剣豪ヴェーダとの対峙
ごめんなさい投稿し忘れました。
「くそバレた! 【マジックローション】!!」
追い掛けてようとする兵士に向け、ぬめぬめのローションを噴射する。直接浴びてしまった人達が目や気道の痛みを訴え、一人が転ぶと面白いように転んでいく。
しかしイーリス達のバフがあるとはいえ、魔力消耗が激しいのか立ちくらみのような感覚がした。
俺達は後ろを見る余裕もなく死ぬ気の思いで廊下を百メートルぐらい走り続け、やがて分厚い木製扉を開けて調理場にお邪魔した。
そこは金属製の水を出す魔法具やら火をつける魔法具やらで元いた世界のレストランとかにある調理場とさほど変わらない風景が広がっていた。
……唯一違うのは、そこにいるのがコックさんではなく、白く美しい刀をもったイケメンがいることだ。彼は調理場の中央で悠然と俺達を待ち構えていたのだ。
「やぁ、ここで待っていれば通ると思ったよ。ベネッティアとクレアがなんだかそわそわしているとは思ったけど……まさかグルだったなんてね」
「イケメ……いや、ヴェーダ。まさかこんなところで待ち伏せか? 趣味が悪いんじゃねえか?」
なんとなく余裕そうに、ちょっとばかし格好つけてそんなことを言ってみるが、事態はあまりよくない。イケメン君はオンリーワンのことを知っているから股間をハンマーで叩き潰そうが、いつぞやの誰かさんみたいに刺し貫こうが無理だろう。そしてこいつは…………単純に強い。50万を超える金額を奢らされて怒らない精神力もある。
「ヴェーダ! そっちに侵入者が逃げた! 捕まえてくれ!」
俺達がさっきまでいた廊下のほうから声が響く。……そうだ。部屋に入ってきた兵士の一人を【パラライズタッチ】で麻痺させて人質にすれば――――。
「君達は来ないで構わない! 廊下で待機していてくれ。下手に人数を増やして盾に取られたら厄介だからね!! ……【ロックザドアー】」
イケメン君は俺が咄嗟に考えた人質案を見透かし、兵士達に待機命令すると何かのスキルで調理場の扉を施錠してしまった。屋外と隣していないため窓もなく、脱出は困難となった。
「わざわざ何故……54万3千Gも奢って、20万Gも観光費と帰りの運賃も渡したと思う?」
「…………太っ腹だからか?」
「違う!! リーゼロッテ様のところに行かせないためだ。正直君達なら金を借りパクして逃げるかと思っていたよ……本当驚きだ。そして――心底絶望したよ。【銀凍冷撃】」
ヴェーダは強情で、怖いくらい真剣な表情で刀を横薙ぎした。すると刃が描いた斬撃を中心に凍えるような冷気と鋭利な氷の波が広がり、鋭利な氷が喉元で止まる。
どうやら『脅し』ているようだった。
「今からでもいい。帰ってくれない? 君達のスキルでは僕に勝てない。持久戦をすればゴーレムで包囲する。逃げ場はないよ」
「……そうだな。戦うのは無理だ。なら交渉しないか? リーゼたんの髪くんかくんかしたいんだろ?」
イケメン君が露骨に目を見開いて、嫌な奴を見てしまったかのように歯軋りをした。動揺するのが分かりやすくてありがたい。
「あの文章は帰り際に手紙を渡そうとしたときに、リーゼ様の持っていたマジックアイテムが発動しただけに過ぎない。僕の意思ではない」
「へぇ。ならリーゼロッテちゃんのお胸の感触とか尻尾を動かす感覚が分からなくていいと。そうおっしゃいで?」
「なッ!? どういうことだ?」
「いやな。ちょーっとアルトゥリックの魔法具を色々見て回ったんだが。そのなかに興味深い道具があったんだよ。対象が体験した特定の出来事を再現する道具ってのがあるんだな。いや、現物はここにはないぜ? ただこれがあれば……あとは言わずともがな」
追憶のポーションというらしいその魔法具は実に素晴らしいものだった。ビデオなら視覚だけだが、この道具は五感で感じることができる。
夫婦仲を解消するための夜の道具を販売していたあの店の隣にあったが、そのポーションを使って男の欲望を満たす体験もできるわけだ。というかAVみたいなノリでそういうのが既に記録されたポーションが沢山売っていた。
ドラゴネットとイチャイチャする奴もあった。記録時間1時間20分で30万G。そしてこの街に住んでる男がこの道具について知らないわけもなく、
「…………い、いくらだ? いくらで記録してくれる?」
イケメンもとい男ヴェーダは見事釣られた。その姿にもはやイケメンオーラはない。あるのは男らしい人間が一匹だ。
「金なんて……いや、まぁ金額は相談だ。前提条件として道を開けてもらおうか」
「それはできない……!! リーゼロッテ様を悲しませることになる」
「そうか。ならお前は永遠にリーゼに似た人物で済ますんだな。あんなところに軟禁してお前に恋愛フラグが立つと思うなよ? 仮にデーティーを卒業できたとしたって、お前の想い人は城の最上階。永遠に届かない高嶺の花だ。分かる? 俺の言ってること」
「カイト、まるでお姫様を監禁した悪の親玉みたいになってますよ?」
イーリスが茶々を入れてくるが知ったこっちゃない。ヴェーダ君は頭を抱えて悩んでいる。もう一押しだ。俺はとっておきの言葉を告げる。
「……リーゼロッテの胸の感触もそうだけどな。知ってるか? あいつ……履いてないんだよ。凄いスースーする」
「リーゼロッテ様……お許しください。僕がこの場所を食い止める。君達は早く行くんだ」
ガチャリと、行く先の扉が開く。これで俗物がまた増えた。やはり人間もっと欲望に忠実になるべきなんだよ。
「ありがとう! 絶対約束守るから! 男同士の約束だ! よし行くぞ!」
そう言って俺達は調理場を後にした。この先は三階に進んで、尖塔に繋がる通路を通ればあとは階段だけである。
「やっぱりあの人も変態ですね」
部屋を去る際、ティアが呆れるようにそんなことを呟いたので、俺は彼の名誉のために教えてあげるのである。
「だって人間だもの」
これまさしく至言である。




