オンリーワン
「か、カイト……」
リーゼは蒼白した表情であわあわと手を振りながら言葉を発しようとする。怒られると思っているのか、申し訳ないと思っているのか随分弱々しく見える。
「あれ……無理っすよ。倒せないっす。不良品だとか言われて返品されたくなかったっすから本当に完璧なのを造ったっす。つまり弱点がないんすよ……! 傷一つ付けられないっす」
まぁ他のゴーレムと明らかに格が違うのは分かる。大きさも武装の数も、装甲の種類も。だがどうしようもないにしてもどうにかするしか道はない。
「なら賭けようぜ。俺があいつぶった切ったら何でも言うことを聞いてもらうからな。ティア、イーリス! あとクレアもバフを頼む!」
俺の命令に頷きだけを返して二人がスキル名を唱え続け、闘いの渦が巻き始めるなか歌が響いた。
「なんだってっさ、天上天下♪ ただ、無力のままに唯我独尊♪」
バフに歌詞の内容は関係ない。戦場に唄が広がると色の付いた音符が皆の体に纏い、力を与えていく。
「その程度の付与でこのアリアージュをどうこう出来ると思うのが甚だしい!!」
機械のなかからフィティーの声が聞こえたと思うと、竜が両腕に取り付けられていた銃口が俺とイケメンに向けられた。
――――ガチャン! 金属が噛み合う音が響くと、その銃口を数多の閃光と爆音が包み込んだ。
「走れ!!」
幾つも重複する支援魔法によって研ぎ澄まされた感覚が警告よりも早く光と爆音に反応し、反射的に体は前方に倒れ込み、足が本能のおもむくままに動き出す。
弾丸。――――弾丸。炸裂、連続する銃声。竜の背に回りこむようにその場を駆けて行くと、面白いくらいすぐ後ろで数多の弾丸が着弾し、地面を砕く。一発一発の破壊力はロケットパンチに劣るものの、人間なので当たれば致命的である。
しかし、ドラゴンの背に逃げれば安全というわけではなかった。射角的に背後に銃弾が来ないのは確かであるが、代わりとばかりに重い金属質な尻尾が全身の骨を砕こうと無作為に暴れ出す。
だがイケメン君はその一撃一撃を華麗にいなし、俺は俺でバフをキメちゃった運動神経によってみっともないながらも回避を続けることができた。
「こざかしい奴らめ。しかし、確かに我のミスであった。最初に狙うべきは回復職だったなぁ!」
見た目に反して小賢しいことに、ドラゴンは尻尾での攻撃を続け俺たちを足止めしながら、正面方向にいる少女達に向けてさきほどの射撃掃射を行なった。
――――ダラララと衝撃が重なり銃弾が放たれる。
「【アフェクト・プロテクション】!」
「【ハイプロテクション】」
二人の回復職の少女はすぐさま防御の結界を張った。黄金の輝きを持つ光の膜が破壊力を数で補う機関銃的攻撃を無力化していく。弾かれた弾は周囲に兆弾するも、やがてジャラジャラと地面に転がっていった。
だが攻撃はそれだけに終わらない。竜の背がガチャリと扉でも開けるかのような音を響かせると、その場から小さなミサイルのようなものを何十発と放ったのだ。それは銃弾よりは遅いものの、針の穴を通るような緻密な動きで少女達へと向かっていく。
その威力は銃弾とは比較にならず、防御壁にぶつかると爆炎と凄まじい衝撃を生み出して連鎖的に破裂した。ミサイルによる猛攻に耐えられなくなったのか爆音のなかガラスが割れるような音が響き、ティアが何メートルも吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
「ティア! 大丈夫か!?」
他の人の心配などしている余裕はなかったが、あまり冗談にはできない光景であったがために自然と声が出た。ティアは自身の持つ金の杖に体重をかけ、よろよろと立ち上がり微笑を返してくれた。
「この程度、カイトに与えた傷よりは軽傷でございます」
確かにその通りかもしれなかったが、今言うことではないと思った。
「爆風の所為で直撃はしなかったのか。ならさらに畳み掛けてやろう」
勢い付いた竜が背中からさらに倍の量のミサイルを撃ち放つ。――――直後、爆発。それは着弾はおろか竜のすぐ側で一斉に炸裂し黒煙と破片を撒き散らしていく。
「【アローストーム】でやんす! もうその――――動きは読――――んすよ! 二度はな……やんす!」
