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次なる計画

 WRYYYY! ってな感じでガッツポーズ。すると、当然の権利と言わんばかりに彼のお仲間であったエルフと気の弱そうな魔女っ子が声を上げた。


「あんなの反則です! ヒビキさん? 大丈夫ですよね? その……アレがアレしちゃってたとしても私達は仲間ですよ。……バカにするかもしれないですけど」


「僕も平気ですからね! それより許せないのはあいつです! あんなのずるいです!」


 僕っ子魔女が俺を指差す。


「正々堂々戦って勝てるはずないだろ。レベル差がありすぎる。それこそ決闘に対する手抜き……つまりは対戦者を馬鹿にする行為じゃないのか? 俺は勝つために全力を尽くしたに過ぎない」


 ……なんて、思い付いたことをペラペラと口にしてみる。周りでは堅実な賭けをしていた奴が狂気に陥り、俺に賭けていた馬鹿が狂喜していた。


「なんで勝っちゃうんですかああああ!」


 イーリスはその童顔を目と鼻の距離まで近付けると、俺の胸倉を掴み、有無を言わさず背負い投げた。石畳に、一切の手加減なく。凛として正義の執行を下した。痛い。とても痛い。


「痛えな。スキル無かったら悶絶だぞ」


「スキル無かったらしませんよ馬鹿! どうするんですか! 有り金無くなっちゃったじゃないですか!」


 イーリスは栗色の髪を荒らぶらせ、げしげしと、地面に倒れる俺を何度も踏み付ける。

 お嬢さん。見た目に似つかない大人びたラメ入り紫が見えてますよ。


 賭けに負けたリーゼも鞭のように尻尾をしならせながら訴えた。


「そうっすよ! ティアから借りたお金を倍にして返す計画がパーっすよ! おかげで手元にお金無くなっちゃったじゃないすか!」


「ひっでえ計画だな。絶対お前に金貸さないわ。とりあえず残ってるココナッツポメポーメ捕獲して、さっさと帰ろうぜ。ティア、バフ頼む」


「…………スカートめくられた。見られタ…………。見らレた……。カイト、大胆。普通の人にハできなイ」


 ティアは夢見心地に恍惚として、その場で悶々とし始める。白く細い脚をもぞもぞと動かし、手錠のついた手が俺の腕を掴む。


「なんでいちいち所作がその……アレなんだ?」


「……言わせなイでくだサい」


「わかる? 俺、チェリーなの。本当謝るからさ。いつものティアに戻ってくれよ……」


 ……本格的にガタが来てるのかもしれない。さっきからエラー吐いてるし。このままだと俺が昔使っていたパソコンみたいにファンの音が響き続けて、10分ぐらいで40℃を超え、ブルースクリーンを映し出すような日も遠くないのではなかろうか。漠然とした不安が心に残り、なんだかやるせなかった。



 ココナッツポメポーメはいわば鴨が葱を背負ってやって来たような存在らしい。決闘が終わるなり、皆血眼になって捕獲作業を再開した。


 俺は床にココナッツオイルがあって滑ったと言い訳してリーゼを押し倒そうとしたところをイケメン君の必死のディフェンスで止められつつ、適当に捕獲してギルドに戻った。


「こ、ココナッツポメポーメの捕獲数48匹。しかもうち20匹がココナッツミルクポメポーメでしたので、合計で16万Gです。お、お疲れ様でしたー!」


 受付嬢は金だけ乱雑に投げ渡すと、心のシャッターを閉じて俺達を視界外に追いやった。原因は明白単純。ティアがいまだに拘束具を付けているからである。


「なぁ……もうモンスターいないから外してもいいんだぞ? 手錠も鍵開けたし、無理してつける必要ないんだぞ?」


「仕方ないですね。では目隠しだけ外してください」


「いや、自分で外せよ。というかなんで手錠は付けようとするんだよ」


 俺が冷たくあしらうと、ティアは不満そうに頬を膨らましながら自分で目隠しを取り、大切そうにそれを胸に当てた。


「エクスマキナは確かに人格があり、固体固体で能力も好きな食べ物も違いますが、総じて共通する点は……ワタシ達へのプロポーズとはワタシ達を所有物扱いすることです。つまりは責任を取ってもらう必要があるわけです」


 俺は助けを求めてイーリスに眼力を当てる。だがあの生意気な邪神は冷ややかな、意地の悪い笑みをニヤニヤと浮かべ嘲ると、次の瞬間には無邪気な少女のフリをして自らの手で作り出した音符を追いかけ逃げて行った。


「……責任って? あ、このマンドラゴラとシャーマンブロッコリーのバーニャカウダとオレンジポメポメジュースください」


「ワタシの所有者として相応しいような……誠実で、格好良くて、誰にも負けない人になってもらいます。ワタシはブタナシブタブタのミミガーとブタナシブタアリブタブタの生ハムをください」


「ティアっち。それブタナシブタブタのブタとブタナシブタアリブタブタでブタがダブってるっすよ。あ、あたしはバナナジュースくださいっす」


「豚があるのかないのかハッキリしろよまどろっこしいな」


 イケメン君に宗教勧誘しに行ったイーリス以外が適当な料理を頼んで席に着く。一体どうしたものか……ティアの対応に困る。格好いいとか整形手術しないと無理だし、誰にも負けないとか【オンリーワン】の所為で詰んでるし、誠実なんて言葉は俺の辞書にない。


