フィティー・ホーンエンハイム
無くしていたUSBを見つけたので久々の投稿です。まことに申し訳ないです。
「…………」
そのいかにも怪しい人物は閉口したままこちらをずっと見つめていた。何かを言おうとしているようにも見えるが、なかなか声を出そうとはしない。
『この日が来ることは分かっていた。リーゼロッテ、貴様はよく働いてくれたよ』
不意に、フィティーとかいう人物の傍で漂っていた手乗りスカイネーターが囁くようにそう言った。するとフィティーは思い出したとばかりに口を開いた。
「あ、そうだそれだ。……ゴホン! この日が来ることは分かっていた。リーゼロッテ、貴様はよく働いてくれたよ」
「言われなくても分かってるっすよ! あたしは真面目にテキパキ齷齪と働いたっすよ! だから何でゴーレムが暴走してるか言えっす! お前の仕業っすよね!?」
「…………」
『フハハ、なぜ。なぜと言ったのか。……愚かな。実に愚かな。そして世界唯一とも言っていいほどの天才錬金術師よ』
「フハハ! なぜ? なぜと言ったのかリーゼロッテよ。……ククク。愚かな。実に愚かな、そして世界一とも言っちぇ……言っていいほどの天才錬金術師よ」
俺は目の前の光景に対してなんと言ってあげればよいのだろうか。真面目なのか馬鹿なのか知らんが、わざわざ台本を用意して、それを忘れて小声で囁かれている黒幕らしき人物に対して、どう接してあげるのが模範解答なのだろうか。
「カイトカイト、あの人台詞用意してますよね。忘れてるっぽいですけど」
イーリスがいい玩具を見つけたとばかりに無邪気で子供っぽい笑みを浮かべる。いや、無邪気ではないな。実に邪悪だ。
「しっ! イーリス、こういうのは気付いていないフリをしてあげるのが紳士ってもんだ」
俺は親切なので、ゴーレムの頭上で恰好つけているフィティーとやらにも聞こえるように言ってあげた。すると彼? 彼女? は大袈裟に驚いてバランスを崩し、ゴーレムの頭上から落ちかけた。
が、すぐに態勢を取り直すと、さも今から降りようとしていたのだと見せ付けるように空中で回転しながら着地した。
その足が地面に着くと、ふわりと紫の光がまがまがしく、しかし幻想的に広がっていく。
『ヒュッ! スタッ! バァアアーーーンッ!!』
スカイネーターがフィティーの動きに合わせて仰々しい効果音を響かせる。もうツッコミをする気にもならない。
「フィティー! 人を馬鹿にするなっす! 恰好つけてないでさっさと理由を言えっす!」
リーゼが翼を広げ、牙を向けて威嚇するとフィティーは仮面越しにドヤ顔をして豪語した。
「いいだろう! 冥土の土産に教えてやろう! ……言ってみたかった台詞ランキング第三位を言えたぁ! やったよ! スカイネーター、きちんと録画してるだろうな?」
『はい、もちろんです。マスター』
もろもろの発言からして、ゴーレムが街の人を襲っているのは目の前の馬鹿……フィティーとやらが原因なのだろうが、なんだか燃え上がらない。
理由は明白で、この黒幕らしき人物が台詞の一つさえまともに言えないからである。さっさと不意打ちしてもいいのだが、こういうふざけてる奴に限って余裕で回避してくるのが世の常だ。
「……それにしてもあのスカイネーターは従順だな。ご主人想いだ。ティア、あいつの爪の垢煎じて飲め」
「カイトは馬鹿です。その荒んだ瞳はお飾りですか? あれのどこに爪があると言うのです」
「くだらない話をするんじゃあない! 我の話を聞かんか!」
怒られた。
仮面の奴はまったく失礼な……、などとぼそぼそ愚痴りながらも話を続ける。少しあたりを見渡せば悲鳴や建物が倒壊する音が響いているというのに俺達の辺りだけはまったくもう平和なものである。
