突き穿つ神滅の槍<ゲイ・ボルグ・リベリオン>の使い手(爆)
――――街を歩くなか、当たり前かもしれないが好奇の目線でずっと見られていた。まぁいたいけな銀髪少女に目隠しと手錠をして連れ回してたら当然の反応だろうか。まぁ一番心に傷を負うのは俺ではなくティアだろうから問題はない。
「……前が見えなくて怖いのですが」
応答停止が直ったのか、ティアが震えるような声で呟いた。その表情は紅潮しているような、引き攣っているような、とにかく複雑なものである。視界が閉ざされているためか、歩幅はあまりにも小さく、もじもじしているように見えて色っぽかった。
「さすがに可哀想になってきたっすよ……。や、やっぱ止めないっすか?」
共犯であるリーゼが急に日和り始めていた。多分恥ずかしいのだろう。彼女は特殊なプレイをしている両親を見てしまったかのような、なんとも形容しがたい羞恥と恐怖の混ざった表情をしていた。
ティアを直視できず、視線を逃がしている。翼は小刻みに震え、尻尾は激しく揺れていた。
「大丈夫だって。心配するな。なんなら後でお前にも付けてやるから」
「つけなくていいっすよ!」
「戦いのためなら手段を選ばない! さすがカイトです! 神をドン引きさせるとはなかなかですよ!」
「ええい! 仕方ないだろ! 確かにちょっと俺の性癖もあったかもしれないけど、こうしないと実際問題襲うだろ! ほら、モンスター来た! イーリス! ティア! バフを頼む」
「りょーかーい! 【ファイトソング】!」
「あの……お願いです。この拘束具をつけているのを他の冒険者に見られるの……恥ずかしくて、体がおかしくなりそうで……」
ティアはいままでにないくらい女々しくなって、その場にしゃがみ込んでしまった。さすがに可哀想になって来たが、なぜだか彼女の拘束を管理していると、不思議と支配欲が沸いて、もっと苛め倒したくなる欲求に襲われた。
「仕事が終わったら開放してやる。だから仕事を早く終わらせるためにバフをするんだ」
多分相当悪い笑顔を浮かべたと、自負している。
ココナッツポメポーメとすでに戦闘を開始していた冒険者達の多くが剣を振るう手を止めて、ティアと俺のほうに目をやり、悪魔でも見つけてしまったかのように顔を背けているのだから。
「……うぅ。プログラムが書き換えられている気分です。なんだか……変な感じが…………【アフェクト・ブレイブソウル】」
歌の力に加えて、いかにもバフ魔法って感じのスキルの保護もあっていままでにないくらい力が湧いた。若干の罪悪感とティアが感じている恥辱が力の代償である。
ココナッツポメポーメらしきモンスターはティアの情報通り純白で、柔らかそうで、世に言うスライムみたいな雑魚モンスター臭がした。大きさも精々サッカーボール程度。食べたら多分美味しいと思う。
『ポメ!? ポメポメエエエ!』
モンスターはこちらを見ると、脅しにもならない鳴き声をあげて威嚇し始め、こちらに飛び掛かった。
その動きは猫のように機敏であったが、バフを重ねに重ねた俺の胴体視力からしてみれば、実にゆっくりとした動きだった。
「フハハ! 力が! 力が漲るぜえ! ウリエエエエアアアアァAAAAA!」
俺はラスボスになった気分で叫びて、ココナッツポメポーメを受け流し、同時に【パラライズタッチ】を発動する。
麻痺を受けると同時に、飛び掛かる力の方向を変えられたモンスターは、俺ではなく近くにいたティアの胸にぶつかり、彼女の足元に落ちた。
「はうッ!?」
ティアは嬌声を上げてその場でビクリと硬直してしまった。見て見ぬフリを貫こうとした男冒険者達が思わずこちらに視線を戻す。
モンスターが分泌したココナッツオイルのようなものが彼女の露出していた肌に湿気をぬめりを帯びた光沢を纏わせ、一層艶かしくなっていた。
「……何か視線ガして怖いのですが。…………もうお嫁にイケナイ」
「うん……ごめん。もうこんなことしないから。本当すぐに終わらせるから待って」
「皆……ワタシの姿見てル。……変な感ジがスる」
異世界に来てから色々なことに対して遠慮がなくなっていたが、今回ばかりは本当反省しています。許して神様。
