天才錬金術師
この回以降、不定期であとがきに登場モンスター等の解説があります。文字数としては本文と同程度になることがありますので、見苦しい場合は申し訳ないです。
「えーと、あんな求人見て来たの? 嘘でしょ?」
「いやいや、本当っすよ。けど本当にこのパーティに入りたいと思った理由は……あ、お名前なんて言うんすか? あ、あたしのことはリーゼって呼んでほしいっす」
「俺がカイト、小さいのがイーリス、エロいのがティアだ」
俺が実に分かりやすい紹介をしてやると、なぜか二人は食い気味に反論した。
「小さくないです! ちょっとコンパクトなだけです!」
「ワタシは機械。つまりは完璧ですので健全です。エロいなんてことは断じてありえません。エクスマキナはトイレにも行きません」
アイドルみたいなことを言うな……。いや、確かに機械ならトイレも不要なのか?
「本当にトイレ行かないかずっと観察してもいいか?」
「やめてください。変態ですよ?」
抑揚のない声で変態と呼ばれて一瞬ばかりゾクっとしたが、多分俺にそんな趣味はない。言われなれてないだけである。……深く考えたら負けなので、話を戻すとしよう。
「それで? 結局なんでリーゼさんはパーティ参加を希望してくれたんだ?」
リーゼロッテ改めリーゼは、金色の瞳を輝かせ、無い胸を張って堂々と答えた。
「ふふ……それはっすね。実はあたし、最近この街に冒険者をしに来たんすよ。それでいいパーティないかなぁなんて思ってたんすけど、まぁパッとしないのばっかりで飽き飽きだったんすよ。そんなとき、見ちゃったんすよ! あなたたちの未知への探究心を! 検証! 実験! それこそが真理を掴む道っすよ!」
検証……? あぁ! 昨日新しいスキルを覚えたからイーリスへの鬱憤晴らしをしたときか。検証なんて誰がどう見ても言い訳以下の言葉だったが、彼女は馬鹿なのかそれが分からなかったらしい。
ここはなんとかして丁重にお断りして、ついでに求人もまともなのに変えないと駄目だな。
「ええと……すみませんが昨夜のはただ酒によ――――」
「そりゃ、私たちがパッとしないはずがないもの! ところで真理ってなんですか?」
俺の言葉を遮って、イーリスが割り込んだ。パッとしないかクレイジーなら前者のほうがマシだ。……昨日は俺だってちょっと羽目を外しただけなんだ。
「真理! そう! 真理っす! 全錬金術師が捜し求める世界の法則のことっす! スティールの確率検証……普通の人は人間にやろうとは思わないっす! 本当に尊敬するっすよ! あなたたちは凄い人っす! あたしはいつかこの手で未知を解明して、自分にしかできないことを自由にやってのけるのが夢なんすよ!」
リーゼは威勢の良い声で翼をばたつかせ、尻尾を元気良く振りながらそんなことを言った。八重歯がチラチラと見えて可愛らしい。
「素晴らしい! 素晴らしいですよ!! その考えは! カイト! ティア! この人をパーティに入れましょう!」
「ワタシは構いません。最高位の職がここまで集まることも稀有ですし」
いや、冷静になって考えろ。絶対こいつおかしな子だぞ。幼女が麻痺ってるなか公衆の面前で服をじわじわ剥いで行くのが真理への探求ってことになるぞ。いいのか? いいのかお前らはそんなんで。
「いやー、俺達自慢じゃないですけど、バランス悪いパーティですから大変だと思いますよ?」
「困難こそチャンスっすよ!」
リーゼはガッツポーズをして、快活な笑顔を浮かべる。尻尾も嬉々として揺れ動いており、その仕草はなんだか犬みたいだった。
あぁ、なんて楽しそうな笑顔なんだろうか。そして今俺の顔はどれだけ引き攣っていることだろうか。
「本当にいいんですか? ティアなんて回復職なのに晒しクラゲに捕まって、ぐちょぐちょになったりしましたよ?」
「モンスターの攻撃にわざと当たって被害がどれくらいになるか試すってことすね! なんて体を張った未知への追求! その話であたしは痺れるっすよ!」
思考がポジティブすぎるだろ。……駄目だ。彼女がドン引くような話題を提供できない。
「……カード見せてもらっていいですか?」
「おっけー! 待ってたよ」
リーゼが渡したカードを見て、いちゃもんを付けれるところを探す作戦に変更しよう。名前はリーゼロッテ・フォン=アルトゥール・エルリック。
