどこの場を離れられるであろう言葉を紡ぐ。いや、紡がされる。
「私、退院したばっかりだから上がらせて...」
「......いいけど、逃がさないから」
ものすごく身が震える発言を私に突き刺して退いてくれた。私はそそくさと浴室を出て急ぎ気味でスキンケアしたりとか髪を乾かしたりとかをしてベッドに項垂れる。
ずっと見て見ぬふりをしてきた。だって、倖とそういう事ができる関係になることが無かったら意味が無いことだし、なるとも思っていなかったから。その結果、放っておいてしまったツケが今回ってきた。
さて、どうしたものかと考えようとしたらリビングの扉が開かれた。開けたのはもちろんスウェットに短パンを着たお風呂上がりの倖。早くない?
「それで、なんで拒むのかな?私はいいと言ってるのに」
部屋に入ってきた第一声が先ほど逸らした話題で、なぜかニコニコの笑顔で聞いてきた。私はその笑顔に触れるのは怖いので、気にせずに話を進める。
「私がダメなんだと思う...」
「どういうこと?」
「心の準備が出来てない...みたいな?」
「私が聞いてるんだけど...、じゃあ、心の準備が出来たら言って。それまで私からは何もしない」
「うん。分かった」
数日の経過観察という名の休みをもらったとはいえ、自宅に帰ってきてからまた目まぐるしいほどに私たちの状況が変わった。というかそのせいで今更思うのだけど...。
「私たち、付き合うことになったんだね」
「......今更?」
「いや、もう...最近色んな事がありすぎて...心労が...」
「ふぅん...」
あの”休み”が無かったらもっと心に負荷が掛かっていたのかと思うとこう言っては良くないんだろうけど怪我して良かったと思ってしまう。でも、そもそも怪我をしなかったらこうなることも無かったんだろうけど、今の私が良かったと思えればなんでもいいか。今は何も考えたくない。
しばらく項垂れていると「パンパン」という音が鳴り、その方向に顔を向けるといつの間にかベッドに座っていた倖が太ももを叩いていた。
「久しぶりにどう?」
「...甘える」
ベッドの枕元に倖の太ももを設置して、倖の膝枕とふかふかのベッドを組み合わせた快眠セットに飛び込み、いつかしかの時の膝枕のようにまた見つめ合う。最近見つめ合うことが多いけど、だからといって慣れるわけではない。今も恥ずかしさを抱いている。
「そういえば、あなたのせいで釘を刺すのを忘れてたけど」
「何を?」
「私、ちゃんと”幸せ”って言ったから。呼び間違えないでね」
「それは大丈夫だから安心して」
「どうだかね、いまいち信用できないけれど。あぁ、それと」
「...私に何本刺すの?」
「私より早く死んだら、許さないから」
「......」
「なんでそこで黙るのかな?」
そう言って倖は無言でいる私の頬をむにむにしたり、引っ張たり、つねったりする。
自身を持って「分かった!」って言ってもいいんだけど...、それよりも倖の要望にも応えられて、私たちが幸せだと思える終わり方があることを言おうか悩んでいる。まぁ、文句言われたら言われたらでいいかなと思って話すことにした。
「ねぇ」
「なに?」
答えなかったことに不服なのか言葉に棘があるけど、これから私が言うことに理解を示して取れることを願う。
「一緒に死ねたら...いいって思わない?」
恋愛関連の本を見ていつも思ってた。恋人が死んでしまった時にこれからの人生を一人で生きていくその恋人。私は一人で生きていく辛さを知っているからこそ何故追わないんだろうと思っていた。だからこそ出てきた考え。倖はどう思うんだろう。
「重いね」
「それだけ?」
「うん。だってそっちの方がいいと思ったから」
「そう。よかった」
いつの話になるか分からないけれど、私たちの終わり方が決まった。
「眠くなってきた...」
「私も」
まだ時間はお昼時だというのに何故か睡眠欲が襲ってきた。今日が退院で、今日がたまたま金曜日だから仕事を再開するのは来週の月曜からだから惰眠を貪れる。だから、私たちはベッドに横になる。
「数日ぶりに一緒に寝るね」
「そうね」
「......」
「......」
「私たちってさ」
「うん」
「付き合ってるのに好きとか言い合ってないよね」
「...そうね」
「......」
「...言わないのね」
「ごめん。準備が出来てない...」
「...そう」
私がいつまでもこんな調子だからか、反対の方向に寝返ってしまった。さすがにそろそろ何かしないとずっとこんな感じの雰囲気が続くのかと思うと、少し勇気が湧いてくる。それを力源にして倖の顎に手を添えて、少しこちらに向かせて倖の頬に私の唇を密着させてすぐ離れる。
「お、おやすみ!」
「......おやすみ」
最後まで読んでくださってありがとうございます!
正座ってカーペット敷いてても痛いですよね。だからなんだというのか...。
ぜひ!高評価やポイント、感想をいただけたらとても幸いです!




