再契約
「それから、ライアスに聖女が生まれるようになったのですか」
静かに話を聞いていたけれど、口を挟みたくなってしまった。そう尋ねると、魔法使いシュルベルの声が柔らかく響いた。
「そうです。女神ティアはライアスの民に感謝していました」
「俺が、いえ私がフューイに出会えたのはシュルベル様のおかげですね」
「ええ、あなたは私に祈ってくれましたから」
魔法使いシュルベルの姿は見えないけれど、微笑んでいるのがわかった。優しい目をして王太子殿下のことを見ているのかもしれない。
「ありがとう、ございました。ずっと見守っていてくれたんですね」
「…でも、あなた以外を助けることはできませんでした」
「それでも、私にとっては救いです」
王太子殿下がそう言って両手を組んで額に当てた。その声が震えていて、私も俯いた。呪いが発現した時、王太子殿下はどんな気持ちだったのだろう。暗いところに一人ぼっちになるような気持ちだったのではないか。母さえ恨んだと言っていた。
「楽と踊りを捧げてくれてありがとう。これは私からのお礼です」
その言葉と共に一筋の風が吹き抜けていった。その風が王太子殿下を包んだと思うと、光が差した。
「あ」
光が差し終わったと思うと、王太子殿下が服を捲り上げる。そして腹部を確認した。私は王太子殿下のその姿を見て、悟ることしかできないけれど、呪いが解かれたことがわかった。
「感謝します、これで魔王の呪いは全て解けたと考えて良いのでしょうか」
王太子殿下の問いかけに、魔法使いシュルベルは少しの間沈黙した。
「いいえ、私が解くことができるのはあなたの呪いだけです。魔王の呪いを完璧に解くことができるのは女神ティアだけです」
「…どうか女神ティアに会わせてはいただけませんか。俺はこの呪いを完璧に解きたい」
自分の呪いだけを解きたいわけではない、と王太子殿下が言っていたことを思い出した。子々孫々までの呪いを俺で終わらせたいと言っていた。王太子殿下の顔は後ろからは見ることができない。きっと必死な顔をしているだろう。
「女神ティアに会いたいなら、楽と踊り、そして、フューイが必要です」
「私ですか」
「ええ、あなたの祈りを、女神ティアは好んでいますから」
「もったいないお言葉です」
「女神ティアに通じるのは真摯な祈りだけです。ルリアート、真摯に祈りなさい」
「魔法使いシュルベル、心から感謝します」
私と王太子殿下が楽と踊りを捧げ真摯に祈っていれば、女神ティアはいつか降りてきてくれるかもしれないと言うことだろう。王太子殿下の呪いは解いて貰えたのだから、生涯をかけて取り組む価値があることだ。
「テセト、あなたの笛も素敵でしたよ」
「あ、ありがとうございます」
テセト王子は緊張した声でそれだけ言って、光は徐々に小さくなっていった。魔法使いシュルベルは神の庭に帰ったのだ。王太子殿下が振り返り、私の両手を取った。
「フューイ、これからも王宮に仕えて、女神ティアに祈ってくれ」
「給料は」
「一月で27サルーでどうだ」
「喜んで祈ります」
「意外と金に執着するんだね」
テセト王子の言葉に少し笑ってしまう。意外とではない。私は金に執着する人間だ。
「さあ、帰ろうか」
王太子殿下の言葉に、私も頷いて立ち上がる。ギリウス王子に報告しないとな、と思ってから一番先にギリウス王子が出てくるのはなんなのだろうと思ってしまう。自分のことがよくわからない。