年齢はイーリスやティアと違い極めてまともで16歳。意外なことに俺より年下だった。そう思うとなんだか余計に可愛く見えるのが、俺の悪い癖でもある。
精神と感知が少し低めで、力が俺よりも高く、器用と魔力が異常な数値である。幸運は馬鹿みたいに低かった。スキルは錬金術に関するものと魔力、器用の上昇がメインであった。
「……錬金術師って何する職業なんだ?」
「面白い事言うっすね。錬金術師はモンスターの素材や薬品を調合して、強い回復アイテムを作ったりするジョブっすよ。あ! よければ実演するっすよ?」
うーん……。この実演をやらせたらパーティ参加を拒否しづらいな。だが、正直気になる。どうしたことか。
「凄いです! ぜひ見せてください!」
イーリスが子供のようにはしゃぎながらリーゼの手を掴み、ぶんぶんと振った。
「よーし! いいっすよ! 【アルケミカルサークル】!」
スキルを唱えると、何もなかったはずの場所に、突如として巨大な大釜が現れる。中を覗くと緑色の怪しい液体が火も無い場所で煮えていた。
「とりあえず簡単なものでも作ってみるっすか。水と~林檎と~……あとパン。それと木炭。あとコレも入れてみるっすか」
どこにそんなものを収納していたのか、リーゼはありえない場所から水がたっぷりと入ったバケツを取り出し、釜にぶち込むと、続けて林檎などを投入していく。なんだか最後にわけのわからない液体を投入したが平気だろうか。
「【アルケミクリエイト】!」
再びのスキル詠唱。今度は釜に巨大な蓋がかかり、隙間から怪しい紫の煙が零れ始める。
「お、おい? 大丈夫なのか?」
「これくらい文字通り朝飯前っすよ。……っと、そろそろいいっすね」
リーゼが蓋を開ける。そこには緑色の怪しい液体に浮かぶ林檎と木炭とパンの姿は…………なかった。釜の中には本当にどういうことなのか、皿に盛り付けられたアップルパイがあった。
「え、どういうことなの……?」
「林檎とパンと水を入れたらアップルパイになるのは当然っすよ」
そんな常識は知らない。
俺の正当なる疑問は虚しくも無視されて、彼女は袖からナイフを取り出し、イーリスたちにアップルパイを渡していく。皿は無から現れた。
なんなんだこの子。口調とか見た目とか絶対がさつで不器用な見た目をしているのにやることがいちいち手品みたいだ。
「はい! カイトさん。絶対に旨いっすから、ぜひ食べてください。自分で言うのも難ですが、女の子の手料理っすよ?」
作り方はいままで見たどんな料理よりも理解不能だったがな。
しかし……手料理。手料理か。女の子に手料理を作ってもらえるなんて……さすが異世界か。
現実世界では中学校以降は男子校だったがためにお察しであった。女子との接点などあるはずもないのだ。
ふと気になってリーゼの顔を覗くと、彼女は翼をパタつかせながら、花が咲いたような笑顔を浮かべた。うん、もうパーティ加入させちゃおう。こんな可愛い子を断るなんて罪深いことだ。
俺は微笑み返して、無言で俺より年下の子が作ってくれた手料理を頬張った。ちょうどいい熱が林檎の甘さを引き立て……うん、旨い。
「おぉ! 凄いなこれ。あんなわけわからん作業工程でこんなに旨いのが作れるなんて!」
「そ、そうっすか? ……嬉しいっす」
てっきり快活そうに返事が来るかと思ったが、少し予想外なことにリーゼは頬を林檎のように赤く染め、ごにょごにょ声になった。なんだろう。凄い女の子っぽい。もしかして意外とまともなんじゃないだろうか。
「ところで最後に入れた液体はなんだったんですか?」
イーリスが核心をつくような質問をすると、リーゼは爛々と目を輝かせ、笑顔で答えた。
「感知力と器用、筋力を一時的に高める薬物を作ったんすけど、試す相手がいないので入れてみたっす」
人体実験じゃねえか。
「おい何当たり前のようにヤバイ事してるんだ。副作用とかないだろうな」
「あったらそろそろ発動するっす。ほら」
リーゼがイーリスたちを指差した。そして俺は絶句する。
「何かありましたか?」
「機体に異常は検地されておりません。エクスマキナは完璧な種族。薬物に振り回されたりはしません」
二人の頭に……猫耳が生えていた。スカートの下からは尻尾が伸びていた。ティアの白いケモ耳がぴくりと揺れ、イーリスが子猫のように栗色の尻尾を揺らしている。
俺にも生えているのだろうか? いや! そんなことはどうでもいい!
