機械竜アリアージュ
「……アイアン、ミスリルこれらは所詮は雑魚だ。金は錬金術において完全を意味するが、本来の強度は脆い。ならば鉱石本来の強度が完璧なアダマンタイトを合わせればどうなるだろうか。リーゼロッテ、君が作ってくれた素晴らしい兵器をお披露目しようじゃあないか! 現れろ! …………」
『機械竜アリアージュ』
「現れろ! 機械竜アリアージュ!」
フィティーが声高らかにその名を呼び、夜空を振り仰いだ瞬間、まるで地震のような振動を大地に響かせて、それは現れた。
それは……一言で言うなれば名前の通り機械で形作られたドラゴンであった。巨大な胴体に頭部。そして翼や尻尾。全長は軽く十メートルを超え、それこそ近くに建っている家屋よりも大きく、またその巨大たる体を支える両脚もまた頑強であった。
しかし黄金の輝きが入り混じった瑠璃色の装甲は宝石のように美しく、されど血の露を生み出さんとしてその豪腕に取り付けられた無骨な銃身に回転刃がギラリと殺意の光を見せる。
想像以上の敵を目の前にして、俺の精神は酷く揺らいだ。不意に懐かしき思い出が、純粋無垢であった子供時代の光景がフラッシュバックする。
「……綺麗だ。昔昆虫図鑑で見たルリイロなんちゃかコガネを思い出す」
「ルリイロセンチコガネですよ。糞虫同士なんですから覚えてあげてくださいね。あととりあえず、怖いからって幼児退行だけはやめてくださいね? 格好悪いですし」
警告とばかりにイーリスが俺の頬を一発か二発か四発ばかり叩いた。痛みは全然なかったが、おかげで我に帰る。
――――竜の武装は腕だけではなかった。尾はなにもかもを砕く鞭として波打ち、現在進行形で舗装路の煉瓦を砕いていたし、月明かりを反射する鋭利な牙もまた血に飢えているように見えた。こういう機械は大体口からビームを吐くのがお決まりなので注意すべきだろう。
――――ギギギ、と、機械のドラゴンが金属質な剛翼を一度ばかし扇ぐと、ただそれだけで顔を覆いたくなるような突風が四方に広がった。毒々しいほどに赤く発光する双眸で、竜はこちらを見下ろす。
だがやはり機械。装甲が重なり合う小さな隙間は接続部分の部品が垣間見えていた。
「フハハ! フハハハハハハハ! どうだ! 素晴らしいデザインだろう! 美しく、格好良く! そして機能美にあふれている!」
本当に機能美があればきっと脚はなかっただろう。だがそんなことはお構いなしにフィティーは高笑いをして、竜の頭上に飛び乗る。
「むぅ、少しばかり頭が高かったか。いい……実に素晴らしい。これは癖になりそうだ。やはり高い場所から眺める惨状は最高だ。ズに乗り過ぎないようにしないとなぁフハハ。見るがいい! 矮小なる存在共よ! 我の恐るべき能力によってこの機械竜は十二割の力を引き出すだろう!」
その声と共に、フィティーの姿が目を開けられないほどの眩い光に包まれる。――――光が収まり、ゆっくりと視界を開くと、そこに仮面の悪魔の姿はなかった。
「我は機械と一体化する能力があってな……。まぁ他にも錬金術や金属を硬貨にしたりと素晴らしいものばかりなのだが、今は関係ないか。ともかくこれで貴様らはチェックメイトだ! いわば王のコマをバフを受けたドラゴンナイトとソードマスターに包囲されたようなものである!」
――――咆哮。耳を塞がざるえないほどの、けたたましい金属同士の打撃音が、かの竜の口から轟き響く。それはまるで巨大なシンバルが鳴るなか、噛み合わない歯車が悲鳴をあげるような、そんな音だった。
「リーゼロッテ様を騙した罰だ。すぐに仕留めさせてもらうぞ!」
イケメン君が弾丸の勢いで竜の足元まで駆け寄ると、一気に仕留める狙いか大地を蹴り上げ跳躍――――ドラゴンの頭上にまで飛び上がる。
「喰らいやがれ、【一刀両断雪月花】!」
