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竜の一族

 どうしたものかと思いつつ、しかし体の自由も効かない。そのうち俺は効果が切れるまで考えるのを止めた。


 ……約一時間が経過した。入れ代わりの効果時間が過ぎたようで、残念なことに元の体に戻ってしまった。目の前では山賊の一匹が痙攣しており、真面目な話早く麻痺が治ってほしいところである。


 …………約三時間が経過した。これはある種の拷問に違いない。空が心なしか橙に染まっている気がする。麻痺は治るのだろうか。このまま餓死とかしなければいいが。


 ………………夜になった。ようやく喋れるくらいには麻痺が和らいできた。多少なら這い蹲って移動できるくらいか。武器を持ったり立ち上がるには少々厳しい。


「リーゼ。あとでお仕置きだからな」


「酷いっすよ! 投げたのはカイトじゃないっすか! あたしはただ道具を作っただけっす!」


 夜の森に悲鳴に近い声が響く。まぁこんなところに俺達以外誰もいないんだ。何言ったっていいだろ。


「悪い科学者みたいな言い草はやめるんだ。お尻ぱ……ぺんぺんの刑に処すからな!」


「今なんて!? 助けて欲しいっす! イーリス! ティア!」


「削除削除削除削除」


「はぁ……思い出してみれば昔もこうして体の自由を奪われたものです。……もう少し成長した体にすればよかったなぁ」


 口が聞けるようになると蓋が外れたかのように皆自分勝手に喋り始める。それは山賊も例外ではなかった。


『クックック。動くなヨ。まぁオマエラは悪い奴ジャねえ気ガスル。ここは見逃しテもいイ』


『拙者! 汝ラ! 無罪トス! ハラキリ免除デ候!』


 山賊たちはそんなことを言うとにこやかに微笑む。なんだろう。ストックホルム症候群的なものを発症しているのだろうか。あんまり情が移りそうなことを言われると殺しにくいのだが。


「なあリーゼ。いつ治るんだこれ。まさか一晩明かせってことはねえよな? そしたら俺はイーリスとティアとリーゼと山で長い夜を明かしたって広めるぞ」


「止めるっす!! カイトはそんなハーレムみたいなこと無理っすよ! 諦めろっす! うわああん! 誰か助けて! 助けてくれっす! このままだと変態に名誉を犯されるっす!」


 リーゼが半泣きになって夜空に助けを求める。――――静寂。少女の哀れな声は夜闇に溶けていった。かと思ったのだが、それは違った。


「ようやく僕らの麻痺が治ったから助けに来た! 【斬銀刀】!」


 ピンチのときに助けにくる――――それはまさしくイケメンの特権。イケボが森に響くとき、俺の隣にいた山賊の生き残りたちの首がポロリした。遅れて、刃が銀に煌めく一閃が描かれる。


「ああああ! 山賊が! そんな!」


 感情移入しかけていたイーリスが心底悲しそうな声を上げる。だが無情にも、地面に落ちた首にトドメと言わんばかり矢が突き刺さった。


「ふっ! 【アローストライク】でやんす」


 おかしな口調の、ヘソ出しスパッツ犬耳少女が、もふん! って感じの鼻息を鳴らしながら、弓やを中二病っぽく構えつつ、イケメン君の隣に着地する。


「【キュアオール】!」


 俺がモナ蟹に殺されたときに蘇生してくれた金髪貧乳のシスターちゃんの声が聞こえ渡ると、癒しの光が体を包み込んだ。ふわりと、全身が羽にでもなったかのような軽やかさに満ち溢れ、麻痺の呪縛が消え失せる。


「ああああ! めっちゃ背中バキバキ鳴る! でも助かったー! リーゼの所為で死ぬかと思った。なんか何回も助けてもらってるな。俺達」


「私も負けませんよー!」


「ワタシのほうが凄いです。バキバキバキバキ!」


 俺がこれでもかと全身をバッキバキ鳴らしていると、イーリスとティアが張り合う。が、俺の勝利である。そんなくだらないことをしていると反省の色もなくリーゼが歩み寄った。彼女は子供のように無邪気な笑顔で翼をパタつかせて黄金の瞳をこれでもかと輝かせていた。


「でもこれで未知が一つ解明したっす。次は雷竜の角は省くっす!」


「もう不可能でございます」


 いつのまにかイケメン君が目の前にいた。彼はいつもの爽やかイケメンな様子とは打って変わって、酷く張り詰めた表情で、半ば強引にリーゼの手を取ると、その場で跪いた。


 遅れて、イケメン君の仲間と思われる馬鹿っぽそうな射手アーチャーと生真面目そうな金髪シスターも頭を垂れた。


「リーゼロッテ・フォン=アルトゥール・エルリック様。あなた様のことを思い、わたし達はあなた様の家出をお手伝い致しました。罰は我々が全て請け負います。ですが以前の地下渓谷の濁流や今回の魔方陣で家出先が完全に発覚してしまい、数時間ほど前に携帯電話に明日迎えに行くと連絡が入りました。……帰りましょう。お手を煩わせればあのお方がアルトゥール様に何をしでかすか分かりません」


 正直な話、何を言っているかあまり分からなかった。だがそれでも理解できたことは俺達のパーティーメンバーであったリーゼが実はお偉い人で、彼女は連れ戻されようとしている。


「……そういうわけっす。この口調も楽しかったすよ。カイトさん。短い間でしたけど、ありがとうございます。行きましょうか。ヴェーダ、クレア、ベネッティア」


 リーゼから硝子を思い切り傷つけるような歯軋りの音が響いた。全身に力を込めて、黄金の瞳が潤む。 だが無力さに打ちひしがれたような切なげな表情を浮かべて、酷く脱力すると、違う世界に住んでいるのだと確信させるほどの丁寧な言葉遣いとお辞儀をし、踵を返した。


「何を言ってるんだ? おいリーゼ!?」


 俺が咄嗟に肩を掴むと、リーゼはなんらかの武術を用いて俺を軽々と投げ飛ばし、竜の双眸で威圧した。


「言葉には気をつけろよ? 平民風情が」


「……!!」


 背筋が凍りつくような感覚がして、俺はみっともなく黙り込んだ。ティアは状況把握ができていないのか困惑して俺とリーゼを交互に眺めている。相変わらずのポンコツっぷりだ。


 しかし、邪悪な女神だけはこんな状況でも、……いや、むしろこの時を待ち望んでいたかのような、含み笑いを浮かべて、事の顛末を傍観していた。


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