「あぁ~♪ 業が深き男~コヅカ~イット! ジャジャン♪ 女も男も容赦しねえぜ! 皆まとめて触手拘束~プッレッイ、いぇいいぇいいぇい♪」
「致命的なエラー。変な感ジがしまス」
「いや本当ごめんなさい」
ココナッツポメポーメを麻痺させてカゴに詰める間、ティアが終始もじもじしていたのも、男冒険者からセクハラみたいな目線をくべられていたのも、イーリスの歌も、全てが俺の心を締め付けた。
……次はティアは傷つかない方法を考えるから許してください。
「おい! お前何やっている?」
突如響く男の声。うわ絶対面倒臭いのに絡まれたなぁと思いつつ、声のほうを見てやると、異世界に来てからはあまり見かけなかった黒髪の男がいた。
顔の輪郭が日本人。服はいかにもファンタジーな、部分的に金属の装甲がついた赤を基調とした服で、金の刺繍で獅子のエンブレムがついている。
そして背中には炎のように揺らめく真紅の刃を持った槍を下げていた。絶対に特殊な力を持った武器だろうと第六感が俺に囁いた。
「なんです? 見ての通りうちのヒーラーが暴走しないように目隠ししてるだけですけど」
「いや! おかしいだろ! 何がどうなったら仲間にそんな辱めを負わせるんだ!」
ティアの暴走を知らないからとやかく言えるのだ。俺だって好きでこんなことしたわけじゃ……したわけじゃ……?
俺が口ごもっていると、この男のパーティメンバーと思われる二人の美少女が姿を現した。
一人は金の髪に尖った耳、露出過多でヘソ、肩、脇が露わとなった水着みたいな服にスパッツとけしからん格好のエルフで、ゴミでも見るような目で俺のことを睨むと、
「……変態」
と罵ってくれた。初対面の人にいう台詞としてはいかがなものかと思われる。対してもう一人はいかにも魔女ですといった服装をした小柄な少女で、短めの空色の髪を揺らし、翡翠色の瞳からは怯えが汲み取れた。
この子はビクビクと震えるだけで何も言ってはこなかった。多分山賊とかに襲われたら、エルフの子が庇うんだけど、結局見せしめとして最初にいやらしいことをされちゃうタイプの子だと思う。
「へんたーい♪ カッイットのお仕置き講座~♪ ……って誰ですかその人達。カイトの知り合い?」
馬鹿みたいに歌っていればいいものを、厄介事の香りを嗅ぎ付けて、イーリスが首を突っ込んできた。そうなると流れるようにリーゼもこちらに歩み寄る。ティアは状況を理解できずに、その場で小動物のように挙動不審になっていた。
「いや、どうやらこの男はティアのプ……封印にご不満らしい。実験は半分失敗だな。変な奴に絡まれるのは良くない」
実験という単語を入れるだけで、リーゼの頭の中から恥ずかしさと罪悪感は抜け落ちた。彼女は金の瞳を爛々と輝かせ、意気揚々と今後の対策を考え始めた。
「マジっすかー……。確かに見栄えが悪いっすからね。もっと外見のよろしい手段を考えないとっすね」
「今プレイって言おうとしたろ! 女の子にそんな目隠しと手錠をして、街中を歩かせて酷いと思わないのか!? 仲間に対して奴隷みたいな扱い……!! 断じて許せる行為ではない!」
男が大声でそんなことを言うと、ティアはなおさらのこと恥ずかしくなったらしく、手錠のついた手で顔を覆い隠してしまった。
「……恥ずかしイので、関わらなイでください」
ティアは今にも消えてしまいそうな声でそう願ったが、興奮した男の耳には届かなかった。
「その子の拘束を解け! じゃなきゃ決闘だ!」
「いや、そもそもお前誰だよ? ティアの知り合いか?」
俺が率直な疑問を唱えると、彼のパーティのエルフがあり得ないといった顔をしながらも、自慢げに説明し始めた。
「彼は王都の英雄です。まぁ、こんな辺鄙な街を拠点にしているような田舎者には分からなくて当然ですか」
「俺は京凰院響! 炎の神クトゥグァから貰いし、突き穿つ神滅の槍<ゲイ・ボルグ・リベリオン>の使い手にして、邪神を打ち倒すもの!」
こいつヤバイな。俺はあまりの恐怖に戦慄して、言葉を失いそうになった。だって中二病ネームを堂々と発言できるなんて大した奴だろう?




