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呪われ王子と金次第聖女※第三章完結  作者: まる
第三章

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味方


リャトはぼんやり空中を見上げて、ため息をついて視線を下げた。


さっきから同じことを繰り返していて、目に入る景色は変わっていない。机に広げられているのはアルルの地図と古代アルル語の本だった。


今日王太子である兄のルリアートとお付きのエルム、表向きはその侍医のフューイ、そしてテセトが旅立った。リャトもついていきたい気持ちはあったけれど、それが無理だろうということはわかっていた。


古代アルル語の本を広げていたのは、今朝フューイに頼まれた短剣の鞘当ての解読が間違ってないかを確認するためだ。確認するとやはり間違ってはいなかった。それに安堵したけれど、それよりも気になったのは鞘に施された加工だ。あれは古代アルル語を変形させたもので、ちゃんと意味を持っている。


あれは、恋人に贈るものだ。


自分以外で古代アルル語に造詣が深く、かつあの精緻な鞘の加工を施す財力を持っている人間を、リャトは一人しか知らない。だから、リャトはずっと空中と机上で視線を彷徨わせている。リャトはもしもその方が本気なら、というか十中八九本気だろうが、助力を惜しまないつもりでいる。暗闇の中で蹲っていた自分に声をかけて励ましてくれた兄に今こそ報いる時だ。でも、助力の仕方がわからず、それに加えて兄の思い人は、ほかの兄の思い人の可能性がある。


「どうすればいいのでしょう」


古代アルル語の本を閉じて表紙を撫でる。革張りの本は固く冷たい。凝り固まっているように見えた兄の心を溶かしてくれたのがフューイなら、リャトは本当に良かったと思うのだ。


「邪魔をする」


後ろからかけられた声に飛び上がるほど驚いた。慌てて本を抱きしめて振り返ると、そこにはずっと自分が考えていた人物、ギリウスがいた。ギリウスの顔は無表情だ。黒い髪に青の瞳。王太子であるルリアートと全く同じ色を持っているのに、ギリウスの方が美しいと、リャトはずっと思ってきた。


「あ、兄上」


ギリウスは長椅子に腰掛ける。リャトも急いで向かいに座る。用件があるのだろう。今朝のフューイのことだろうか。そう思ってギリウスのことを窺うと、マーロが部屋の中に入ってきた。


「お茶をお持ちしました」

「あ、ありがとう。マーロ」


マーロは机にお茶を置くと、両方のカップに注いでそれから失礼します、と言って出ていった。相変わらず空気の読める臣下だ。ギリウスはそのカップを睨みつけるように見ていたけれど、ため息をついてからカップに手を伸ばした。それに倣ってリャトも手を伸ばす。

紅茶は湯気をたてていて、口元に持ってくると果実の匂いが鼻をくすぐる。リャトの好きな茶葉で淹れてくれたらしい。


「フューイがお前のところに来ただろう」


ギリウスがひとくち紅茶を飲んでからそう言った。カップを置く流れるような所作も美しい。リャトもカップをおいてギリウスを見る。その視線でリャトはギリウスが全てを分かっているのが分かってしまった。


「じょ、助力をします!」


リャトが思わず立ち上がると、ギリウスはそんなリャトを見て今まで見たことのない困ったような顔で笑った。それを見てリャトは胸が苦しくなるのを自覚した。


「リャト、いいんだ。フューイは、兄上の」

「そんなことありません!」


飛び出した言葉は吃っていなかった。自分でもそれに驚きながら、リャトはそんなことありません、ともう一度呟いて椅子に座り直した。フューイは王太子であるルリアートの恋人ではない。いや、よしんば恋人であったとしても婚約も結婚もしてないならなんとでもなる。リャトは案外、図太かった。


「フューイ様はまだ婚約も結婚もしておりません。なんとでもなります」

「リャト」

「兄上、僕は兄上にしあわせになってもらえるならなんだってする覚悟です」


ギリウスが驚いた顔でリャトを見る。リャトは自分の目に涙が浮かんでくるのを自覚していた。リャトはギリウスが優しいことを知っている。努力をしてきたのだって知っている。そんな兄上に幸せになってもらいたいと思って何が悪い、そうリャトは本気で思っている。


「リャト、吃る癖が治ったな」


ギリウスがそう言ってリャトを見て微笑む。傾国の微笑みだ、とリャトは思った。滅多に見せてくれないからこそ価値がある。そして、リャトは自分の吃る癖が治っていることに気づいた。


「兄上のおかげです」

「そういうことにしておいてもらおうか」


リャトの吃る癖はずっと治らなかった。それが気持ちが言葉よりも先にきて治ってしまった。あとでマーロに知らせよう。泣いて喜んでくれるかもしれない。


「兄上、兄上に幸せになってもらいたいのです」

「…なれるだろうか」


こんなに弱気なギリウスをリャトは初めて見た。そして猛烈に応援したくなっていた。ギリウスは視線をリャトから外して、机の隅っこを見つめている。リャトは思わずギリウスの両手を取った。


「フューイ様に好きになってもらえるように頑張りましょう。僕も助力いたします」

「…頼む」


ギリウスの絞り出すような声にリャトは今日から恋に関する本を全て読むことに決めた。

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