作戦失敗の黄金魔方陣
……というわけでクエストに向かった。現在時刻は真昼。天気は快晴。場所は始まりの草原を北西に進み続けた場所にある山岳地帯。緩やかな斜面に緑々しい森林が広がっているらしく、モンスターさえ出てこなければ、そして俺の体に与えられたちょっとした制限さえ無ければ遠足気分である。
今回の目標は俺達が普段いる始まりの街ビギンと世界の魔法具工場と言わしめる巨大都市であるアルトゥリックを繋ぐ陸路に山賊というモンスターが現れたので殲滅しろとのことだ。
梅雨のモンスター図鑑には残念ながら載っていないが、昔の人間が本物の山賊に抱いた恐怖心や童話や小説などを媒体にして皆がイメージした山賊がなんかそういうアレをしてモンスターになったらしい。
ちなみにだが本物の人間が山賊行為を行うことはモンスターの増加や転送魔術の発達によって皆無になったようだ。
「なあティア……じゃなくてリーゼ。本当に平気なのか? スキルとか複雑になって悪化した気がするんだが。あと前が見えないで歩くの怖いんだが」
「大丈夫っすよ。この辺りは人もいないっす。よってあたしの恥ずかしい格好はバレないっすし、手錠の鎖を持って先導してやるっすから安心してくださいっす」
体の入れ替わりは治っておらず、依然として俺がリーゼなわけだが、いつセクハラされるかわからないとのことで今度は俺が目隠し手錠の拘束プレイを受けていた。
女の体にノーパンと、ただでさえ変な要素が多いこの体に目隠しをされると、ちょっと肩に虫が止まっただけでもくすぐったいような変な感覚がして、言葉に出来ない何かを感じる。……これも大問題ではあるのだが、それ以外にも問題が生じていた。
「カイト! 私が使えるスキルは【スティール】と【パラライズタッチ】でいいんですね?」
「バカぁ……っ!! なんでスキル名を言っ……んア! これなんか目覚めりゅ……」
「やめろおおお!! あたしの体で変な声を出すなっす! うにゃああああ! ベルトが! ベルトが!! こんなところでコートを脱ぐのはまずいっす! モロに見えちゃうッすよ!?」
イーリスが発動可能スキルを確認するために俺に対して麻痺と窃盗を試した。電撃が走るような痺れが全身に回り、力が入らなくなって四つん這いになったとき、腰の辺りの圧迫感がふっと消え去り、体が軽くなる。一秒ほど遅れてどさりと音がして、太もも辺りに触れていた布の感覚が消えた。
「俺……どうなっ…………てるんだ? 凄い恥ずかし……ンだけど。あと……変な趣味できそ……う」
「【キュア】!! 今状態異常治癒したっす! だから早く立つっす! 服を着せないとまずいっすよ!」
……何が言いたいかというと、個人スキルは精神に染み付いているが、スキルポイントを使って習得したスキルは体に染み付いているらしい。つまり俺は糞の役にも立たない【オンリーワン】等はいつものことだが、錬金術師のスキルが使える。しかし【パラライズタッチ】や新しく習得した【マジックローション】は使えないのだ。
「愚民共。ワタシは神と同等の存在になりました。なので山賊はさっさとぶっ殺しましょう。敵はどこにいるのです」
道中見かけたモンスターを全て殴り殺したらしいティアは返り血塗れになっているらしく、青を基調とした衣服は黒に染まりかけている……らしい。
本物のイーリスが言うには頬にも血がべっとりついており、いつものあざと可愛い超絶美少女茶髪ロリはおらず、今俺達の隣にいるのは邪神であるとのことだ。
……目隠しをしているために、いつもの邪神と見分けがつかないので正直どうでもいい。だが山賊を見つけるべく猫耳薬で感知を増加中とのことで、頭に可愛らしい猫の耳が生え、尻尾がふりふりと動いているとかいないとか。こればかりは見たかった。
しかし、そんな姿が気に入らないのか、俺の姿のイーリスはぶつぶつと女言葉で文句を垂れていた。
