明日
王都まで、やっとのことで辿り着いた。馬を走らせに走らせていたのが幸いしたのか一度も魔物に襲われることがなかった。王太子殿下が魔物の出現自体も減っているのではないかと言っていた。魔物が減ったのはやはり魔法使いシュルベルのおかげなんだろうか。
王宮につくと騎士団の面々が迎え入れてくれて、私は馬を預けて大きな欠伸をしてしまった。とりあえず、部屋に入って眠りたい。疲れた、と思っていると王宮から王陛下が出てくるのが見えて慌てて大欠伸を飲み込む。
王陛下がまっすぐにこちらに向かってくる。慌てて膝をつくと、エルム様も膝をつくのが見えた。王太子殿下とテセト王子は立ったままだ。
「テセト!」
「はい!」
「旅は楽しかったか!」
近づいてきた王陛下が大音声でテセト王子に声をかける。テセト王子も王陛下の声の音量に釣られて大声になっている。
「はい!友人ができました!」
「ほう!」
「フューイです!」
テセト王子が私のそばに来て、私の背中を押した。顔を上げると、王陛下と目が合った。
「友人になりました」
王陛下にそう言うと、王陛下が満足げに笑った。それに頭を下げると、王陛下の大きな手が私の頭を撫でてくれた。
「フューイか。いい友人を得たな」
「はい」
「テセト!」
「はい!」
「人生を楽しめよ」
王陛下の言葉にテセト王子が笑った気配がした。やっぱりテセト王子が早く死にたいと思っていたことを、王陛下は分かっていたのだろうか。そうじゃないと人生を楽しめ、なんて言葉は出てこない気がする。やっぱりこの方には敵わないと思わされる。
「ルリアート」
「はい」
「悲願は叶ったか」
「道半ば、といったところです」
次に王陛下は王太子殿下に声をかけ、王太子殿下が静かに答えた。子孫までに続く呪いも完全に解くことが王太子殿下の願いだ。それには楽と踊り、そして私が必要だと言われている。続けていればいつか女神ティアが降りてきてくれるかもしれない。長い時間がかかりそうだ。
「そうか。詳しい話はまた聞こう」
「いくつかお願いがあります」
「いいだろう。それも聞こう。まずは疲れを癒せ」
「ありがたいお言葉ですが、本日中に報告したいことがございます」
王太子殿下の声は頑なだった。確かに呪いのことやこれからのことを考えると一日でも王陛下への報告は早い方がいいかもしれない。明日からテセト王子と私は祈りを捧げることになる。
「そうか。ルリアート、成長したな」
その言葉に王太子殿下が動揺するのが分かった。王陛下から見て王太子殿下は成長したのか。どう言ったところがだろう、と思っていると、王陛下は踵を返して、王宮に向かっていく。その後ろを王太子殿下が慌てたようについていくのを見送って、私は自分の部屋に戻ることにした。
そういえば、ギリウス王子に無事に戻ったことを報告した方がいいのだろうか、と思いながら立ち上がる。
「フューイ、祈りは明日からかな」
「真摯な祈りが大切だとおっしゃってましたから。今日も祈った方がいいのでしょうか」
女神ティアには毎日祈っているけれど、楽と踊りはしていない。それよりも早く王宮に戻ることを優先した。ちょっと休憩したら今日から祈った方がいいのかもしれない。でもその判断は私にはできない。困っていると、王宮の中央の出入り口から人が出てくるのが見えた。誰だろう、と思って見ていると、それがテセト王子の母上であることが分かった。第四夫人だ。隣に立っていたテセト王子が緊張するのがわかる。私は思わず庇うようにテセト王子を後ろに隠した。
「テセト、お帰りなさい」
第四夫人は思ったよりも穏やかな声でテセト王子に話しかけた。その表情は戸惑っているように見える。
「ただいま」
テセト王子も戸惑ったような声で答えた。二人ともとまどっているのかもしれない。第四夫人が戸惑っている理由は、きっと王陛下と王太子殿下があまりにも自然にテセト王子の服装を受け入れているからだろう。そして、テセト王子は第四夫人が思ったよりも穏やかだからとまどっているのかもしれない。
「あなた」
第四夫人が私のことを見る。そういえばテセト王子のことを治してほしいと言われていた。ここでは人の目がありすぎる。
「お屋敷に、明日お邪魔してもよろしいですか」
「え、ええ。構わないわ」
申し出を受け入れてくれたことにホッとして、お辞儀をする。テセト王子が、じゃあ、と言って第四夫人を連れて屋敷の方向に帰っていく。それを見送って私も王宮の中に入ろうと方向を変えたとき、王宮の入り口に新たな人物が立っているのが見えた。ギリウス王子とリャト王子だった。挨拶を、と思ってそちらに向かった。




