第四話〜欲情〜
〜あらすじ〜
お互いがお互いを「心の拠所」と思っているが、伝えられない今日この頃。
美輝は、好きでもない彼氏、拓海とカラオケに行く約束をしてしまい・・・?
時は順調に流れて行き・・・1ヵ月ほどが過ぎようとした、梅雨の時期。
美輝の部屋は湿気が(他の部屋に比べ)溜まりやすく、加湿器が設置されてあるダイニング・・・つまりはディナールームで、大輝が朝食を黙々と食べている傍で湿気に強いタイプのファンデーションやらを念入りにつけていた。
「あ、今日拓海とカラオケ行くから夕飯自分で食べてよね?」
思いついたような声で、美輝は鏡を見つめたままそう言う。
「・・・拓海?」
自分が知らない男の名前をサラリと言った美輝に対し、大輝は朝食から手を離して真横下にいる美輝を見た・・・というか半ば睨んだ。
「あ、そうだった。大輝には言ってなかったんだっけ・・・早瀬拓海。バイト先の・・・彼氏だよ。」
何食わぬ表情を装い、美輝は鏡を見て化粧を進める美輝。
鏡に映ってる自分の顔は・・・今にも泣きそうなほど歪んで、酷く醜い。
そんな鏡に反映されている醜い顔は、大輝の視線の死角にあり、大輝は美輝の状態に気づかず・・・1ヵ月前ぐらいのことを思い出す。
偶然部屋で見つけた、1枚の写真。美輝と知らないヤツの笑顔。
その“知らないヤツ”が、例の拓海だということを、大輝は何となく察知できた。
「・・・へぇ。美輝でも彼女できるんだ?」
「なっ!彼女って何ですかっ!?どういう意味っ!?私が男とでもぉっ!?」
「こんな威勢のいいヤツ女じゃねぇ。」
大輝はフッと笑いながら嫌味を吐き捨てるように言い、また朝食に手をつける。
・・・手に持っている箸は―――震えていた。
―――離れるんかな・・・
そんな想いさえ大輝の頭の中で、素直に鮮やかに浮き出てくる。
嘘だ。何思ってんだ・・・と大輝は否定したいところだったが―――現実は変わらない。
「も〜、ちっちゃい頃はこんな嫌味ったらしい男じゃなかったのにぃ・・・もっと可愛かったのにぃ・・・」
美輝は溜息混じりでそう告げ、アイシャドウをパタンと閉じた。
「行ってくるね。」と、また黙々と朝食を口にしている少年に言い、美輝は怒ったような足取りで玄関を出た。
「・・・所詮・・・年下扱いかよ。」
溜息混じりでそう言った言葉は・・・美輝の耳に、行き届かなかった。
二従兄妹という壁があって、なかなか伝えられないこの想い。
彼氏の存在がなかったら、伝えていたのだろうか?
それとも・・・二従兄妹でなければ、とっくに伝えれていたのだろうか?
―――伝えることは、簡単ではない。
・・・そんなことを考えながら、大輝の朝の時間は刻々と過ぎていった。
空は・・・大輝の心境を表すかのような、灰色。その空は、泣いていた。
+-+-+-+-+-
「雨だねぇ〜」
頬杖をついていた恵夢が、ふと気がついたように美輝にそう言う。
美輝は相槌を打った後、髪を掻き揚げて溜息を吐いた。
「どうしたの美輝?テンション低いよぉ〜?」
「え?あ・・・雨で髪のセット崩れちゃうからブルーって感じ?」
ハハッと美輝は笑いながらそう言った。
美輝は、髪を掻き揚げるような仕草をする子じゃあない。・・・ということを熟知していた恵夢は多少疑心を覚えつつも、根掘り葉掘り聞かず、黙りこくった。
一方、美輝は放課後のことについて幾度も幾度も心中で溜息を吐いていた。
・・・拓海カラオケに行く、などという約束をしてしまったのは・・・一昨日のバイトの場であった。
・・・―――
「美輝、明後日カラオケ行かね?」
仕事を終えた拓海は、笑顔でそう誘う。
・・・その笑顔は、まるで「従え」とでも言いたそうで・・・それを察知した美輝は、少々怯えたように眉を顰めて
「・・・いいよ。」
承諾をしてしまった。
「じゃ、明後日校門で待ってる。」と拓海はそう告げると、マスタールームに足を進めた。
この他愛もない約束の裏には、拓海の恐ろしい「男」の欲情がある、ということに気づきもしない美輝は、着替えのためにスタッフコスチュームのボタンに手をかけた。
その手は・・・震えていた。
―――・・・
嫌な時間=早く来る・・・という誰がつくったか分からない等式。それは本当に存在するんだな・・・と、校門で影を薄くして突っ立っている美輝は改めて思った。
美輝の傘に降り注ぐ細い線。
「・・・私にだけ、雨降ってるみたい・・・」
自嘲的に言った時。ひとつの黒いシックな傘が、美輝のところへと吸い寄せられるようにやって来た。
