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狂乱の運命と水平線に杯を上げる

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 流刑……現実世界に関してみると、結構な頻度で難破したり座礁したりとそれなりの確率で死刑みたいな感じはあったが、この世界ではそんなことはなかった。


 中世レベルの科学文明だが、魔術だの錬金術だのを含めると現代と差し支えないものであり、俺達は快適な空の旅を送っていた。


 ――飛空挺。帆船の帆のように流線型を描いた木製の船に青白い金属質な翼に取り付けられ、白い浮雲を切り裂いて空を飛んでいるのである。内装は罪人を送る船にしては随分と快適で、ソファにテーブルなどが置かれていた。


 これに関してはリーゼが貴族だからという処置らしい。そのリーゼはというと、窓の外の絶景を、果ての無い大海と大空に点々と雲と小島が浮かんでいる景色をぼんやりと眺めていた。僅かに反射するその顔は悩ましいまでに柔らかく頬を染めている。


「…………空を飛べば、……ふふ」


 ――――最良の思い出に想いを馳せて、少女は一人心地に呟いた。やがて彼女はこちらを見て、不意にムっとしながらも無言で手招きした。なぜだかその表情を見ると、心臓が高鳴る。いけない。不明瞭な緊張が身体を覆う。思い出すかのように脚が少しばかり痛んだ。傷なんてもうないのに。


「なんだ? り、リーゼ」


 俺は恥ずかしいことに噛みながらも、傍でニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべるイーリスを無視しつつリーゼの元へと近寄った。傍によると、人体実験を躊躇いもなくする馬鹿トカゲとは思えないことに髪から甘い匂いがして、身体が余計に強張る。入れ替わったとき彼女の身体は相当にまさぐったはずだが。


「ふふ。空を飛ぶのはこれで二度目っすよ。……流刑になったのは本当に申し訳ないっす。本当に引き返せなくなっちゃったっすね。けれどどうしてっすかね。あんまり反省できないっす」


 リーゼは八重歯を見せながら小さく微笑んだ。赤く鮮やかな髪が優雅に揺れる。黄金の双眸が獲物を捕らえた竜のごとくギラリと輝いていた。


「全部……じゃないけど、何割かはお前の所為だからな。反省しとけ。まぁ今のところは思ってたより待遇はいいみたいだけどさ」


 ……距離が近い。俺から攻める分にはなんら遠慮はしないが、女の子から近づかれるとどうしても体が、精神が強張る。だから俺は恥ずかしさから顔を逸らして、窓の向こうを眺めた。しかし次の瞬間、不意に右手に柔らかで、ひんやりとした感触が伝わって、思わず肩を震わせた。慌てて隣を見ると、リーゼが顔を真っ赤にして手を握っているのが分かった。


「その……その、何でも言うこと聞くって約束…………これじゃ駄目っすかね?」


 ああ。そういうことか。


「……落ちるときにやったお姫様抱っこのほうがハードだと思うけど」


「あれは勢いっていうか……! こ、これであたしは限界っすよ! 恥ずかしいっす」


 リーゼはバタバタと騒がしく翼を動かし、顔を俯かせた。その仕草は言葉にできないくらい可愛らしい。やはり恥ずかしさというものは少女を引き立てる。本当はもっと大人の階段を超えて大人の長距離弾道ミサイル級な願い事でもしてもらおうかと3割ぐらい考えていたが…………。


「まぁ、……いいか。可愛いし」


 手を握られて思考に霞が掛かったかのようになって、俺はこれで妥協することにした。そうだ。落ち着いて考えてみるといい。この状況だって全世界の人々から見れば相当に――――。


「コヅカカイト……! 流刑地では夜道に気をつけておけ」


 ぼそりと、ヴェーダが通りすがる際に俺の耳元でそんな危険な発言をする。……当然だ。ハハ、羨ましかろう。


 リーゼには彼の脅迫は聞こえなかったようで、頬を朱に染めたまま何もないところからワイン瓶とグラスを取り出した。昨夜の残りである。


「あとちょっとだけ残ってるっすから……」


 彼女はそう言って、俺にグラスを渡した。正直な話、ワインだのビールは苦くてあまり好きではなかったのだが、こういう雰囲気のなか飲むのは悪くは無い。


「ああ、流刑地でもよろしく頼むぜ。リーゼ。俺は弱いから」


 リーゼは俺の発言に対しクスリと笑い声を零しながら、力強い花のような笑顔を浮かべて言った。


「弱くてもカイトみたいな奴……そうそういないっすよ。誇っていいっす。法律が、世間が認めなくてもあたしは……私は馬鹿な若者の、英雄的行為を忘れないっす」



 ――――流刑地。なんだか思い願っていた異世界生活とは程遠い状況に置かれてしまったが、我々はまたグラスを上げた。



 ああ……馬鹿でロリで邪悪な神よ。この狂乱と奇天烈な世界は…………嫌いじゃない。

機械竜アリアージュ


全長26メートル58センチ5ミリ、重量546トンのドラゴン型戦闘機械。

 装甲には「完全存在」の黄金とアダマンタイトの合金が使われており、魔法・物理に対して無敵ともいえるほどの防御力を誇り、並みの武器では傷一つさえつけることはできない。また、アダマンタイトは頑強な防御力以外にも磁石としての性質があり、大岩ほどの大きさであれば小さな城程度を動かす力がある。そのためアリアージュはその重量にも関わらず俊敏な動きと飛行が可能となっている。動力には太陽圧縮結晶テスカトルタイトと呼ばれるエネルギーを生み出し続ける真紅の結晶が使われている。動力装置は頭部から肩部かけて存在する。

 武装は全身に組み込まれた回転刃を始め、両腕の機関銃砲と背中部の小型誘導ミサイル射出装置、太陽圧縮結晶から発生する熱エネルギーを放出する奥の手【太陽を敬う(コロナドミナス)】と呼ばれる装置が主である。回転刃は単純に機体内部に収納しているに過ぎないが、機関銃砲やミサイルの収納には四次元空間に収納されている。これはサンタの袋の仕組みを錬金術で再現したものであるが、時間と空間の魔術等を行なう際、ティンダロスの猟犬と呼ばれる危険モンスターが出現する可能性があり、この仕組みを作れるのは全世界のなかでも極々一部である。万が一ティンダロスの猟犬に狙われた場合は似ている人物を作り出し標的を変更させるか、鋭角の無い場所に逃げる必要がある。

 【太陽を敬う(コロナドミナス)】はドラゴンの口に該当する部分から熱光線を放つ攻撃であるが、口から吐くことに意味があり、本来のドラゴンの姿を再現することによってある種の思い込み効果にも近い作用が魔術的に働き威力を向上させている。これはスタイルと呼ばれ、一見すると非効率極まりない二丁拳銃や、攻撃時にナイフを逆手持ちするなどの行動も威力を上昇させる動作として存在する。つまりはドラゴンの動きを精密に再現することでドラゴンの持つパワーをも組み込むのである。

 これがいわゆる戦車のような効率のみを求めた形がなかなか生まれない理由である。しかし転生・転移人たちが戦車の力を知ったうえでその動きや形を再現することができれば、それは戦車の形に内在する科学・物理学的性能をも上回るはずだ。しかしそれがドラゴンや海竜などの形が秘める力を超えるかは不明である。


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