連行
――――どなどなと、手枷が揺れる、憂鬱だ。
「ダメですねよ~カイト、ちゃんと季語を入れないと」
イーリスがガチャガチャと手錠を鳴らしながら、軽やかな声でそう言った。しかし表情は前世に何かあったんじゃないかと思うくらい怨嗟に満ちていて、馬車……否、恐竜のようなモンスターが車を引っ張っているので竜車とでも言おうか。その竜車を操舵する女の人を睨みつけていた。
今この場にいるのは俺達のパーティとイケメン君のパーティである。全員が共通して手錠と、スキル封印の薬とやらを飲まされていた。
「アハハ……もう駄目っす。全部あたしの所為っす。どうしよう……死刑にされちゃうんすかね……」
リーゼが金の瞳を虚ろにして竜車に取り付けられた格子窓をぼんやりと眺める。この車の内装は酷く簡素で、まるで牢獄である。イーリスはそんな彼女を励ますように団栗眼を輝かせながら誰よりも物騒なことを吐き捨てた。
「大丈夫ですよリーゼ! 私、こういう裁判っぽいの本当に大嫌いなんで最悪のことがあったらお父さんに頼んで全員皆殺しにしますよ。もう火炙りにされたくないですし」
そういえばイーリスも、ヨミのように元々は俺のいた世界の人? もしくは動物だったのだろうか。一体何をしたら火炙りにされるのだろうか。いささかなぞである。
「そうだ大丈夫だぞリーゼ。死んでも次の世界があるから」
俺は俺で、どうしてこんな励ましにもならない発言をしたのだろうか。次の瞬間後悔した。イケメン君がそれこそ視殺できそうなほどの眼力でこちらを睨む。
「……リーゼロッテ様を恐がらせるな。……くそ、結局これでは追憶のポーションが…………」
ああ、約束のブツが手に入らない事態になってしまったからそれが憂鬱なのか。確かにやってることはある種の生殺しで同情するが、俺にこれを打開する力はない。
――――そもそもこんなことが起きたのはアリアージュを倒したその日の早朝であった。機械竜と運命を共にしたフィティーとやらを滅したため、俺達は街を救った救世主としてその夜を過ごしたのだ。
ヨミに何か異変があったとはいえど、わざわざ自分らが主役の祝いを断る理由もなく、エロい店の店主からお礼に素晴らしい追憶のポーションを貰って、リーゼが錬金術で人体実験を兼ねて作ってくれた料理を食べて騒いでいた。
家無き子でもあるので俺達はリーゼの家に泊まった。やや崩れているがまるで豪勢なホテルで、非常に満足である。
ところが、そんな僅かな平和も一瞬にして崩れ去ったのである。
「リーゼロッテ・フォン=アルトゥール・エルリックとその仲間だな! 我々はレグルス王国治安維持部隊だ! 貴様らを国家反逆罪および貨幣偽造の容疑で連行する!」
…………と、言うわけで捕まった。意外にも警察のような役割を果たす騎士達はその名とは裏腹に盗賊のスキルを習得しており、秒で武器が奪われ、二秒後には【バインド】されていた。習得してしまえば盗賊でなくても威力は弱体するけど云々かんぬんだと竜車のなかで暇つぶしついでに教わったが、正直頭に入ってこない。
結構な時間をガタゴトドナドナされており、治安維持部隊とやらの隊長かつ、竜車の操舵者である白を基調とした制服を着た、ツリ目の蒼髪の美少女(胸が大きい)を時折説得していたのだが、やはり効果はなかった。
「いや~にしても可愛いですね。治安維持隊長様は。どうか寛大なお心を持って聞いていただきたい。俺達はフィティー・ホーエンハイムとかいう悪魔の策略を止めただけなんですよ。むしろ街を、国を救った英雄なんですって本当に。エロイ店の親父とかにちゃんと事情聴取してみてくださいよ。きっと俺の言ってることが真実だって言ってくれますよ」
雑談に一旦飽きたので、俺は部隊長様々に媚び諂い、ごまをする。この人、口調と目付きが怖いからかあまり可愛いと言われることに慣れていないようで、可愛いという言葉に面白いほど反応を示し、顔を真っ赤にして睥睨してきた。
「可愛くない。お世辞は止せ。それに裁判は我々では行なわない。窃盗だろうが国家反逆罪だろうが全てはボウシ様が決める。我々はただ命令をこなすことしかできないのだ。諦めてくれ」
ちなみにこれで諦めてくれと言われるのは7回目である。内心、諦めているのだが、リアクションが面白いので思い出したときに可愛いと言ってあげている。これの面白いところは俺が可愛いと言うたびに、隣でリーゼが舌打ちをすることである。
なんだかハーレムみたいな気分で嫌いじゃない。オマケ程度にイケメン君の機嫌が良くなる。俺がリーゼに嫌われることこそ、彼にとって理想の未来なのだろう。
「にしても暇ですね。カイト。しりとりでもしません?」
捕縛されてからプログラムアップデート中です、などとのたまい空色の瞳を虚ろに輝かせていたティアが、ようやくアップデートとやらが終わったらしく、いきなりしりとりを持ちかけた。
「……しりとりとか。お前あれだぞ。それ暇つぶしの末期症状だぞ。まぁいいけど」
「ではしりとりのリからですね。リール」
瞬間、彼女の雪のような髪が靡き、邪悪な笑みが彩られる。俺はその一瞬で彼女が本気であることを悟った。
「やっぱ止めよう。お前あれだろ。林檎とかゴリラとか言わずにゴール、パールとか言っていく奴だ。嫌われるぞ」
冷静に俺が棄権表明をしたとき、都合のいいことに竜車は走るのを止め、部隊長ちゃんがムっとした表情で告げた。
「着いたぞ。これから即座に裁判を行なう。ただしその前に冒険者カードの更新をしてもらう決まりになっている。死亡した際、墓に入れるからな。最新版がいいだろう?」
「嫌な理由だなぁ……」
そうは言いつつも、強制らしいので俺は針を受け取って指に突き刺す。あぁ、初めてこの世界に来たときは針を刺すのも怖かったはずなのに、なんだか躊躇いがなくなってきたのが改めて実感できた。……単純に【虫の心身】のおかげかもしれないが。
ともかく、ポタリと数滴の血の雫をカードに落として、それを部隊長ちゃんに渡す。すると魔術的な赤い光が弾けて更新されたらしいカードを渡された。
レベルは多少だが上昇しており6に、しかし変わったステータスは器用ぐらいで、それもD+などといういまいちな表記であった。幸運Sも個人スキルの所為で疑わしくある。そんなスキルであるが前までは読めない状態であったはずの【御三狐】の続きが文字として読解可能になっていた。
『【御三狐】あなたは敵を倒した際、確率で特定のエネミースキルのみ習得可能になる。代償としてあなたは――――異性に対して格好いい言動、行動を取り好感度を露骨に稼ぐような行動をした際、あなた達は過酷な運命に付き纏われる。また、英雄的行動を取ろうともそれが一般大衆に認知され、勇者として評価されることは決してない』
その代償はヨミのあまりにも明確な俺への好意であり、同時に全てを拒絶し、唾をつけさせないようにする悪意であった。もしかすると、この裁判とやらに巻き込まれた原因はリーゼではなく俺なのでは? そんな疑問がにわかに生じたが、黙っておけばバレないので言わないことにした。




