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純金の粛清

「な、な…………何で来たのよ。……来たんすか。あたしが何したか分かってるんすか!?」


 リーゼは涙を拭うと威圧するように尻尾を揺らし、文字通り双眸に光を灯す。どうして生えてるか分からないケモ耳がピクピクと震えていた。


「大外狩りだな。受身取る準備できてない奴を投げるなって先生が言ってたろ! お前帰ったらお尻百叩きな。ソフトタッチで」


 俺がわきわきとタランチュラをイメージして、わしゃわしゃと手を動かしながら距離を詰めていくと、リーゼは鋭い剣幕で懐中電灯のようなものを向けてくる。


「からかわないでほしいっす! 真面目に答えるッすよ!! 悪いっすけど、あたしはここから出るわけには行かないっす。街の全員の生活が掛かってるんすよ! 今すぐ帰るっすよ! そうすれば無罪にする。駄目なら……倒すっす。この道具で!!」


 ――――次の瞬間、リーゼが持っていた懐中電灯のようなものから紫電に輝く鋭利な光の剣が飛び出してくる。まるでSF映画の代物だった。


「リーゼ、落ち着け。本心で話し合おう。一緒に帰りたくないならなんで助けてって言ったんだ? なんで泣いてくれたんだ? 俺めっちゃ嬉しかったぞ。だから正直になってくれ。あ、もし沈黙を返したらリーゼは泣いちゃうくらい俺のことが好き好き大好きって解釈をして、お前の唇を奪う」


 イーリスやティアと違ってリーゼの扱いは非常に簡単である。案の定、リーゼは大慌てでまごついて、男の上半身すら見たこともないような、生娘のような反応を示した。


「く、唇を奪う!? キスするってことっすか!? いやいやいやいや! 困るっす! そういうのは好きな人としたいっす!」


「聞いたティア? カイトが間接的に振られましたよ?」


「ええ聞きました。くそダサイですね。再開したときに妙に格好つけていたのもあいまって、哀れすぎて涙が出そうです」


 ごちゃごちゃと二人がからかうことに魂を注ぐ。なんだってこいつらはたやすく人の心を傷つけるんだか……俺には到底理解できないね。


「イーリス、ティア。少し黙ろうか。好きじゃないけど嫌いとも言ってないだろ?」


「偉い人は言いました。好きの反対は無関心だと」


「うん、黙れ。それでリーゼ、舌入れられたくなければ正直に話せよ? 助けて欲しいのか欲しくないのか言うんだ。いつ追っ手が来るか分からないんだ」


 リーゼは口篭って、けれども黙ったらキスすると俺が宣言したからか、えーっとだとか、あー……だとか言ってなかなか話そうとはしなかった。それでもなんとか話せる状態まで気持ちを整えたのか、彼女は凛とした態度で答えた。


「そりゃ、誰だって嫌っすよ。こんな狭い部屋で自由もない。けれど、あたし以外にこの街の生活を保てる人はいないっす」


「なんで助ける必要があるんだ? 俺にはわからないね」


「なんで分からないんすか!? 立場と行動には責任が伴われなきゃいけないんすよ! それが押し付けられたものだとしてもっす! ……分かるっすか? いや、絶対分からないっすよね。…………無計画でこんな場所まで来るような奴には…………」


 リーゼの声は段々と小さくなっていき、ぼそぼそと何を言っているのかさえ聞き取れないほどになってしまった。彼女は結局は黙ってしまうとぼんやりと赤い髪を弄りながら、顔を俯かせてしまった。


「そうだな……行動には責任がある。ここまで来た責任として絶対にお前を誘拐してやる。これで街がダメになって犯罪者扱いになるんだったら、追いかけられないところまで逃げよう。それじゃ……駄目か?」


「冒険者できなくなるっすよ」


「そしたらひっそりと畑でも耕してやる。可愛い女の子いるならそれってある意味誰もが抱く理想の生活じゃない?」


 こう、綺麗な川が流れてる秘境的な場所でログハウスを作って、朝は畑仕事で昼はゆっくりと遊ぶなり休むなりして、夜は…………うん! 素晴らしい。世の中の男なら皆羨ましがる生活だ。ヨミちゃんに怒られそうだけど、きっと寛容だと信じてる。イーリスとティアが認めてくれるかも分からんが。


「できるといいですけどね~」


 突然、イーリスが意味深なことを言い出した。ゾクリと背筋が凍りつくような感覚がして、死神の鎌を首に突きつけられたような気分になる。まぁ鎌なんて持ってなかったけど。


「なんだよ邪神。お前が変なこと言うと大体命に関わる問題に直結するから嫌なんだよ。モナ蟹とか水辺の幼女とか、ウデムシとか……」


「いえ、ただ神の宣告といいますか。そろそろこの部屋に来ますよ? ゴーレム」


 そう言うのはもっと早く言えよ。そんな言葉が喉から出てくる前に、重い金属扉がシンバルのような激しい音を立てて倒れたことが理解できてしまった。


『侵入者ヲ排除スル』


 酷く物騒だが聞き慣れてきた機械音が響くと、全長2メートルほどの金の装甲をしたゴーレムが姿を見せた。リーゼは顔を蒼白させると、俺達を庇うようにして両腕を広げゴーレムの間に割って入った。


