さらに一撃
「カイト! 受け取ってくれっす! めちゃくちゃ痛いっすけど、多分カイトなら痛くてもまぁいいっすよね!」
「え、それは」
俺がとやかく言う時間も与えず、リーゼが注射器をぶん投げた。それは吸い寄せられるように首元に突き刺さり、玉虫色に輝く流動的な、溶けた金属みたいな露骨に危ない液体が注入されていく。
ドクンと、心臓が脈動を過激化させた。全身が燃え上がるような力に溢れ、多分魔力的な奴が音と鮮やかな色彩を立てて溢れ出る。しかし多大なる力の代償として全身にビリビリと、電気マッサージで流す電気の量が多すぎたみたいな痛みが生じ始める。
「……痛いなこれ。なんなんだ?」
「あたし自作のポーションっす! ステータスが向上するかわりに死ぬほどの痛みが全身を襲うっす! そうっすね……名前は勝利のポーションとでもするっすか」
そんな物を遠慮なく人に突き刺すな。あーいや、これもスキルの所為なのか? がんばってこの因果から抜け出して優しくしてほしいところである。
「とにかくなんとかしてみるっす! だからカイト、ヴェーダ! 二人とも時間稼ぎ頼むっす! 【アルケミカルサークル】! 【アルケミクリエイト】!」
リーゼがその場に巨大な大釜を呼び寄せ、無から牙や宝石、さらにはよく分からない赤い液体やらをぶち込んで、煮込み始める。だがそんな隙を敵が見逃すはずもなく、銃弾にミサイル、尻尾の強烈な一撃が飛び交った。
――――凄まじい機関銃声。光の壁が飛び交う弾丸を防ぐたびに金属質な音を鳴らし、イーリスの歌を賑やかに飾る。ミサイルが撃ち抜かれることによる爆発が花火のごとく宙に広がる。瑠璃色に輝く尾が金閃の弧を描いて襲う。イケメンが剣でもってその攻撃を受け止めるも、尾の根元辺りに収納されていた回転刃が動き出す。
――――ギギギギ、金属同士がぶつかり合い火花が飛び交う。手が空いているのは俺一人であった。【オンリーワン】があるとはいえ、たかが1ダメージ程度で装甲を傷つけても意味はない。狙うべきは銃口や、内在しているであろうコードや精密機械的部分だった。人間で言うならば内蔵とでも言おうか。
「イーリス! 音符頼む!」
轟音銃声、間違いなく騒音公害の中心にいるのだが、さすがは神とでも言おうか、イーリスは俺にハンドサインで返事を返すと階段状に音符を生み出した。
すぐさま地面を蹴り上げ跳躍し、音符を踏みしめ、次の音符へと跳び、跳び、跳び、竜の翼に跳びしがみ付いた。
高度が高くなればそれだけ撃墜されていく小型ミサイルの衝撃が響き、さらには翼を扇いで小さな竜巻が周囲を蹂躙し始める。四方八方に伸びて振動する衝撃波と力場は、ティア達のバフをキメてもキツイものがあったが、お薬を注射してハイになったおかげか容易に耐えることができた。
――――やはり、見えた。いくらドラゴンの姿をすれど機械。ミサイルを発射する場所や回転刃の出現、稼動域が進行形で変わることはない。さらに言えば、それらは複雑な機構を成して動いているわけであって、そこには必ず装甲で補えない部位があるはずなのだ。
目を凝らす。ミサイルが放たれている部位を、背中の展開したその部位を形成する部品を捉える。
「うおおおおおおおおおおオオオオオオオオオッ!!」
全力で力を発揮しようと、いや、ただがむしゃらに雄叫びを上げて、俺は竜の背中に飛び乗った。そこは爆発を生み出す中心であり、そんな事をすれば当然――――粘膜が焼き切れるような熱や四肢が引っ張られる力に体が呑まれた。
…………さすがに痛みはやってきて、久々の本当の激痛に雄叫びと悲鳴が相乗される。
「【スティール】!!」
体が宙に投げ飛ばされる直前、俺は竜の背に触れて必死になって叫んだ。――――この瞬間、何より求められた能力値は――――運。悪運。どんなに不幸と呼べることが起ころうとも、不幸中の幸いを呼び起こす力。目には見えないそれは、この世界ではステータスとなって見える。
運によって俺は竜の背中、発射口のさほど接続部品を奪い取り、それによって生じた隙間にショートソードを深く突き刺した。
――電撃。
バチバチと、何か重要なものに傷一つつけたのか放電が生じた。電撃が筋肉を刺激し、俺は竜の体から滑り落ちそうになって、咄嗟に突き刺した剣の柄を握り締め全体重をそこに隠す。1ダメージ。1ダメージ。1ダメージ!
竜が俺を振り落とそうと暴れ回り、また同時に殲滅しようと攻撃の手を動かすたびに刃は確実に刻む。ガチガチと音が響いて、そのほとんどが装甲に吸われているようだったが、確かに傷を与えていた。その傷が隙間を生み、少しずつ発射口を歪めていく。
「【スティール】!【スティール】!【スティール】!」
イーリスの服を剥ぐかのように、俺はそのスキルを連呼した。手元に良く分からない部品が現れて、地面にころころと落ちていく。確実に傾き始めていた。さらにスキルを唱える。発動する。魔力切れの心配もなく、一心不乱であった。
段々と支えがなくなっていく発射口の表面プレートが、剣によって梃子の要領でギギギと浮かび始める。剥がす必要はない。強力で有効的な機械ならばどんな外見をしようと共通の弱点がある。
そのときは突然訪れた。――――閃光。爆発。竜の背中が噴火のごとく火を上げる。
ドラゴンの怒号が轟くなか、俺は今度こそ衝撃に耐え切れず地面に落ちた。ズシリと圧し掛かるような感覚。痛みがほとんどないというのはやはりおかしな気分でもある。だがおかげで清々しい笑顔でその光景を見ることが出来た。
瑠璃と黄金の装甲が立ち上がる炎によってより一層美しい輝きを見せる。光沢が踊り輝く。竜が悶える。
それは、本来の形から逸脱することによって起きる物理的エラー……発射装置の変形による弾詰まり(ジャム)だった。
俺が原因をもたらしたとしても、最終的にこの爆発を起こした原因が俺にないならば、向こうの自爆だ。それこそティアが俺の内臓をメチャクチャにしたのと同じだ。
「貴様あああああああああああああああ! 雑魚のくせに調子に乗るんじゃねエエエ!」
ドラゴンの荘厳たる口から零れたのは汚らしい余裕のない言葉であった。
「オンリーワンの何が悪いんだァアアアア! 違くたって、おかしくって、それでも我らぁは♪ 前へ進む鍵を握るんだアアア♪」
イーリスの歌がおそらく二番ぐらいになっていた。正直歌詞は全く頭に入らない。皆が騒々し過ぎるのだ。