+-+-+-+-+-
室内用グラウンドがある神楽家は、外の雨なんか関係せず、いつだってサッカーができる。
大輝は、コンピュータから取り寄せた白黒の電子人間と一緒にサッカーをしていた。
何人もの電子人間をスルスルと風のように抜き、足についているように扱ったボールは、ゴール付近になると吸い寄せられるように鋭い音を立ててゴールに入り、笛が鳴る。
「・・・つまんね。」
電子人間とのサッカーに厭きを覚えた大輝は、ゲーム中止ボタンを押す。
途端、それまで騒がしく動いていた電子人間はフッと姿を消した。
大輝は額に浮き出る微量の汗を拭い、自室へと足を進めた。
自室に着き、大輝はその大きい体をベッドにボスッと預ける。
そしてそっと、瞳を閉じた。
瞼の裏に映るのは・・・美輝と“アイツ”が並んでいる姿。
「・・・ムカつく。」
アイツに・・・そして想いさえ伝えられない“自分”にムカついた大輝は、瞳を開けて胡坐をかいた。
途端、ケータイの着信音が部屋中に鳴り響き渡った。
「・・・篠原?」
ディスプレイに反映された「篠原恵夢」の文字を不審に思ったが、相手は電話をかけている。しかも美輝の親友だ。待たす訳にもいかない。
大輝はたどたどしく、通話開始ボタンを押した。
「もしもし?」
『あ、大輝君?恵夢だけど。』
分かってるし、と心中でツッコみながら、大輝は次の言葉を待つ。
『美輝さ、朝から様子変なんだよね・・・心当たりとかある?』
「・・・心当たり?」
美輝がヘコみそうな事件は・・・大輝には、目星さえつかなかった。
「別にないけど。」
『そっかぁ。なんか帰りはさっさと帰っちゃうし・・・帰ってきたらちょっと探ってくんないかなぁ?』
「・・・根掘り葉掘り聞く性分でもな・・・」
“帰ってきたら・・・”
その言葉が、妙に渦巻き、それと同時に、朝の美輝が告げた言葉を思い出す。
「学校の近くのカラオケ屋ってどこか知ってるか?」
『は?カラオケ?近くだと・・・レックスカリィかなぁ?』
「ありがと。じゃ。」
手短にお礼を済ませ、大輝はケータイの通話終了ボタンを押し、ベッドに預けていた体を起こした。
+-+-+-+-+-
「ここだよ。もう部屋は予約している。」
美輝は、レトロ風にアレンジされた看板を見上げた。
そこには大きく『ЯЁХКАЯУ』と、キリル文字で表記されている文字があった。
いつもと変わらないその文字に・・・美輝は小さく溜息を吐く。
「行こっか。」
拓海は、美輝の手をギュッと握った。
美輝はどぎまぎしながら「うん。」と答え、拓海についていった。
美輝は、何度も恵夢とカラオケに行ったことがある。
とくにこの『ЯЁХКАЯУ』は、行きつけのカラオケ屋だった。
何度も目にする、レトロ風のホール、それを真ん中にしてついている6つぐらいのボックス。
今、それは・・・美輝の目には、酷く色褪せて見えたのだった。
「早瀬様ですね?3番館になります。」
店員は、拓海にデンモク(カラオケリクエストコマンダー)とジュースやらの注文表を渡した。
拓海は店員に一礼すると、美輝を連れ、3番館のドアを開けた。
中には、またまたレトロ風なものばかり。
スクリーンにソファ、テーブル、マイクまでレトロ風にアレンジされたものばかり。
そんなものが、美輝は好きだったが―――今では、何も好きになれない。
「何歌う?」
美輝の心境も知らない拓海は、デンモクを美輝に渡した。
「えっとぉ・・・」と迷う素振りを見せる美輝だが・・・拓海と歌う曲なんて、どうでもよかった。
「美輝、mihimaruGT好きだったよね?」
拓海は、美輝の好きなアーティストをピタリと当てる。
そんなところに美輝は不気味な気持ちを持ったが・・・所詮それは事実。うん、と肯定した。
「じゃあ、『I SHOURD BE SO LUCKY』歌うか?」
デンモクが、その英文字を順番に反映させ・・・検索結果、1つの項目が出てきた。
美輝は小さく頷き、それと同時にその曲が転送される。
そして拓海は、“カラオケ雰囲気作り”のために部屋の電気を消した。
好きだったはずの・・・結構上げ調子のメロディが・・・
今の美輝には―――とても哀しく聞こえた。
『I SHOURD BE SO LUCKY』は、ヒップホップで速度も結構高め。
だけど、美輝はそんな速度もスラスラこなす。
間奏・・・正しくは美輝が歌わない場面で、美輝はあることを思った。
―――大輝、ちゃんとレンジ使えてるかな?
