暴走する金属人形
「本当に…………無事だなんて……って! 早く降ろして! どこ触ってるんすか!?」
「あ、はい。ごめんなさい。でも俺だって年頃の男なわけで多少は仕方ないと思うんだよ」
もう少し、こう……女の子を抱える感覚を味わっていたいものだったが、仕方ない。惜しくはあるが俺はリーゼを降ろした。
「二人ともなにイチャイチャしてるんですか。ワタシなんていきなり落とされたんですよ? もう少しフェアに扱ってほしいものです」
ティアはそう言って俺の目の前まで歩み寄ると、力いっぱいに頬をつねり引っ張った。筋力値がないからか、それとも手加減してるからかは分からないがあまり痛くはなかった。
「いや、ごめん。今度抱っこしてあげるから許して」
「それはあなたが得するだけでは?」
なんてやり取りをしていると、イーリスも不平を訴えた。落とされたときはノリノリだったくせして、今は不満を訴えるようにあざとく頬を膨らませている。美少女じゃないと許されないしぐさである。あざとい。
「まったくひどいですよカイト。私は確かに素晴らしくて尊い力がありますが、もう少し女の子として扱ってほしいところですね本当」
「日ごろから普通の少女らしく振舞ってれば考えてやるよ」
「はー! 偉そうに。そんなこと言ってどうせいざキスしようとかなったりすると絶対臆病風に吹かれるタイプのくせに」
「あー聞こえない聞こえない! とにかくさっさと逃げるぞ!」
そう言って街の出口を目指そうとしたものの、街の様子が明らかにおかしかった。人々が慌てふためき何かから逃げ惑う。線路が爆破されていまだパニックになっているだけかと思ったが、何から逃げているかはすぐにハッキリと理解できた。
『削除削除削除削除削除削除――――』
街を巡回していた警備ゴーレムがまるでティアのような発言をしながら俺たちではなく近くにいる人間を無差別に襲っているのだ。中には目からビームやロケットパンチを放つ個体もあり、遠くはない場所で爆発が轟いた。
「……おいおいおい! ティアウイルスにでもかかったのかポンコツゴーレム共がっ」
「なんてことを言うのですカイト。ワタシをあの無骨で金属質な奴隷人形と一緒にしないでください。ワタシはあんなのと違って36度の熱を持ち、すべすべのもちもち潤い肌です」
「いや、そういうことを言ってるんじゃなくて――――」
「なんで……!? なんで街の人が狙われてるんすか……!?」
リーゼがいるにも関わらず問答無用で攻撃をしてきた時点でおかしいとは思ったが、やはり異常事態らしい。こうしている間にも鉄やミスリル銀で造られた人形共は縦横無尽に街を破壊していく。
「こんな物騒なゴーレムがいるところいられるかッ! さっさと逃げるぞ!」
「なんでそんなわざわざフラグみたいなことを――――」
無意識のうちに口から零れたんだ仕方ないだろ。と口にする直前、突如として空から黄金の輝きが降り落ちた。地響きと轟音を伝え、地面が砕けて砂塵が舞う。何事かと思いその場を凝視していると、ついさっき俺達にロケットパンチを撃ってきたくそったれなゴーレムがそこにいた。
『人間排除排除排除排除』
ゴーレムが真紅の瞳を光らせて、銃口を突きつけるかのように純金の腕をこちらに向ける。
「ワタシは人間ではありませんエクスマキナですだからワタシではなく人間を狙ってください」
「私も人間ではありません! 下等な奴らと一緒にしないでくださいよね!」
即座に身内を切って保身に走るのが素晴らしく人間らしい……なんて関心してる場合じゃねえ! 死ぬ!
「り、リーゼはあいつらみたいなことしないよな……なっ!?」
「あたしも人間じゃなくてドラゴネットっす! けど、けど! さすがに助けられてお礼もしないのは真理錬金術師の面汚しっすよ! 製作者を殺そうとするゴーレムなんて糞食らえっす!」
お前が作ったのかよ。いや、そんな予感はしてなくはなかったけど。
「よく言ったリーゼ! それでこそ男だ!」
「女っすよ!?」
そんなことぐらい知ってる。だがふざけたことを言ってないと、嬉しくて顔が赤くなりそうなので仕方ない。
「仕方ないですね。カイト、ワタシの支援魔法も必要でしょう。手を貸します」
「あとでお供え物として甘いものくださいねー!」
ティアとイーリスも手のひらを返して裏切り行為を中止した。こいつらは冗談で言ったのか冗談じゃないのか判断できないので恐ろしい。
「リーゼ、MP回復のポーションないか?」
俺の問いに対しリーゼは無言で注射器を投げ渡す。なんでこの子は俺の冗談を全て本気にしてしまうのか。いいとこのお嬢様かつ特殊な引きこもりブラック生活がある種の純粋さを保つ結果になったのか。いや、躊躇っている暇はない。
とにかく俺は注射器を適当に体に突き刺した。1ダメージで針が通るのか少し心配だったが、これくらいなら問題ないらしい。中にあった紫色の発光する液体が体に染み渡り力が沸いて来る。
「よっしゃやってやろうぜ。倒す方法浮かばないけどさ!」
「いやはや! 攻撃するのはお待ちください!」
突然、男か女か分からない中性的で落ち着いた声がゴールデンゴーレムから響いた。ゴーレムの声ではない。声の主を判断できたのはリーゼだけだった。
「フィティー!」
彼女がその名を呼ぶと、ゴーレムの頭上にまがまがしい色をした魔法陣が現れ、その中心に仮面で顔を隠し、黒いスーツを着た人が現れた。肩の辺りには手のひらサイズのスカイネーターが漂っていた。




