助け
迷った末に手紙には元気なこと、手紙が嬉しかったことを書いた。侍女に手紙を渡してから夕食を食べて、私はすっかり安心しきっていた。そんな時に、また扉がノックされた。誰だろう、何か手紙に不備があったのかな、と思いながら部屋の扉を開けると、そこに立っていたのはテセト王子だった。
「や、ちょっと話せる?」
「どうぞ」
お礼も言いたかったしちょうどよかった。テセト王子は椅子に腰掛けて、私もその向かいに座る。
「今日は助けていただいてありがとうございました」
「いいよ、気にしないで。兄様も不器用なところがあるってわかって楽しかったよ」
その言葉にやっぱり助けてくれたんだ、とわかった。リャト王子も賢い人だけれどこの方も聡い方だ。テセト王子は両手を組むとその両手を机の上に置いて身を乗り出してくる。
「それで、フューイは兄様の気持ちに応える気はあるの」
「王太子殿下の気持ちですか」
「そう」
王太子殿下の気持ち、と言われてもしかして、と思い当たる。私にその気がなくても王太子殿下にはあるのか。そう思ってから否定したい気持ちになった。そんなことがあるわけがない。王太子殿下と私は呪いで繋がっているだけだ。
「王太子殿下は」
「フューイのことを憎からず思っているんじゃないかな。もしもフューイにその気持ちが全くないなら、僕からそれとなく伝えておいてあげるよ」
「テセト王子は、王太子殿下と私では身分の差がありすぎると思いませんか」
私がそういうとテセト王子は目を見開いた。そして、柔らかく笑う。
「そんなことを気にしていたの?身分の差なんて呪いに比べれば大したことはない。あなたは兄様を呪いから救える。それだけで大きな価値だ」
「そうですか」
それを聞いても気分は晴れない。晴れないどころか何故か頭の中に浮かぶのはギリウス王子のことだった。なんだこれ。どうしたんだ。私が勝手に戸惑っていると、テセト王子がふふっと笑った。
「どうかされましたか」
「いや、兄様には幸せになってもらいたいけれど、あなたを困らせるつもりはないんだ」
「…自分の気持ちがわかりません」
「そっか。そう急ぐ話でもないし、ゆっくり考えたらいいよ。兄様には僕からあんまりジロジロ見るのはやめるように言っておくよ」
「テセト王子」
「何?」
「ありがとうございます」
お礼をいうとテセト王子は笑う。そして前のめりになっていた体勢を変えて、椅子の背もたれにもたれかかる。
「テセト王子はお優しいんですね」
「優しいかな」
テセト王子はそう言って不思議そうな顔をした。自分が優しく聡いことに気づいていないらしい。
「今日だって助けてくれました」
「それは、あまりにもあなたが困った顔をしていて、兄様の顔が怖かったからだよ」
「でも気づいて行動に移せる方はそう多くはないと思います。テセト様はお優しいです」
「そうかな」
テセト王子がほおを指先でかいた。褒められ慣れてないのか、照れているように見える。そういえばテセト王子の母親はテセト王子のことを治したいと言っていた。治せるものなのだろうか、という疑問が浮かんでくる。あの時は場当たり的に治すと言ったけれど、テセト王子は女性ものの服を着ているだけでどこかが悪いわけでもない。それどころか、一緒に旅をしている女性の表情の変化に敏感に気づき、その原因が兄にあると分かればその間に入る優しさを持っている。
彼に治さなければならないところは見つからない。
「それじゃあそろそろ失礼するね」
「気にかけていただいてありがとうございました」
「気にしないで」
テセト王子が出ていった扉を見つめて、なんとなくギリウス王子はテセト王子のことをどう思っているんだろうと考えた。どうしてそこでギリウス王子が出てくるのかは、自分でもわからなかった。




