新たな仲間の予感っす
――――長い、地獄の夜が明けた。窓から輝かしい朝日が入り込んだ。報酬も手に入ったからと、今日ばかりは救貧院ではなく、普通の宿を取ったわけだが、数度に渡って殴打と治癒魔法を繰り返され、最後には回復したがそのまま気絶して、朝を迎えた。
殴られるたびにお花畑と美しい川が見え、川の向こうにはなんだか不機嫌そうなヨミちゃんと、筋肉モリモリマッチョマンの白髪の爺さんがいた。多分神なんじゃないだろうか。いかにもゼウスみたいな見た目だった。
部屋は個室のため、今は俺一人だ。不安になってたった今鍵をかけた。施錠してから三十秒ほど遅れて、こんこんと小さなノックが響く。
「カイトさん。起きて下さい」
「もう気にしてないですから。大丈夫ですよ~。無理やり麻痺させられて、皆の前で脱がされたことなんてまったく気にしてませんよ~」
ティアとイーリスの声だ。俺のことを生かさず殺さずとした恐るべきヒーラーとバフラーだ。彼女たちが嬲るときの瞳といったら、まるで夜の狼のごとく凶暴で暴虐だった。
傷は何一つないが、俺は心に傷を負ったと思う。確かに悪いことはしたが、回復魔法がなければ今頃殺人事件の被害者として俺が何人もあがるだろう。
「…………」
寝たフリをしよう。そうだ。それがいい。
「私、自慢ですけど耳はいいので起きてることは分かってますよ? 早く部屋から出ないと本当に大変なことをしますよ?」
「…………」
「ブラフだと思ってます? ……仕方ないですね。今そっち行きますね。ウォーロードにもなれると言われた私に掛かれば、この程度の扉簡単に破壊できますよ~!」
怖い。駄目だ。寝たフリをしてても、本当に寝てたとしても多分駄目だ! 殺される!
「分かった! 分かったごめんなさい! 助けて戦神イーリス様!」
堪らず部屋を飛び出すと、扉の前に彼女達は立っていた。一人は無表情で、一人は爽やかな笑顔を浮かべていた。
このときばかりは俺も心の底から神様に祈った。目の前のね。もう世界中どこを探してもここまで必死になって神に祈った日本人はいないだろう。それくらい祈った。というか土下座した。
「本当に申し訳ございませんでした!」
「……よろしい。あなたの信仰に応え、罪を許しましょう。今日全部奢りで、かつ荷物持ちの刑です。それじゃ、今日もクエスト行きましょうか」
ティアの防御魔法による光の壁を後光代わりにし、遠くで音符を奏でて聖歌のごとき荘厳なメロディーを流しながら、イーリスはゆっくりと手を差し伸べた。
露骨な神様アピールである。そういうことするから神っぽくなくなるのに。まぁそんなこと死んでも口にしないわけだが。
――――冒険者ギルドに着いたはいいが、宿でごたごたしていたためにクエストボードに大量にあったはずの晒しクラゲの討伐依頼が取られてしまっていた。モナ蟹は大量発生しているためいつでも受注できるが、する気はない。
「や、やぁ……カイト」
不意に声を掛けられたかと思い、振り返って見ると随分とやつれた顔をしたイケメン君がいた。その後ろには俺を蘇生してくれたプリーストちゃんといつも酒を飲んでいる筋肉塊と全身甲冑もいる。何故だか全員、疲弊しきっていた。
「どうしたんだ? お前ら。陸に打ち上げられた魚みたいな顔して」
「実はね……君のパーティに入りたいって子がいたから、待ってれば来るよって教えたはいいんだけど……」
イケメン君が酷く同情するように俺に微笑みかけると、彼らの奥から、俺よりも背が高いスレンダーな女の人が姿を表した。
真っ赤な赤髪。頭からは白い小さな二本角。
快活で、しかしどこか艶やかな顔つきをしていた。爬虫類のように鋭い眼光を放つ瞳は鮮やかな金色だ。
異世界に来てから枷が外れかけてきている俺はここぞとばかりに彼女を頭の先から足の下まで眺めていく。
彼女はけしからんことに、民族衣装のようなロングコートを肌脱ぎしており、上半身はサラシのみという現実世界でやったら間違いなく補導される格好をしていた。慎ましい胸こそはサラシで充分に隠せているが、ヘソや肩、脇などなどの扇情的な部分は惜しみなく外気に晒されていた。素晴らしいことに。
そしてやはり異世界。肩甲骨の辺りから、赤い鱗を纏った小さなドラゴンのような翼が生えており、自身を扇いでいた。
コートの下には腰巻みたいなスカートを履いていて、ベルトには見たこともないくらい大量のアイテムポーチがぶら下がっていた。
頭に角、爬虫類のような瞳、ドラゴンのような翼ときたからにはやはり尻尾が生えていた。おそらく尾骶骨の辺りから生えているそれは、コートの外に出てピロピロと活発に動き、赤い鱗を見せ付けていた。
「ジロジロ見ないでほしいっす。恥ずかしいっすよ?」
色っぽい声質で男勝りな口調。普通なら相反するような属性が共存し、お互いを引き立てていた。
「あ、うん! ごめんなサぃ!」
異世界に行ってから躊躇いはなくなったが、こういう受動的な対処はチェリーな俺にとって厳しい課題だった。思わず声が裏返ってしまった。
「ハハ! 面白い人っすね。あたしはリーゼロッテ・アルトゥール。君たちのパーティがメンバー募集をしているとのことなので来たっす。ぜひとも仲間に入れてほしいっす! 職業は真理錬金術師! 錬金術師の最高位職っすよ? こんな逸材あたしだけっす!」
瞬間、俺は理解した。
あんな求人に引っかかるような人ということは、外見がどれだけよかろうと、職業がどれだけ高位のものだろうと、何か問題があるに違いないと。




