罪と罰
部隊長ちゃんが俺の個人スキルを眺めて、同情に満ち溢れた顔をしていたが気にしない。もうそんな顔見慣れた。
「ステータス更新したぞ」
「それではついて来て貰おうか」
そう言って彼女は立ち上がり、優雅に青髪を揺らした。そんな姿を見てイーリスが地面に唾を吐く。
「どうせ裁判なんてまともじゃないですよ。痴漢冤罪のごとくあくどい汚名を与えてポイです」
同意である。だが口にしても仕方ないので黙って連れていかれることにする。
裁判所などと言うものだからてっきり仰々しい建物があるかと思えばそんなことはなく、どことも知れぬ平凡な長閑な町並みが周囲に広がる広場であった。
急いで適当に作ったような傍聴席に、挑発的なまでに物々しいギロチン。裁判長がいるような席も用意されており、まるで中小企業の中間管理職の人みたいな、冴えない顔の、ハゲかかった頭をした男がいた。ハゲているのだから被ればいいのに、手には魔術師の帽子のようなものを持っていた。
「これより裁判を始める! え~、被告人であるリーゼロッテ・フォン=アルトゥール・エルリック、コヅカカイト、イーリス・ラ・ピュセル、3TIA、ヴェーダ・クランベベリ、ヴェネッティア・イヌミーミ、クレア=ショートアイリスには現在国家反逆罪と貨幣偽造、それとさきほど調査員の連絡によって新たに悪魔不正取引法違反の容疑が掛かっています」
淡々と全員の名前を言い、罪状を発する。考えるに、フィティーの行動によって暴走したゴーレムや偽の通貨の罪が全部俺達に向かったのだろう。しかし彼女が悩み、苦しんでいたのを誰よりも見ていたであろう、リーゼラヴなイケメン君が声を荒らげた。
「リーゼロッテ様は市民の生活を守るために独りでフィティーに不平等な契約を結ばされただけだ!!」
しかし中間管理職は動じない。慣れた様子で面倒臭そうに睨みつけて、淡々と声を発した。
「現在被告人の発言は許可されていません。控えるように。それと今の発言は悪魔不正取引法違反を認める発言ですね。えー今日の午前1時半頃、アルトゥリック産の警備ゴーレムが全機暴走する事件と、100レグルス金貨の偽造貨幣が発見されました。貨幣は商人達の記録を辿るにすべてアルトゥリックから偽金貨が出ていることが証明されています。何か言い分はありますか?」
「そもそもゴーレムの暴走も偽造貨幣もフィティーとかいう悪魔? 魔王の部下? とやらが計画してやっただけだろ。リーゼはそれに巻き込まれただけの被害者だ」
無駄な気はしたが、それでも言わずにはいられなかった。まぁ最悪、全部リーゼがやりましたと言ってしまうとして、それでもフィティーの所為で苦しんでいた彼女の姿を見てしまったからには抗議せざるをえないのである。
あぁ、なんて優しいのだ俺は。しかしこんなふざけた世界でも共通した一つの事実がありまして、それは現実は非情であるということだ。
「行動には責任を伴う。そこに悪意や善意は関係ない。確かに悪魔が人間を貶めようと画策していたのは事実であるが、それに利用されて被害を拡大させてしまったのだから、裁かれなければならない」
「機械じゃないくせにいちいち機械みたいに面倒臭い喋り方しますねこいつ」
機械のくせに機械らしくないティアがぶつぶつと愚痴垂れて、口をへの字にしてハゲ頭を睨んだ。
「結局はアルトゥリックは経済が崩壊した。それは逃れられない必然的事象であり、そこに自由意思を持つべきではなかった。結果として首都のインフラは大打撃を受け、偽造通貨によって金貨の信用が落ちてパニックだ。許されることではない」
男が尊大な態度でもって、しかしティアの言うとおり作業的な声で語る。その言葉が空気の振動となって耳に入れば入るほど、リーゼは表情を険しくして、自責していた。対してイーリスはプルプルと拳を震わせて、憤りを露わにしつつそれを堪えているようだったが、やがて何かやばいものがプッツリと切れる音がした。
次の刹那、ダン! と勢いよく机を叩きつける音を響かせて、イーリスが声をあげた。
「このハゲ! 違うだろォ! 違うだろー!! 違うだろォッ!! ……倒したじゃないですか! 敵の! どうして魔王軍の将軍の一人を倒したのにそれに関しては何も言わないんですか!? そういうのが嫌いなんですよ私は!」
ぜぇはぁと、珍しく……かどうかはいまいち断言できないが、イーリスは顔を真っ赤にしてそう訴えた。あんなに必死な表情を見たのはスカートを脱がせたとき以来だろうか。が、中間管理職っぽい男は動じない。
「……名誉毀損の現行犯を追加する」
――――改めて言おう。現実は非情であったと。
「では判決を下す。名前を呼ばれた者は前に出よ。この刑決め帽子が判決を下す」
中間管理職みたいな男が手に持っていた帽子をリーゼに被せる。するとその帽子は生き物のようにむくりと動き、曖昧な口を開いた。……なんで死刑になるかどうかという重要な問題なのにまるで魔法の世界のクラス分けみたいな方法なのか。俺には理解しかねる。いつスリザリン! と叫ぶか見物じゃないか。
「コヅカカイト! 前に来なさい」
逆らっても仕方ないので俺は言われたとおりにして、若干カビと加齢臭のするその帽子を被る。
「鑑みて通常であれば死刑一択だが。んん、難しい、こいつは難しい。勇気に溢れておる。頭も悪くない。才能もある。そして、自分の力を発揮したいと心の底では願っておる。英雄の才能がある。だが同時に強欲で、理性よりも欲望が強く、世界を揺るがす凶悪な存在にもなりうる。けれども下手に殺しても蘇りそうな運命力がある。さてどうしたものか」
帽子様が悩んでおられた。部隊長ちゃんや中間管理職はそれに口を出すこともなく、じっと結論を待っていた。
「死刑はあかん……。今ヨミに会ったらなんかまずい気がする……。死刑はダメだ。死刑はダメ」
「おぉ、死は嫌なのか。いいのかね? 死は美しいものだ。誰にでも等しく訪れる終わり。君はそんな死に好かれている。その素質は十分に備わっておる。死刑になれば、間違いなく神への道が開けるのだが、嫌かね?」
ヨミちゃんに会いたい気持ちはあるが、正直今ばかりは恐怖心が勝っている。ヤンデレ……とでも言えばいいのか。死の象徴がヤンデレって一番なっちゃいけないと思う。もう少し時間をおいてからゆっくりとイチャイチャしたい。
「お願い、どうか、死刑は本当マジでやめてください。死刑だけは!」
「それでも嫌というならば……それならば、流刑!」
――――《流刑》罪人を辺地・離れ島などに追いやる刑罰。流罪。島流し。他の皆もなんだかんだと理由を付けられ、全員仲良くグレートインディラリアなどという場所へ出荷されることとなった。奇跡的な何かが起こって無罪になったりはしてくれなかった。