「リーゼ。記憶消去の薬とか作れないのか?」


「勝手に人の甘イ記憶を消そうとしないでくださいよ。アア、……あの俺様チックな囁きがまた聞きたい」


 だからその囁きをしたのはイーリスなんだよなぁと思いながら、一人悶えるティアを眺める。彼女の胸は腕の動きに合わせて柔らかに動いていた。凄い、いいです。


「作れないことはないっすけど、手元に素材がないっす。ブラックドレイクの血とティンダロスの次元液と画面越しから飛び出す少女の黒髪が必要っす」


 それに比べてリーゼはまるで男みたいにスレンダーである。けれどヘソ周りの引き締まった部分は両手でたやすく掴めそうな体系で、これはこれでまたよし。


「無理かー……。他に手があればいいんだが。せめて暴走だけでも抑えたいんだが」


「あ、そうっすよ! 拘束具は外見が悪いっすから上っ面は変わらないで暴走を防ぐ方法を考えたんすよ! 明日のクエストで試していいっすか!?」


 リーゼは快活な笑顔で人体実験をしたいと、再び俺に交渉してきた。俺はそれを快く受け入れ、互いに握手を交わした。実行日は明日の朝。何をするかは分からないが、きっと彼女は俺が喜ぶような結果を見せてくれるだろう。そんな気がした。


「あ、猫耳生える薬くれ」


 ついでに、薬物取引も完璧である。あとはこいつらにバレないように密かにスキル習得でも行っておくか。


水辺の幼女

人魚目ローラレイ科に分類される亜人で、比較的流れが緩やかな川や池、沼、湖に生息する淡水人魚である。マーマンとは近縁ではない。


水辺の幼女は外見は人間に似るが、総じて体格が小さいものが多く全長は120~150cmほどである。飼育された系統の個体は体高が高く、動きも遅いが、野生の個体は体高が低く細身な体つきで、動きもわりあい速い。


食性は雑食性で、水草、貝類、ミミズ、昆虫類、甲殻類、カエル、他の魚の卵や小魚など、口に入るものならたいていなんでも食べる。だが人間に対して強い敵意と捕食願望があり、人間が通りかかったときのみ、彼女達の習性である演技が見られる。口に整った歯があり、笑顔を浮かべると綺麗に見える構造となっている。亜人の特長として高い知力があり、硬い貝殻なども石で砕き割って中身のみを食べる。人魚目の特徴として、サーチマデュラ器官を持ち、魔力に敏感である。


産卵期は春から初夏にかけてで、この時期になると6:4の割合で雌単体と雌雄同体が現れる。雌単体の水辺の幼女は岸辺に集まり、求愛行動を取り始める。


彼女達の求愛行動は人間の雄をどれだけ引き寄せられる演技力があるかである。彼女達は単純な言語なら発することもでき、言葉と上目遣いなどで雌雄同体の固体の庇護欲を駆り立て、誘惑する。

雄は二匹の雌固体とカップルを形成すると行為を行い、雌はバシャバシャと水音を立てながら水草に産卵をおこなう。一度の産卵数は5~6個ほどもある。卵は付着性で水草などに付着し、数日のうちに孵化する。稚魚はしばらく浅場で過ごすが、成長につれ深場に移動する。

生まれて二週間ほどは通常の魚のような形態をしているが、満月の夜を越すと一日で水辺の幼女の姿となる。


生命力は極めて強く亜人にしては長寿の部類で、平均にして70年を超す個体も多い。鱗の年輪から推定された最長命記録は、レグルス王都で佐藤猛飼われていた「キャロル」と呼ばれる個体の226年だが、これは信憑性が疑問視されている。長寿であることのほか、汚れた水にも対応する環境適応能力があり、しかも水から上げてしばらく水のないところで置いていても、他の人魚目とは違い一週間以上生存することが可能である。


幼女は飼育用として人気が高く、顔、鱗の色彩の鮮やかさ、大きさ、体型を価値基準として高額で取引されている。だがほとんどの地域において倫理的問題を理由に飼育は違法とされており、認められている地域でも幼女育成許可証が必要とされている。


水辺の幼女の最も大きな特徴は他の人魚目が誘惑のスキルを行使して冒険者を誘うのに対し、彼女達は演技と呼ばれる習性で通りかかった人間の雄をおびき寄せることである。

彼女達は人間とほとんど変わりない外見をしているが、八重歯や首から背中の一部分にかけて鱗があるため、植物や動物の革から衣服を作り人間が近づいたときのみ早着替えをして擬態する。

そして水辺で負傷や溺れたフリをし、油断したところで水に沈め、窒息死させる。水辺の幼女は麻痺、石化、毒に耐性があるため注意が必要である。


彼女達の多くの固体が言語を習得しているが、この言語は生息地域によって異なる。人間の言葉を学習した祖先が子に口伝していると実証されており、言葉を覚えていない幼女は喋ることはできなかった。しかし人間が言葉を教えた場合は人間と変わりない程度に喋ることが可能である。


人間とのかかわり

彼女達はその外見から一部のマニアに需要があり写真などは高値で取引されている。しかし最も問題になっていることは彼女達の密輸・売買であり、倫理観の問題から重罪とされているが、彼女達を密漁する人は後を絶たない。

これ以外の問題としては野生の幼女が冒険者達に餌付けされ、飼い慣らされてしまうことである。パンなどを分け与えられた幼女はこれを学習し、本来襲うべき人間に対して敵意を示さなくなり、擦り寄って食料を求めるなどの行動が確認された。

このことはギルドで大きな問題となっており、本来の生態を優先すべきではあるという意見と、冒険者が安全になるならば餌付けを推奨すべきであるという意見が対立している。


また、冒険者であった山田栄治の手によって丁重に飼育され、言葉や法律を教えられ、共に飯を食べるなどをした水辺の幼女「ドロヘス・ヘイズ」通称:ロリータが冒険者になった例が二年ほど前にあり、そもそも彼女達はモンスターではなく友好亜人なのではという声も上がり始め、さらなる議論を生み出すことになる期待のモンスターである。


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