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ココナッツポメポーメ

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 生きていたのが奇跡だと言っていい。激流に呑まれた俺達はなすすべなく川を下っていったが、あの場所はどうやら下流だったようだ。


 少し流されたところで近くの湖に出て、水底に沈みかけていたところを、モンスターと戦っていたイケメン君のパーティに救助された。


 事情を説明した際に向けられた同情の眼差しは忘れることはできまい。


 こうして四人仲良くびしょ濡れになって、夕日を背景にして街に帰還し、また色んな奴に変な噂を広められることとなった。ロリコンだとか、濡れフェチだとか。


「こちらダヴィンチワカメ採集の報酬が12万Gと、束縛鰻(バインドイール)、バカ貝、サンマの引き取り価格18万を合計して30万Gとなります」


 公衆浴場で生臭さを取り払ってから、一応はクエストクリアのために報酬を受け取った。一人あたり7万500Gか。


「げっ、あの道具作るのに6万も掛かったからほとんど利益がないっすよー!」


「馬鹿かお前……。仕方ないな。一応は助けて貰ったし多少なら貸してやる」


「恰好付けてるけどあげるじゃなくて貸すなんですね。さすがでございます。リーゼロッテさん、ワタシでよければいくらでも貰ってください。助けて貰いましたから」


 ティアがこちらを一瞥して嘲笑う。


「おっと……。鰻とかに拘束されたのを助けたのはどこのだれだっけなぁ…………」


「蘇生してあげたのはワタシでございます」


「あーはいはい! わかった、わかったから。とりあえずクエスト無事達成だしよ。飯食おうぜ飯」


 俺は強引に話を切り替えて、テーブルに着く。頼むのはいつものグリーンリザードのステーキだ。


「今回のMVPは私ですね! ですから私を讃え、信仰すべきですよ!」


「バカ貝に食われるような馬鹿女神は信じられないわ。すまんな」


「脱がせ魔で濡れフェチで触手束縛捕食プレイが好きって広められていいんですか? 神様パワーで広めますよ?」


 イーリスが勝ち誇った様子で暖かな眼差しを向けるので、俺は優しめの【パラライズタッチ】をプレゼントしてあげた。


 ビクリと肩を震わせて、上目遣いでごめんなさいと連呼する姿は、なんとも犯罪的である。人の目が痛かった。


「二人で何暴れてるんすか。実験でもないのにスキルを使うなんて鬼畜のすることっすよ」


「人体実験を公然と認めるなっての。でも確かに使ってみたくなるのも分かる道具ではあったな」


 獣耳を生やす薬……頼んだらくれはしないだろうか。


「不確定要素を明らかにするためにはまだ試行回数が足りないっす。だからちゃんと効果時間とか記録してくれるならまた作るっすよ」


「おっマジで? ならあとでティアに試すから頼んだわ」


「ドラゴネットのあたしが言えたことじゃないっすが、エクスマキナはレアっす。そんなレアモノに実験だなんて……! やるしかないっす!」


 俺達は熱い握手を交わした。目的は違えど協力するのが仲間って奴だ。


「なぜワタシの許可を得ずに勝手にワタシに薬物を投入しようとしているのですか。いえ、完璧な機械であるワタシが恐れているわけではありませんが、こういったことには何段階かの手順があってしかるべきであり、そうした手続きもなしに当機体に対して――――」


 ティアはむくれたながらに、驚くべき饒舌を発揮する。呼吸はいらないのだろうか。薬とか効いたりするくせに、変なところが機械っぽい。


『ビギンにいる全冒険者に告ぐ! 現在街の南部に大量のココナッツポメポーメが発生しています! 至急現場に向かい、ココナッツポメポーメを捕獲してください!』


「ココナッツポメポーメってなんだ? 梅雨のモンスター図鑑になかったぞ?」


 俺の純粋たる疑問に、ティアはそんなことも知らないのですかと嘲笑うと、ジェスチャーを交えて説明し始めた。


「色は白。ぷにぷにして、甘い匂いがするココナッツ味のモンスターです。サイズは小さくて林檎。大きくて西瓜ぐらいでしょうか。基本的に攻撃はしてきませんが、街がココナッツオイル塗れになるので迷惑です」


「弱そう」


「ええ。弱いです」


 ティアに弱いと言わしめるほど弱いモンスターらしい。周りを見てみるとラッキーとばかりに冒険者達が指定された場所へと走っていく。


「よし、俺達も行くぞ! ティアは留守番な」


 俺がそう言って立ち上がると、ティアは服の袖を掴み、切なげな表情を浮かべた。


「何故です。パーティで一人だけ省られるのはさすがに傷つくのですが」


「いやだってさぁ……モンスターみたら殺すだろ」


 ――――女だろうが男だろうが迷惑なときは置いていくだよなぁ。人間だもの。かいと。


「すみません。その件は本当に反省しているのです」


「お前じゃ話にならないから……。反省してるのは分かるけど壊すでしょ?」


「待ってください! 度こそ頑張って自制します。だから許してください。なんでもしますから。連れて行ってください。ぼっちは嫌です」


 ティアは俺の脚にしがみ付き、周囲の注目を意図的に集めるようにして懇願した。なるほど。大した奴だ。大衆を味方にしようという魂胆だろう。だが甘い。俺に言ってはいけないことを言った。