銀に輝く刃を華麗に、そして激烈に一閃する。その斬撃と刀風は鋭く凍てつく衝撃と視界を塞ぐほどの吹雪となって竜の体を捕らえる。
「――やったか!?」
誰かが言ってはいけないことを言った。その代償はもはや確定しているようなもので、宙にあるイケメン君の体に強烈な尻尾の一撃が入り込む。
それは金属で出来た丸太が無慈悲にも腹部を穿つようなもので、鈍く痛々しい破壊音が生じた。刹那の間浮かんだ苦痛の表情がそれを物語っていた。
「【ヒールライズ】!」
ティアが咄嗟に回復魔法を唱え、イーリスは着地地点に音符が置いてイケメン君を補助する。彼はその甲斐あって無事であったが、この尋常ならない怪物を生み出してしまったリーゼの表情は実に重苦しいものであった。
古代ロマロマ帝国の超技術を模倣し、それらを商品とすることとして発展していったアルトゥリックであるが、その警備は実に堅牢なものである。この街を、および輸出先である王都などの警備をするのは主に四種類おり、アイアンゴーレム、ミスリルゴーレム、スカイネーター、マシンドッグである。
アイアンゴーレム
正確に表記するとアイアンゴーレムには壱型、弐型甲、弐型乙の三種類がある。それぞれサイズと武装が異なる。共通して言えることは形状が二足歩行型で、装甲に鉄(鋼鉄ではない)が使われていることとなる。比較的安価で、単純な魔物こそ倒せるもののさほど強くはない。
壱型の大きさは2メートルほどで武装は腕部についた回転刃と腹部に内臓されたクロスボウ、そしてモノアイから放つビーム光線となる。しかしこのビームは活動による機体への熱エネルギーが蓄積しなければ撃つことができず、撃てば自身の寿命を大幅に削ることとなる。また、屋内を警備するタイプは全て壱型である。
弐型は屋外タイプであり、大きさは壱型よりも一回りほど大きく3メートル47センチとなる。武装は回転刃にクロスボウ、そしてビームのタイプが甲。乙は回転刃の代わりに射出可能なワイヤー付き刃となっている。
ミスリルゴーレム
その名の通りミスリル銀を装甲に使った頑丈のゴーレムであり、アイアンゴーレムとは比較にならない強さとなる。このゴーレムもアイアン同様に壱型、弐型甲、弐型乙の三種類がある。しかしその説明は「アイアンゴーレムと同様のものになるため省略させていただく。
ミスリルゴーレムに使われるミスリル銀であるが、「白銀色のはがね」とも言われ、天才花火職人のガンダルフ曰く「銅のように打ち延ばせ、ガラスのように磨ける。銀のような美しさだが、黒ずみ曇ることがない。ドワーフはこれを鋼より強いが軽く鍛えることが出来た」とある。だがこれには一つの誤解があり、確かにミスリル銀は鋼よりも軽量で美しいのだが、この時代において鋼の精製は不完全なものであったからとされ、現在において一流の錬金術師や鍛冶師が造る鋼はミスリル銀よりも頑強である。だが、武具にするにあたって言えば軽量なほうが便利であり、価値の差としてはミスリル銀のほうが高値となっている。
ミスリル銀の生産地は昔より西方大陸の一地域であるモリアとヌーメノールのみとされており、幾度となくその鉱脈を狙い戦が起きた。最近になってアマテラス諸国西部やグレートインディラリア南東部でも鉱脈が発見されており、生産が行なわれるようになり始めている。
スカイネーター
