相談
マーロからギリウス宛にフューイから手紙が来たと聞いて、リャトは飛び上がった。いつの間にそんなことになっているんだ、と思いながら部屋を飛び出し、屋敷を飛び出し馬に乗ったリャトが目指す先はギリウスのところだった。マーロがリャト様!と呼びかけながら追いかけてくるのが聞こえて、リャトは安堵した。
今どうなっているのか聞かねばならない。そしてギリウスに最近発見したことを報さなければならない。その使命感でリャトは馬にのり、王宮に駆けつけた。そしてギリウスに面会を求める旨を家臣に伝えると、その要望はすぐに通った。ギリウスの私室には行ったことがない。部屋の前で家臣が立ち止まると、部屋の中のギリウスに声をかける。中から入れ、という声がしてリャトはマーロにここで待ってて、と小声で告げて中に入った。
「兄上」
「リャト、どうした」
「フューイ様からお手紙が届いたと」
ギリウスは机の前に腰掛けて、こちらを見ていた。手には手紙が握られている。推しやそれがフューイからの手紙なのかと、リャトは凝視してしまう。ギリウスが頷いて、リャトに座れ、と長椅子に座ることを促した。
「届いた」
「フューイ様から、自発的にですか」
「…いや、先に送っていたからな」
視線を斜め下に落としたギリウスが言いにくそうにそういうのを聞いて、そうなんだ、とリャトは両手を口に当てそうになった。リャトが思っているよりもギリウスは積極的なのかもしれない。なんて手紙に書いたのですか、それでお返事はなんと、と尋ねたくなるのを我慢してリャトはギリウスの次の言葉を待った。
「元気か、無事か、と手紙を送った」
「はい」
リャトは自分の胸が高鳴るのを感じていた。リャトにとって初めての恋の話である。ギリウスはリャトと視線を合わせないまま、斜め下を見つめている。
「元気です、気にかけていただけて嬉しかったです、と手紙には書かれていた」
「すごくいいじゃないですか!」
リャトはそう言って長椅子から立ち上がった。気にかけていただけて嬉しかった、とフューイが言っているのだ。これは色よい返事と言ってもいいのでは、と思ってしまう。
「いいのか」
「いいですよ!…だってフューイ様が嬉しかったと言っているのですから」
そこでリャトは息を吸い込む。
「いいですか、兄上。恋愛において一番してはいけないのは相手の心を無視して行動することです。相手が嬉しいと思うことを積み重ねていけば自然と距離は縮まるものなのです。強引な駆け引きが功を奏する場合もありますが、あれは恋愛小説だからです。現実では一歩一歩確実に相手との距離を詰めていかなければなりません。その点、兄上の今回の行動はフューイ様のことを心配して起こしたことでとてもよかったと思います」
そこまで一気に言い切ってリャトは長椅子に座り直した。全て最近読んだ恋愛小説に書いてあったことだ。でもリャトには自信があった。呆気に取られた様子でリャトのことを見ていたギリウスが、ポツリとそうか、と呟いた。そして手紙を読み直して破顔する。
「よかった」
傾国の笑みだ。この笑みを他の人の前でさせてはいけない、とリャトは思った。
「なんと返事を?」
「困っていることはないか尋ねるつもりだ」
「完璧です。兄上」
リャトは力強く拳を握りしめた。ギリウスは恋愛における最も大切な相手を慮ることが自然とできている。これはもう自分がどうこう進言しなくてもいいのではないか、とリャトは思った。
「礼を言う、リャト」
「え?」
「どうすればいいか困っていた」
ギリウスにそう言われて、リャトは微笑んだ。そうだ、恋愛小説の主人公たちも恋愛においては小さなことで悩んだり、泣いたりしていた。ギリウスには幸せな恋愛をしてもらいたい。少しのことでも自分が相談相手になればいいのだ、リャトはそう思った。
「なんでも相談してください」
「ああ、助かる」
本当に助かっていそうな声音でそういったギリウスにリャトはより一層優しく微笑みかけた。