「ん? ……今なんでもしますって言ったよね?」


「はい」


 ティアは淡々と返答したが、何かを察したのか目をパチクリと開いて、怯えるように俺の顔を見上げている。


「俺はな。優しいからな……。ティアの暴走を止めれそうなものを持ってきたんだ。いや、作らせた。リーゼ、例の物を」


「了解っす!」


 俺が手を伸ばすと、リーゼは服の袖から要求されたものを取り出した。ティアはその道具を見て、機械だけれども冷や汗を掻いて慄いた。


「え、それは…………」


 俺はにこやかに答えた。そりゃもう、満面の笑みで拘束具を見せ付けた。


「見りゃ分かるだろ。目隠しと手錠だ。お前の視界をこれで見えなくして、移動は俺が手錠の鎖引っ張ってやるよ」


「クズですねー。私のスカートを脱がすだけでは飽き足らず、女の子にそんなことして……楽しいんですか?」


 イーリスは俺を嘲り、拘束具を見て顔を真っ赤にするティアの背後に忍び込むと、彼女の肩を突き、俺とまったく同じ声で、耳元に囁いた。


「……このまま食べてしまおうか?」


「……っ! …………致命的なエラー」


 ティアは耳まで赤くして目を見開くと、何かの限界に達したのか目から光を無くし、脱力してしまった。代わりとばかりに頭のゼンマイが活発に回り始めていた。


「イーリスが一番怖い」


 キャッキャと無邪気に笑う邪悪を見ていると、俺まで冷や汗を掻いていた。まぁともかく、呆然として抵抗もしなくなったティアに手錠をつけ、目隠しをしてから目的地へと向かうことにした。


束縛鰻バインドイールは、脊椎動物亜門,円口類,吸魔鰻目に属す動物であり、高温多湿な環境を好んで、世界各地に生息している。

名前に鰻とあるが、円口類は脊椎動物に属するか否かが問われるレベルで、ウナギどころか魚類とも縁遠い生物種である。


顎口類の姉妹群である円口類に属し、一般には数少ない現生の無顎類の一群である。


束縛鰻は細長く、体の断面が楕円形といった言わば「ウナギ型」の外見であるため、一般にはしばしばウナギと混同されがちで、名前にもそれが如実に表れている。ただし、顎口類に属すウナギ類とは無縁と考えても良い動物であり、生物学的特徴も食味もウナギとは全くかけ離れた動物である。


一般的な意味で"魚"と見なされるが、その特徴も広くイメージされる「魚類」とは大きく異なる。現在生きているほとんどの"魚"が我々ヒトと同じ顎口類に属すのに対し、束縛鰻はこれとは別の系統である円口類に属している。「顎を欠く」「対鰭を持たない」「骨格が未発達である」など、顎口類から見ると「原始的」とも呼べる特徴を多く残しているため、進化研究でたびたび重要視されてきた。


我々ヒトを含め、現在の脊椎動物の大多数は発達した顎や骨格などを備えているが、化石記録に基づいた古生物学的研究によれば、我々の祖先はもともとこうした特徴を持っていなかった。こうした祖先的な脊椎動物は、特に「顎をもたない」といった特徴を踏まえて無顎類と呼ばれている。


円口類の中で現在も生存しているのは吸魔鰻類と魔界鰻類のみである。また、無顎類の大多数は古生代ですでに絶滅しており、この中で現在も生存しているのも吸魔鰻類と魔界鰻類のみである


束縛鰻は淡水を中心とした世界中の水域に生息し、熱帯域には多い。

束縛鰻の体の両側には7対の鰓孔があり、それが一見眼のようにみえることから、アマテラス諸国では本来の眼とあわせて「八目鰻」と呼ぶ地域もある。


鱗のない体は細長く「ウナギ型」。体長1~12mと幅がある。繁殖は淡水河川で行い、3mm程度の黄色い卵を、種によって数百 - 数万個も産卵する。ひと月ほどで孵化すると、まずアンモシーテス(Ammocoetes)と呼ばれる幼生期を数十年間過ごし、その後成体へと変態する。アンモシーテスとは、もともと新属として設けられた名称だったが、これが束縛鰻の幼生と判明すると、その名称がそのまま幼生の呼称となった。アンモシーテス幼生の基本的な概形は成体に似るが、口は吸盤状でなく漏斗のようで、泥底に潜って水中から液体魔力や魔力鉱石マデュタイトを濾しとって食べている。また眼が未発達であり、外からはほとんど確認することができない。


変態後の生態は淡水域で生活、産卵を行うが、捕食行動の際は自らの魔力を捻出して空中を遊泳する姿をたびたび確認されている。瞬間的な加速度が高く、また、捕食行動の際は自らの体を縄のようにして対象の脚などを縛り、吸血を行うことで対象から魔力を吸い出す。


また物理をいなし、魔力を軽減する特殊な分泌液を発することで反撃を防ぐ他、スタミナはないものの瞬発的な遊泳力が強いため、不意打ちを受けた冒険者が魔力枯渇でそのまま気絶することも多く、油断ならない敵である。


人間とのかかわり。


養殖はいまだ可能となっていないが、専門の漁師は人形を作り、それを器用に動かすことで束縛鰻を誘い出し、捕獲する。味は鰻よりは薄いが、触感があり、炒め物にむいている。また、魔力を蓄えた血液には勢力増強の効果があり、マンネリ気味の夫婦やカップル冒険者から愛されている。

緊急時にこのモンスターが現れた際はまさに、生きる魔力補給薬である。


しかし一方で、対象を粘液塗れにして束縛するという性質を悪用し、ハードなプレイを求めた冒険者がそのまま気絶するという事件が年間で38件発生しており、ギルドは注意を呼びかけている。またこれらの行為を行った人物の9割が晒しクラゲも悪用していたという。業が深いモンスターだ。


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