大輝は、自他共に認める家電音痴。昔、洗濯機を爆発させた失態を残している。
「愛されてLucky Lucky Lucky Lucky
愛しましょLucky in Love
愛知ればLucky Lucky Lucky Lucky
愛あればLucky in Love」
歌詞の一部分を歌った時・・・美輝はとても切ない気持ちになった。
―――愛されて・・・幸運(Lucky)じゃないよ・・・
そんな美輝の気持ちとは裏腹に・・・曲はどんどん流れていった。
5曲目あたりだろうか。それさえ分からない。
美輝は無心放心にデンモクを弄っていた。
「美輝、最近学校どう?」
近くで、歌い終えた拓海の声がする。
美輝は適当にかわすと、mihimaruGTの曲を黙々と探していた。
「・・・美輝。」
少し怒ったように拓海はそう言う。
いつもと違う声調に驚いた美輝は、傍にいる拓海を見上げた。
その時・・・
「んっ・・・!?」
唇に、凄い力のものが圧し掛かる。
やがてその力・・・圧力に耐え切れなくなった美輝は、力を受けながらソファに倒れこんだ。
その圧源が拓海の唇・・・ということに気づくには、何秒ぐらいかかったことだろう。
酸素を求めて、少しだけ開いた美輝の口に・・・半ば強引に拓海の舌が割り入ってきた。
「ふぁ・・・ぁ・・・」
自分でも分からない声が、美輝の口から出る。
そんな声をもっと出したいかのように、拓海は美輝の舌に自分の舌を絡めさせる。
人間は、舌がないと上手く話せないものである。
やはり美輝の口からは、意思外れの声が出るばかりであった。
数分侵食が続いた後、拓海は漸く美輝の舌を解放した。
美輝は目を開いて上にいる拓海を見上げる。
そんな美輝に対し、拓海は下にいる美輝を見下ろし
「・・・俺だけを見ろよ・・・」
今までにない、不安そうな声と表情。
そんな拓海の様子に、トクンと胸が高鳴った美輝だったが・・・それも束の間だった。
「・・・ひゃっ!?」
見下ろしていたはずの拓海が、美輝の上に抱き締めるように倒れこんだ。
美輝の背中の下に手を滑り込ませ、さらに紺色のブレザー、白のシャツの中に手を滑り込ませて・・・ひとつの金具を、慣れた手つきでプチッと外した。
さすがにここまでされると、これからされることに目星がついた美輝は・・・
「や、やめ、てよ拓海っ!」
噛みまくりの反抗をした。
だけど拓海は、そんな反抗に耳さえ向けず・・・もう片方の手で、シャツのボタンを順に外していった。
美輝がその手を制御させようとも・・・まったく効果はない。
シャツのボタンは全部外れ、美輝の白い鎖骨が露になっていた。
拓海は、それに唇を這わす。
「やっ・・・ん」
鎖骨に初めて感じる感触に、美輝の体は一瞬跳ねる。
やがて、這っていた唇は外れ・・・鎖骨にキスしていた合間に・・・美輝が知らない合間に露にさせておいた白い胸を、拓海が鷲掴みにした。
「やぁっ・・・」
その力の痛みに、顔を歪ませた美輝だが・・・やがて、手の力は抜いて弱い力で優しく、拓海の手の中でそれは撓む。
―――ああ、今自分はなんてことしているのだろう・・・
自分でも分からない現状に立ち向かっている合間にも・・・美輝の頭の中に映るのは、1人の少年だった。
“モテすぎたから”というなんともムカつく理由で通信教育にした少年。
家電音痴で洗濯機ぶっ壊した張本人。
―――悪戯っぽい笑顔が素敵な、“大輝”。
何故大輝の名前や顔が、よりによってこんな時にだけ頭の中に浮かんできたのかは・・・美輝にはまだ、分からなかった。
『比例×反比例』裏コント〜mihimaruGTって?〜
恵夢「ところでさ、作中に出てきたmihimaruGTって誰??」
作者「・・・(コイツ、絶対大事なトコ見てねぇな・・・)hirokoとmiyakeが結成したユニット。代表作・・・というかいちばん有名なのが、「気分上々↑↑」の、私が好きなアーティストだよ。」
恵夢「へ〜え。あ〜!あのhirokoちゃんかぁっ!声カワイイよね♪」
作者「そうそう。私の中でいちばんお気に入りなのがこの作中の曲・・・『I SHOULD BE SO LUCKY』なんだよ。」
恵夢「アンタのお気に入りなんてどうでもいい♪」
作者「・・・」
恵夢はサラッと毒舌キャラです。
小説の方ですが、拓海と美輝、これ以上行為させませんからご安心くださいm(_ _)m