俺はリーゼの手を強く握り、
「採用」
と告げた。だってそうだろう? こんな素晴らしい薬物を作り出せるなんて、なんて素晴らしい人材なんだ!
モナ蟹
オカガニ科に属する地上性のカニの一種。始まりの草原に生息する固有種である。地下に蟻の巣のような巨大迷宮を作り上げ、繁殖期の大移動は草原の名物となっている。
かなり大型で甲幅5mに達する。傷ついて再生した場合を除き、鋏は通常左右対称である。通常は、雄は雌より体や鋏が大きい。
成体雌は3歳を超えると、腹部の幅が雄より明瞭に広くなる。体色は一般的には鮮やかな赤であるが、橙色になる個体もあり、さらに稀な例では紫の場合もある。
口や目などがある部分が通常種の蟹とは異なり、レオナルド・ダ・ヴィンチ作『モナ=リザ』に描かれた女性の顔となっている。どの固体と比較しても絶対に顔の大きさ、形は一寸違わない。
つねに左側を見る修整があり、地上では右側から襲われないように器用に群れで活動する。
ほとんどの地上性カニと同様に鰓を呼吸に用いているため、体の湿度を保つ必要がある。
昼行性ではあるが乾燥を防ぐために水属性付与魔法を行うリーダー固体がいる。モナ蟹はそのリーダー固体に付き従い、群れで行動する。リーダー固体は通称:ダヴィンチクラブと呼ばれる。
夜間は低温で高湿度環境であるが、本種はこの時間帯にはほぼ全く活動しない。
また、乾燥を避けるために巣穴を掘り、1年間同じ穴を使い続ける。
冬には巣穴の口を落ち葉の塊で塞いで湿度を保ち、梅雨の到来までその中で過ごす。繁殖期を除いては単独性で、巣穴への侵入者には防御行動を行う。
雑食性である。主に落ち葉・果実・花・子葉などを食べるが、同種個体を含む動物の死骸やごみも利用する。外来種であるアダマンマイマイも餌となる。
本種の繁殖期にはオニイトマキマキ・触手プレイカなどの大型肉食生物が集まり、群れを襲う。
ほとんどの期間を地中で過ごすが、繁殖はアラル湖に出て行う。梅雨の始まりに本種は活動を増加させ、湖岸への移動に備える。
移動が始まるとそれまで用いた巣穴は放棄される。移動には最低でも1週間かかる。通常は雄の方が先に湖岸に到着して穴を掘り、他の雄を穴の周囲から追い払う。交尾は穴の中か周辺で行われる。雄はすぐに始まりの草原に戻るが、雌は穴の中で2週間ほど抱卵する。
卵は水に触れるとすぐに孵化し、無数の幼生が雲のように波間に漂う。
幼生は外海へと流され、3-4週間にわたって漂いながら数回の脱皮を繰り返し、最終的にエビに似たメガロパ幼生となる。この幼生は海岸に集まり、1-2日かけて甲幅5mm程度の稚ガニへと変態する。
稚ガニへと変態するまでは、本種の特徴であるモナ=リザの微笑みはない。
稚ガニは湖岸を離れ、9日ほどかけて始まりの草原の中心部へと辿り着き、その後3年ほどは林床の岩や倒木・枝などの下に隠れて過ごす。成長は遅く、性成熟して毎年の繁殖行動を始めるのは4-5歳である。若いうちは複数回の脱皮を行うが、成熟すると脱皮は年1回となる。脱皮は巣穴の中で行われる。
人とのかかわり。
繁殖期の移動中には、最大で3-4本の貿易路を横切ることになる。これによって貿易路が断たれ、始まりの街ビギンは陸の孤島と化すこともある。
カニと人双方の安全を守るため、冒険者ギルドはカニが安全に海岸に辿り着けるよう努めている。
本種の大量発生を放置してしまうと、凶暴な肉食生物が過度に集合するため、冒険者による積極的討伐が試みられている。
近年では住民もカニの存在に寛容となってきており、繁殖期に現れる大量の微笑みは風物詩となっている。