ミスリル銀を装甲にして作られた小型飛行タイプのゴーレムである。形状は球体で、直径62センチである。その中心部にはモノアイが搭載されており、そこからレーザー光線を放ち攻撃する。内部に飛行石と呼ばれる青い結晶状の貴金属を搭載しており、その結晶が微弱な電気を受けることによって重力に反発し、浮遊する仕掛けとなっている。この飛行石は自然界には存在せず、高位の錬金術師にしか生産することができない。他のゴーレムも同様であるが、動力には魔素が液体化したもの(これはいわゆるMP回復のポーションのようなものである)を使っており、スカイネーターはその魔力をさらに電気に変換することで浮遊している。そのため動力切れを起こすと途端に地面に落ちてしまい危険だったために、スカイネーターの充魔が15%を切った状態での飛行はアルトゥリックおよび王都などでは禁止されている。
このゴーレムを使えばテレポートなどの大掛かりな装置、魔法を使わずとも容易に荷物を運ぶことができたり、不審な人物の検挙、偵察が可能であるが、盗撮目的に使う輩やスカイネーターに乗り騒音も省みず夜の街を走り続ける若者(通称:暴空族)が近年増えており、また、操作ミスによって甚大な事故をもたらしたこともあり規制は年々強まっている。
このことに対し、自称異世界から来た男、斑鳩源三郎(119)がこのような言葉を残している。
「悪いのは道具ではなく人物だ。だが一部の不届き者や事故のために全体を規制することは果たしていいのだろうか。それはまるで全体主義……個ではなく国が優先された暗黒の時代のようではないか」
なお彼は非常に高齢であるが、「年を取らないチート貰ったから平気へーき」などと言っており、事実本当に若い姿を保っているため魔族の疑いももたれている。そして彼と親密な関係にある人物も、彼の血を貰ったら歳を取らなくなったという。だがそれはまた別の話である。
マシンドッグ
ミスリルと鋼の二つを用いた複合装甲で、いわゆる犬の形を模した警備ゴーレムであり、対人用に造られたものである。全長は80センチほどで、武装は腹部から展開する回転刃と頭部に隠されたサイレンの二種類で、このサイレンは吟遊詩人の職業スキルに酷似した効果を発動し、仲間の能力を強化する。このゴーレムは通常の人型ゴーレムとは違って素早く動くことができ、主に金庫や貴族の庭などで警備に当たる。犬を模したくせに顔が怖いとクレームがあって以降、製作者であるリーゼロッテ・フォン=アルトゥール・エルリックは可愛らしい語尾機能を追加した。これは対象の集中力を乱す効果があるとしてまもなく全てのゴーレムに煽り機能や残り時間を数えてプレッシャーを与える機能、愉快な拍手機能などが追加された。
これらの会話機能はいわゆる人工知能をもって成立するものであり、人工知能の可能性に錬金術師達は研究を続けているが今のところ最低限の会話のみしか通じない。現在存在するなかで最も優秀な人工知能と呼ばれるものはエクスマキナであるが友好種族ゆえ、彼らへの過度な行動は法律で規制されている。
歴史上、彼らを誘拐するなども行なわれた経歴があるが、彼らに対して敵対的な行動を取った者は24時間以内に全員が惨殺されており、マキナ文字で『0 000 0 000 444 55 66 9 4 22` 444 77 33(我々は寛容ではない)。222` 4 - 4 888 555 44` 444 33 888 111 22` 1111 666` 77 0 000 11(同胞の傷は命で償われた)』と置き書きがあった。殺された人物は犯罪者ではあるものの、同時に高い戦闘力を持つ冒険者であったがために、彼らの戦闘力が伺える。
マキナ文字。
発音に関しては共通語と同じだが、文字として表記するとそのほとんどが数字として表記される言語である。法則性はまだ解明されていないが、エクスマキナの一人が王都に対してマキナ文字の読み方を教えたことから読み自体は判明している。
1がぬ。2がふ。3があ。4がう。5がえ。6がお。7がや。8がゆ。9がよ。0がわ。-がほ。^がへである。そのエクスマキナは「異世界から来た人なら分かる」とだけ言葉を残し、詳しい仕組みを教えていない。