「ふふふ……この計画はだな…………」
フィティーは大きく深呼吸をして、こちらを焦らさせる。
「この街は元々滅ぼすつもりだったのだよ。準備が整い次第さぁ。リーゼロッテ、貴様の作った魔法具はどれも一級品……いや、それ以上だ。どれも実に素晴らしい品だ。そして街の経済を守ろうとした結果、貴様は国を危機に陥れることになるだろう」
どうやらこの辺りの台詞はきちんと暗記しているらしい。きっと何度も練習したに違いない。
「どういうことっすか!? ちゃんと説明しろっす!」
「まぁそんな怒るな。リーゼロッテ、可愛い顔が台無しだろう? ……お前と交わした契約はこうだったな。我が街で造られた売れない魔法具を買い取る。代わりに我は相応の貨幣を支払い、リーゼロッテの造った超一級品を受け取る。…………だがリーゼロッテよ。我が渡した貨幣は本物だろうか?」
フィティーがとぼけるような声で尋ね、クスクスと薄気味の悪い笑い声を上げた。さきほどまで馬鹿なイメージしかなかったが、今はなんだか邪悪な雰囲気も醸し出している。頑張って練習したのだろう。
どうやら敵はお馬鹿だが頭は悪くないようだった。リーゼの道具を手に入れ、贋金を寄越していたと言いたいらしい。
「我がこうして種明かしをした瞬間! いままで渡していた貨幣に掛けた虚偽の魔法が切れる! これによって誰かが気づく! この金は偽物だと。そうでなくても貨幣の増えすぎだ。そうしてこの国の貨幣の信用はなくなる! まさに完璧だ! 完璧な計画だ! フハハッハハハハ! げほっ! ごほっ!」
フィティーはまるでラスボスのごとく貫禄ある高笑いをするもみっともなくむせた。
リーゼは責任感や騙されていたという事実によって怒りに満ちているのだが、なんとも情けない姿を見せられ続けて複雑な表情をしていた。しばらくするとフィティーは何事もなかったかのように話を再開した。
「そして! 我々が手に入れたゴーレムは人間に牙を向く! アルトゥリック産のゴーレムは全て暴走だ。王都では悲鳴が上がっているだろう! フハハハハハ!」
なるほど、リーゼを利用して兵力も手に入れようって狙いか。思ったよりえげつないことをしてやがる。だが、そもそもこいつは誰なのか。フィティーとかいう名前以外、顔も性別だってわからない。
「おいフィティーとか言ったか? お前が街を陥落させようとしてることは分かった。けどそもそもなんでそんなことするんだ? 国外追放でも食らって逆恨みとかか?」
どうやらこの質問を待っていたらしい。フィティーはビシリとこちらを指差して、恰好いいポーズを取った。
『……ドドドドドドドドドドドドドドドドドド』
スカイネーターから鬼気迫ったような重々しい音が響く。フィティーは仮面越しからでも分かるほど深紅色に瞳を輝かせ、パキポキと首を鳴らしながらその名を語った。
「我か。我の名はフィティー・ホーンエンハイム。魔王様の僕にして、魔忠将の一人! 真理と虚偽を司る大悪魔だ。ザガンと呼んでも構わ――――っ!?」
フィティーが貫禄ある声質で魔王の部下を自称するなか、彼の発言が途中にも関わらず俺の隣にいたはずのティアが駆け出していた。
「削除削除削除削除削除ォ!!」
もはやどっちが悪魔か分からない。ティアは怨念に取り憑かれたかのごとく殺意に満ちた声をあげ、問答無用でフィティーの顔面に金の十字杖をフルスイングした。
――――完全なる不意打ち。それでも俺は不意打ちなど避けられるのではと懸念していた。だが予想に反してフィティーは回避もままならず、「ぶげゃぱぁ!」などと無様なうめき声を上げながら顔面に金属の一撃を受けて数メートルほど吹っ飛んでいったのであった。




