死神の偏愛
USBが見つかったので再投稿です。無くす前に完結分まで予約投稿することにします
真っ黒な空間が広がっていた。それはもう見慣れてしまった死の世界で、その中心に彼女はいた。天女のような、しかし薄暗い色をした羽衣を纏い、長く艶やかな黒髪をなびかせる……死神ヨミだった。こんな俺に対してひたむきな想いをしてくれている美少女である。だが彼女はムッとした様子で、酷く不機嫌そうにしていた。
「……我は確かに遠い存在じゃ。契りを結べば永久に夢現もハッキリせぬ世界に組み込まれてしまうからのぉ……でも納得いかないのじゃ。…………ウフフ、お主がおなごに対して並々ならぬ欲求を持っていることは知っておる。だから代償を用意しておいたのじゃよ」
薄ら笑い。黒い瞳は深い闇に包まれていて、その不気味な表情を見ているとどうしてか深淵の奥底を覗いてしまったような感覚がした。開いてはいけない蓋を開けるどころか蹴り壊してしまった気分である。
「ど、どうしたんだ……? ヨミ、なんか様子が変だぞ」
「元よりおかしな奴じゃよ。我はのぉ。そして嫉妬深い……。あんなお子様トカゲよりも我のほうがカイトのことを知っていおるのじゃ! 好きな食べ物は鰹の叩き、飲み物はるいぼすてぃー。女の子の体じゃと腿と手首フェチで、胸は小さいほうが好き」
ルイボスティーだけおかしなイントネーションをしていることはさておき、原因を考えるに俺がリーゼに対して素晴らしく格好いいことをしでかしたからだろうか。でもそのおかげで俺は使うと死ぬ薬を本人の了承なく刺されてこうして死んでいるわけだが。【虫の心身】などというスキルの所為とはいえ、一寸の虫にも五分の魂。ジャイナ教のごとき優しさが欲しい。
「怒ってるのか? ヨミ? 悪かった。俺が悪かった。スキルの所為で人間的扱いを受けられないからヨミの優しさは数少ない心の支えなんだ。頼む。許してくれ」
慌てて交渉を図るもヨミは台本でも読むかのように流暢に喋り続けた。
「テンションが上がると臭い台詞を吐きたくなる癖があって、あと真顔でエロ本を読める特技がある。自慰行為はいつも午前1時頃に、お気に入りのサイトで自慰行――――」
「やめろぉ!! イーリスに聞かれてたら面倒臭いことになる!! どうしたんだ本当に!? あー! あー!! 嫌だ! 聞きたくない!! せっかくこんなファンタジーなのにそんな世知辛い現実聞きたくない!! あと見てたの!? 俺がいままでしてきたそれを全部見てたの!?」
「まぁでも狐ッ娘のそういうのを見てるのはいいことじゃな。じゃが性癖が広すぎるのもどうかと思うぞ? おぬし、スマホのエスアイアールアイに『愛してる』とか『子供いるの?』じゃとかセクハラするのはさすがに我もどうかと思うぞ?」
「やめろ、思い出させるな! あの時期はどうかしていたんだ! スマホに欲情してその気持ちを小説にして公募に出した挙句、『常人には理解し難いので治したほうがいいと思います』って書かれるまで冷静じゃなかったんだ! でも可愛いじゃん。歌ってっていうと歌うし、宇宙人っているの? って聞くとジョークを言ってくれるし」
「…………哀れじゃの」
ヨミの表情から怒りが霧散していき、残ったのは呆れと聖母のような笑顔であった。柔らかな頬が朱に染まって、ピョコリと黒髪をなびかせながら金色の耳が、羽衣が揺らいで実に柔らかそうな尻尾が生える。
「【御三狐】はのぉ、敵のスキルでもお主の適正にあったスキルが習得できるようになっておるのじゃが、お主が習得するのはどれも卑猥なものばかりじゃった。リピドーを昇華させるのはいいんじゃが、我はどうしても恐ろしくてのぉ、代償を造ってしまったのじゃ。ふふふ……カイト、大好きなカイト。我の愛しいカイト……。お主は我が最初に目をつけたのじゃ。あの馬鹿女のジャ――――イーリスよりも前にの。無論あの考えなしトカゲよりもじゃ」
優雅で、そして艶やかに、ヨミは自らの唇を人差し指でなぞる。
「ほれ、もう蘇生魔法はされているじゃろうて? 行くがよい。我はもうしばし悠久の刻をこうして過ごしておるわ」
「え、ちょ、なんか色々怖いんだけど。もう少し冷静に腹をわ――――ッ!」
俺が発言を終える前に闇より黒いこの空間に光が包み込み、俺はその場から消えた。ただ独り残されたヨミは邪悪で、恍惚とした微笑を浮かべてクスクスと笑う。
「モテそうな行動をすればするほど、運命は――――ふふ。カイトは我のものじゃ。我が永遠に、永遠に…………」




