過去
魔法使いシュルベルの村で魔法が使えるのはシュルベルのみだった。その特別な力を、皆が受け入れてくれた。シュルベルは将来すごいことをする、と村の人が言うたびに、シュルベルは恥ずかしいような誇らしいような気持ちになっていた。
シュルベルが十六を迎えたある冬、村に魔物が出た。村を守ろうとしたシュルベルに村人たちは逃げろと言った。逃げて、きっと魔王を倒してくれ。そう言って匿ってくれた人たちのおかげで、シュルベルは逃げることができた。
数日経って、村に帰ってみると、村はひどい有様だった。村人で生き残っている人間ははおらず、シュルベルは大声を上げて泣くこともできなかった。ただただ、唇を噛み締めて村人たちを一人一人埋葬した。そこに現れたのがカリアスだった。
カリアスは一人一人を埋葬するシュルベルを見て、何も言わなかった。ただ、黙ってその埋葬を手伝ってくれた。なんだこいつ、と思っていたシュルベルも一人、二人、と一緒に埋葬していくうちにカリアスに心を許すようになった。
「魔王を必ずこの手で殺してやる」
カリアスがそういった時、シュルベルはカリアスと共に行くことを決めた。故郷に別れを告げて、足が棒になるのではないかと思うほど歩いた。途中太陽神リオに剣を授けられ、魔王城までカリアスと共に向かった。
旅は楽しかった。けれど苦しかった。楽しいと思うたびに、自分にそんな余裕があっていいのかと自分を責めた。カリアスはそんなシュルベルをいつも励ましてくれた。魔王城で魔王を討った時、カリアスは呪いを受けた。
「子々孫々まで我が呪いを受ける。後悔しても遅いぞ」
シュルベルは呪いを受けなかった。カリアスが呪いを受けて、シュルベルは狼狽した。どうしよう、どうしよう、と繰り返すシュルベルにカリアスは笑いかけた。大丈夫だ、どうにかなる。人生は長いんだから。カリアスは強かった。太陽神リオに呪いは解けないと言われた時も、なんとかなる、と笑っていた。
魔王を倒した後、カリアスがここに国を作ると言った時、シュルベルは大きく頷いた。カリアスの国ならいい国になると思った。それからは二人で働いた。シュルベルは毎日、神に祈るようになった。私にできることならなんでもする、どうかカリアスの呪いを解いてくれ、そう祈っているうちに、シュルベルは治癒の力を授かった。
カリアスの呪いを抑えることができる治癒の力に、シュルベルは涙を流して神に感謝した。そして、毎日、カリアスに治癒の魔法をかけた。そのおかげでカリアスは呪いなどないように生活することができた。
そうしているうちに国は大きくなり、カリアスは美しい女性と結婚した。結婚式にはシュルベルも当然参列し、カリアスを祝った。寂しい気持ちは確かにあったけれど、それよりもカリアスが幸せになってくれることが嬉しかった。
結婚をしてから一年、カリアスに男児が誕生した。美しい男の子だった。子々孫々まで、と言った魔王の言葉をシュルベルは恐れていたが、生まれてきた男の子は呪いを受けていないように見えた。シュルベルはまた神に感謝した。
その男の子が5歳になった誕生日の夜を、シュルベルは忘れることができない。血相を変えたカリアスがシュルベルの元を訪れた。これを見てくれ、と言ってカリアスが男の子の服を捲り上げた。その腹にある黒い汚れのようなものを見て、シュルベルは息を飲んだ。
それは紛れもなく、カリアスにある呪いと同じものだった。
シュルベルが慌てて力を当てると、呪いは消えたかのように見えた。それから三日後、またカリアスが血相を変えてシュルベルを訪ねてきた。その様子を見て、シュルベルは自分の悪い予感が当たったことを確信した。
男の子は呪いを受け継いでいた。シュルベルは呪いを抑えることはできる。でも解くことはできない。解く方法を探しているうちに、カリアスはだんだんとシュルベルに苛立つようになっていった。
呪いを解く方法はわからないのか。ちゃんと調べているのか。私の子どものことなんだ。そう言われるたびに、シュルベルは泣きそうになった。カリアスがシュルベルのことを責めるたびに、治癒の力は弱まっていった。
そして、ついに、あの日がきてしまった。
治癒の力が弱まれば、呪いは強くなってしまう。へその辺りまで進んだ呪いを見て、カリアスは声を荒げた。
「この役立たずが!」
そう言われた瞬間だった。先程まで、晴れていた空が急激に曇り始め、たちまち土砂降りの雨が降り始めた。雷鳴が轟き、その雷鳴は近づいてきているようだった。シュルベルが何も言えずにいると、声が聞こえてきた。
「勇者カリアス、其方を許すことはない。神を怒らせた報い、その身と子孫で償うがいい」
声が聞こえた直後、轟音が辺りを包んだ。そして目を開けていられないほどの眩い光が差した。
「魔法使いシュルベル、そなたをカリアスの元へ戻すことはありません」




