新たなスキルと検証結果
イーリスも俺と同様に何かを感じ取ったのか……うへゃと情けない声を零した。
「とりあえず夜道には気をつけたほうがいいんじゃないですかね?」
「俺は刺し殺されるのか? なぁ、途切れてて何か分からなくても代償があるんだろ? ていうか代償ってなんだよ。怖すぎるだろ」
いや、でも死神の寵愛があるならどんな状況でもさほど変わらないんじゃないだろうか。まぁスキルがどの程度の効果を発揮しているかわかったもんじゃないが。そう、いい方向に考えていこう。エネミースキルを習得できるんだろう? 最高じゃないか。普通ならできないことだ。
「レベルもあがったし、せっかくだから習得可能スキルを確認しようかな」
「5000Gです」
やはり高いが、まぁクエストもクリアできているし平気だろう。俺は快く支払ってあげた。さて、スキルを確認すると、ポイントが6ほど溜まっていた。スキルによって必要なスキルポイントの数が違うため、6つ習得できるわけではないが、それなりに選択肢はある。
ダメージ増加はいらない。1ダメージしかダメージを与えられなくても有能なスキルを探す必要があった。
有能そうなシーフのスキルは……まずはパッシブスキルとして【攻撃速度上昇I】、【回避上昇I】とかか。
そしてアクティブスキルで使えそうなのは……少しでも傷を与えた際に確率で毒を付与するとかいう【インヴェノム】、接触した対象から確率でアイテムなどを奪うシーフの代表技【スティール】、あとは鞭を使って敵を拘束するスキル【ウィップバインド】だ。
「なぁ、イーリス。どのスキルがいいと思う? インヴェノムは必要なスキルポイントが高いけど、まぁ2~3個ぐらいは取れると思う」
「えぇ? それくらい自分で決めてくださいよ……あれ? シーフのスキルとは別に変なのがありますよ?」
習得可能スキル一覧の一番下、シーフや種族ヒューマンが取得できるものではないスキルが一つだけあった。【パラライズタッチ】接触した対象に確率で麻痺を付与する。どうやらクラゲの麻痺は生物由来の毒ではなく、スキルだったらしい。それを俺はヨミのおかげで習得可能になったわけだ。
「よし! せっかくだし俺はこの【パラライズタッチ】と【スティール】を選ぶぜ」
せっかくだし試して見るか。俺はにこやかな笑顔でイーリスの肩に触れた。
「いきなりなんです? 気持ち悪いんですけど」
「はっはー。そんなこと言っていいのかな? ……【パラライズタッチ】!」
魔力というのだろうか。体から何かが抜けるような感覚がしたかと思うと、イーリスはびくりと肩を揺らし、生まれたての小鹿のごとく細い脚を震わせると、力なくその場に尻餅を付いた。
「ぁ…………なにするんですかっ。こんなことして……ただで済むと……ンあ。早く、解除……して、ください」
「本当にいいスキルだな。あ、安心してくれイーリス。俺はお前みたいなお子様に手は出さないから。ただちょっと確率を検証したくてな。あ、麻痺って重複するのかな? 【パラライズタッチ】」
「ひゃう!」
イーリスが可愛い声を零したが、現状より酷い麻痺状態にはならない。しまった。先に効果時間を確かめるべきだったか。持続が伸びているか判断できないじゃないか。
「お願い……です。やめて…………っ! もう、意地悪しない……からぁ……!!」
「いやいや、別にいままでの反撃をしているわけじゃあない。ちょっと確かめてるだけだよ」
「外道でございますね。カイトさん。これがアットホームなパーティというものですか?」
ティアが哀れむような目を俺達に向けた。受付嬢は視界から俺達を遮断したらしく、逆にいつもの表情になっていた。
「まぁかわいそうだし麻痺の検証は終わりにするか。次はスティールな。行くぞー」
「え、こんな……酷いで……す」
「別に顔面を蹴られたときの仕返しだとか、なんか馬鹿にされたときの鬱憤が溜まったとかじゃないからな。あくまで検証だから、仕方ないことだな。てなわけで【スティール】! 【スティール】! 【スティール】! 【スティール】! 【スティール】!」
スティールを五回ほど唱えると、面白いくらいイーリスの装備品が俺の手元に渡り、相対的に彼女ははだけていった。まるで野球拳みたいだった。
まずは白い靴下が右、左と来て、次に蒼い帽子。財布。最後には蒼いラインの入った白いフリルスカートをスティールすることができた。
一瞬前まで履いていたものだからか、妙に人肌の熱が残っており、なんだか生々しい。
「神様にこんなことして…………絶対に、許さなっ……い!」
イーリスは歯を食い縛り、涙ぐんでいた。露わになった太股や、想像以上に大人びていた紫の下着を、震える手で隠そうとする姿は子供っぽい体つきとは裏腹に、なんとも素晴らしい光景だ。しかし人がいないところでやるべきだったか。
今度こそゴミを見るような目を向けられているし、多くの男共が好奇の眼差しをイーリスに向けている。前者は俺が十割悪いのでなんとも言えないが、後者は後で顔を覚えて麻痺を差し上げようか。
「ハハハハ! 許さないとどうなるんだ~? 言って見ろ。……というかバック転のときも恥ずかしがれよ」
「【キュア】」
さぁて、そろそろ戻してやるかと思ったような思ってないような時、機械的な声と共に、イーリスの体が緑光に包まれた。回復魔法が発する癒しに光だ。
「ティア? 今俺は重要な実験をだな…………」
「ワタシも状態異常治癒の魔法を検証しただけでございます。別にクラゲに食べられた際に凝視されたことを恨んでいるわけではございません」
「畜生覚えてろよ。……イーリス。服置いとくからな。俺は先帰るわ。バイバイ!」
ふと我に返って思った。調子に乗りすぎた。すぐさま立ち去らないと! そしてイーリスのご機嫌を治せそうな言い訳とか物品を手に入れないと殺される!
俺は咄嗟に逃走を試み、冒険者ギルドを飛び出した。しかし刹那、ガツンと煉瓦で殴られたかのような衝撃が頭部に走り、なすすべなく大通りに転がった。
「や、やぁ。イーリス。今日はいい天気だね。よかったらケーキおごるから許してください」
イーリスは服を着ることすら後回しにして、俺のことを追いかけていた。手には血塗れの杖を持っていた。金の十字架の杖だった。
彼女は女神の微笑みとも言うべき優しさに満ちた笑顔を浮かべると、
「……大丈夫です。【ヒールライズ】と【虫ノ心身】の検証ですから!」
躊躇なくその杖を、力強く振り下ろしたのだった。