「聖火、声が、聞こえてんだ♪ 磔刑死して一を穿つ♪ 大空飛びいる、英雄はつねに唯一無二♪」
だいぶ離れたところでベネッティアがドヤ顔を浮かべていた。距離が遠いためイーリスの歌声と竜の猛攻で台詞が掻き消されているが、推定するにどうやらミサイルを全部撃ち抜いたらしい。おかげで竜は自爆し、壊れることはなかれど大きく仰け反る。
その隙を見てかティアたちが俺とイケメンにも障壁を張ってくれた。おかげで尻尾の攻撃を数度ばかし受けてもなんら外傷はなく、半ばごり押しで機竜の胴体に飛び乗る。
「リーゼ! お前が一番の要だ! 完全な装甲造っちまったなら今度は完全な槍でも造りやがれ! 俺が時間稼いでやる」
「む、無理っすよ! それは絶対に傷つかないっす!」
リーゼは燃え盛るような赤髪を酷く乱し、しかしそんな情熱的な色に反して泣くのを必死で堪えるような声で俺にそう断言した。回復魔法で助かったとはいえど、【虫の心身】を持たない人物が自身の所為で致命的な一撃を受けたのがショックになっているようだった。
「よぉし馬鹿リーゼ! 言ったな! 俺が傷つけたらチューぐらいしてもらうからな!」
「おいカイト! 君はリーゼロッテ様の弱みに付け込んでなんてことを! しかし僕の剣でも……ダマスカス銅を使った剣でもダメだったんだぞ? それに君は剣豪どころか盗賊で…………」
「人の背中でぶつぶつ喋ってるんじゃあない!」
ドラゴンが人を自称し、怒りを露わにすると背骨に該当する部位から鋭い回転刃が繰り出される。イケメン君がそれを剣の腹で押さえ込むなか、俺は竜の頭部まで登り詰めた。
「証明過程のない結論はよぉーーーっ! テストだったら大幅減点だ! 馬鹿リーゼぇ!! お前、俺に対しては死にかねないような物使っておいて、肝心なときに日和ってんじゃねえぞ! こんな玩具、いつもみたいに実験の道具にしてみやがれ! まずは俺が不可能なんかないって目に物見せてやる!」
俺の武器はイケメン君のものほど切れ味は良くない。それこそスマホかポケベルぐらいの差だ。レベル差、スキル差を鑑みても実力は歴然である。俺のスキルなんて有効活用出来そうな場面といえばエロイことぐらいだ。きっとそういう運命の星にある。
だが、俺には確信があった。だから俺なりに勇ましい掛け声を上げて、ただ変哲のないショートソードを竜の頭部に振り下ろしたのだ。
――――ガチン! 金属同士の衝撃音。ほれ見たことかとドラゴンが嘲笑い、俺をたやすく振り落とした。都合が良かった。結果としてリーゼの近くに吹っ飛ばされた。ティアたちのおかげで二階ぐらいの高さから落ちたにも関わらず怪我一つだってありゃしない。
「見ろ。リーゼ! あいつの頭を! お前が作った完璧超合金なんて俺の一撃で、スキルでもないただの市販の安っちい剣で! 俺はあいつの顔に傷つけてやったぜ」
ドラゴンの瑠璃色に輝く荘厳たる顎に、俺が与えた一撃は確かに刻まれていた。リーゼがありえないと言いたげにその金色の双眸を輝かせて、やがて八重歯をキラリと光らせながら自信に満ちた笑顔を浮かべた。
「――――ありがとうっす。カイト。やってやるっす! あいつを壊すっすよ! あたしの最高傑作を、一番を壊すっす!」
「誰より弱く、誰より脆くたぁってぇ♪ 手を伸ばし、刻むのは一番じゃなくてオンリーワンなんだああああ♪」
――――【オンリーワン】。どんな相手に対しても『たった1』程度の傷しか与えられない……面白いくらいのゴミスキル。しかしその一撃は、どんな攻撃も受け付けない絶対的強者に対し、『唯一』傷を与えることができるのだ。
「雑魚のくせにこのアリアージュの顔に……ッ! 傷をつけやがったなあああああアアアアアアアアアアア!!」
ドラゴンが激昂に声を荒らげ、鼓膜が破れそうなくらいの雄叫びを上げる。が、その程度の声ならイーリスのほうがうるさい。さっきから耳のすぐ傍でマイク片手に歌われてるような気分なのだ。
だがそんなことはどうでもいい。俺は一つ、たった一つだけ重要なことを言わなければならない。
「――――約束守ってもらうからな」
命懸けなのだから本当はもっと要求したいが、俺は紳士なので最初は控えめである。素晴らしく優しい男である。本当に大人の階段踏むのはデート7回目ぐらいと決めているんだ。
「うわ糞ですよあいつぅ~♪」
うっさいイーリス。