「ゴールドゴーレム! やめるっす! こいつらはあたしの友人っす!!」


『認メラレナイ。排除ヲ行ナウ』


 ゴーレムは無機質な応答を返すと、その純金の剛腕を躊躇なく俺達に向け、撃ち放った。


「【アフェクト・ゴッドプロテクション】!!」


 ティアが叫ぶようにスキルを唱えるのと、ゴーレムがロケットパンチを放つのはほぼ同時の出来事だった。純金の腕が俺達に向けて飛んできたかと思うと、部屋は閃光と爆音に包まれていた。


クレイジーマシンという名は冒険者が通称として呼んでいるものであり、正式名称はアスプロモンテ四号。

古代ロマロマ帝国が錬金術と超科学によって生み出した侵略機械兵器である。しかし今はその機能を失い、モンスター・冒険者を無差別に襲い、切り刻む殺戮機械と化しており、狂機械クレイジーマシンと呼ばれるようになってしまった。

 稼動地域は古代ロマロマ帝国が支配し、北はブリッチョ諸島、東はテューグラテスにまで及ぶ。

全長は5メートル48センチ27ミリで、その体は八本もの脚と回転軸によって支えられており、円錐状の胴体部分には腕のように取り付けられた四本ものサーベルとモノアイ。天辺部分にはサイレンが搭載されている。脚の裏には特殊な重力魔法が作動しており、1トンもの重量を軽々と支えることができることが近年になって判明したが、その詳しい構造はいまだ不明である。悪魔の技術を使ったという通説が最も有力であるとされる。

 武装は四本ものサーベルと、モノアイから放たれるレーザー攻撃。そして頭上のサイレンによる音魔法である。このサーベルは魔奪剣と呼ばれるマジックアイテムで、生物を斬りつけ出血させることによって対象から魔力を奪う特殊な能力がある。極めて価値の高く、利用性のある武器のため多くの冒険者がクレイジーマシンの持つ剣を狙うが、その9割が返り討ちに合う。また生物から奪った魔力を動力として活動していると推測される。

 モノアイから放たれるレーザー攻撃は生半可な金属防具では一瞬にして貫通されてしまうほど強力な光魔法であり、アルトゥリックは現在このレーザー攻撃を再現するべく技術の限りを尽くしているが、稀代の天才錬金術師と呼ばれるリーゼロッテ・フォン=アルトゥール・エルリックの手を持ってしても、いまだこの光魔法を越えることはできていない。しかしモノアイがレーザーを放つため特化させたことが原因で視認能力はさほど高くないと思われる。しかし一度標的とされるとターゲティングの呪文によって並々ならぬ命中精度を誇る。

 サイレンによる音魔法には歌姫ディーヴァ)と同等、もしくはそれ以上の能力があり、攻撃力上昇、速度上昇はもちろん、標的に対しては多様なデバフから、稀に潰命歌リーパーソングと呼ばれる特殊な音魔法で即死攻撃を行うことも確認された。

 装甲は魔力結晶とミスリル鉱石を合金したものとなっており、正六角形の小さな板の集合体である。非常に頑丈で生半可な武器では傷一つつかず、また魔法耐性も高いので基本的に弱点はない。

 クレイジーマシン及び古代ロマロマ帝国製の機械の多くが交尾と呼ばれる行動を行なう。これは同機種のみで行なわれ、このときのみ回転軸部分に全長30センチもの直方体の物体と、それに対応した穴が形成される。しかし交尾によって繁殖、増殖することができるのは機械を超越したエクスマキナと呼ばれる種族のみであり、この行為に何の意味があるのかいまだ不明である。今現在最も有力な説として上がっているのは情報の交換であるが、それはサイレンとモノアイの発光によって行なわれていることが確認されているため、反対意見も多い。

 クレイジーマシンおよび古代ロマロマ帝国が作り上げた機械は繁殖・増殖・生産といった行動を確認されていないため、年々個体数は低下していくはずなのだが、個体数が0になったという報告はなく、特定の範囲内から特定の個体数が減ると魔界を経由して再び現れている。壊れる前の時間から持ってきているなどの噂が一人歩きしており、倒しても倒しても絶滅しない機械として世界七不思議のひとつとされている。


人間とのかかわり。


 大変危険な存在であり、交易商、冒険者、そしてモンスターからも恐れられる存在となっている。しかし交尾が行なわれる時間は周期的であり、その時間帯であれば安全であるため陸路を使う商人達は特定地域のクレイジーマシンがいつ交尾するかを完全に把握しているといわれている。

 冒険者はクレイジーマシンを倒すことができれば晴れて一流冒険者を名乗ることを許されるといわれ、魔奪剣や装甲を加工して作った防具は一人前の証とされる。技術面の開発のために王都や錬金術師達がコアパーツを高額で買い取るほか、報酬に加え、部品や装甲を売れば目が眩むほどの大金が手に入ることから富の象徴ともされている。

 また、そのメタリックな外見に畏怖すべき戦闘能力から子供達に大変人気な存在である。1/20サイズのクレイジーマシン人形や魔奪剣のレプリカなど、玩具屋に行けば間違いなく売られている大人気商品である。近年、奇妙な口調で目に黄金の義眼をつけた白髪の男性が作り、王都を中心で大ブームとなっているゲーム、ソード&マジックと呼ばれるカードゲームにおいても大変強力なカードとされている。


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