「まったく酷いです。なんでこう……人というものはすぐに血塗れにしたり火あぶりにしたり、これが分からないです。なんで可愛い女の子なのにもっとファッションに気を使わないんですかー! 私なんて昔は強制的に男装をさせられて、もう色々大変だったんですよー!?」
「イーリス。俺は視界は遮断されているが聴覚は正常だ。だから男の声で女言葉を使わないでくれないか? 俺がそっちのケの人に見えちまうだろ」
「ア! ワタシの猫耳に反応ありです。北北西方向! 距離500メドル! 削除! 削除!! 削除ォォオオオオ!!」
地獄の亡者のような声が森に響き、一陣の風が走る。イーリスが敵に向けて突貫し始めたみたいだ。
「リーゼ! さすがに目的のモンスター来たっぽいし拘束を解いてくれ!」
「りょ、了解っす!」
がちゃがちゃと手錠が雑に外され、蒸れて痒かった目隠しからついに開放される。この体をまさぐりたい触りたいなぁという願望を押し殺しつつ、俺は皆に指示を出した。
「イーリスはティアの援護を頼む。俺はなんか猫型ロボットみたく秘密の道具で多分どうにかする!」
切り込み隊長のティアがいかにも山賊って感じの髭もじゃ大男の顔面を蹴り砕くなか、イーリスもいかにも歌舞伎役者みたいな見た目をした山賊? に攻撃を仕掛ける。
敵の数は十匹となかなか大人数であったが、なんだか統一性がなかった。ただしく伝わったのであろう山賊もいれば、歌舞伎役者やカウボーイ、海賊のような服装をした敵もいた。だが武器は全員オノか竹輪である。
『グヘヘ! 女子供は高値で売り捌いテやるゼ!!』
『ゲイシャ! フジヤマ! ハラキリ! セップクセヨ!』
「……どんな伝わり方したんだろ。じゃなくて! 二人共! 斧持ちから先にやっつけろ! 竹輪は怖くねえ! 俺も支援する! なんか武器っぽいもの無いのかな……!」
リーゼは道具を取り出すとき、いつもマジックみたいに衣服から出すのでロングコートの中に手を入れてみるのだが、太ももの柔らかな肌な感触が伝わってくるばかりである。
「ちょおおお! あたしの体をまさぐるなっす!! 今絶対変なとこ触ったっす!」
「ちょっとしか触ってねえよ。……と、ようやくなんかあったぞ。この道具はなんだ? グレネードか?」
俺は太ももを触りながら、パッと見グレネードらしきものを取り出す。大きさは手のひらサイズで、ゴツゴツした楕円形の物体に金属のレバーのようなものが突き刺さった外見をしている不思議な道具である。
「お! いいものを取り出すっすね! それは使うと着弾地点を中心に爆発が起きて、その際周囲にいる奴らを麻痺させるっすよ! 使ってみるといいっす! まだ実験段階なんでぜひ使えっす!」
範囲麻痺か。……【パラライズタッチ】が産廃じゃないか。畜生。だが素晴らしい投擲武器だ。
「リーゼって右利き? 左利き?」
「どっちでも大丈夫っすよ。早くあたしの自信作! 【メチャシビレール】を投げるっす!」
「ダサえネーミングだな! だがおーけーだ! じゃあ投げるぜー! イーリス、ティア 援護するぜえええ!!」
俺は山賊に届くであろう位置までだいぶ近づき、リーゼも結果を観測すべく歩み寄ったところで、全力をもって投擲した。放たれた【メチャシビレール】は空中で黄金の魔方陣を展開し、地面に着弾した瞬間、周囲を白の閃光で包み込む。
「んア……!?」
稲妻が落ちたかのような衝撃がビリビリと俺に伝わった。それはさきほど受けた【パラライズタッチ】とほぼ同じ感覚で、どうすることもできずに落ち葉積もる地面に倒れた。
白い光が消え、森の静けさが戻る。そこに戦いの声も音も聞こえない。必死になって周りを見渡してみると、麻痺状態になって微動だにできなくなった俺達と、哀れな山賊をしっかりと視認できた。そう、有効範囲が広すぎたのである。




