登場ポテンシャル
屋敷を出発してからおよそ四時間__六半日__後、ミリとクルルはトリリオン家に戻った。
食材をキッチンに保管し、ミリは迷う事なく応接室に向かう。
「ただいま戻りました」
「戻りました」
当たり前のようにそこにいたストロは、笑顔を向けてくる。
「おかえり。随分と遅かったね。野菜を採りにでも行っていたのかな?」
__何だこの人……。
さりげなく放たれた一言に、クルルは軽く戦慄する。
「それでも遅い気がするけど……。何かあったのかい?」
「……まあ、ちょっと色々と」
異世界暮らし二日目にしてケンカしました、とは言えないクルルは、言葉を濁す。濁したのだが、
「はい! それはもう、報告せずにはいられない事が!」
ミリが顔を輝かせて蒸し返した。
「ちょっ……ミリさん……」
不意打ちをくらったクルルの制止、間に合わず。ミリはクルルがドワーフのケンカに割り込み、軽々と二人をのした内容を事細かに説明した。
改めて顛末を説明されたクルルは、
__ケンカをエスカレートしたの、おれが原因じゃね……?
という事実を今さらながら認識する。
「__あ、それで思い出した。ミリさんが使った魔法、凄くないですか⁉︎」
今度はクルルが、その後の一連の出来事を伝える。
黙って報告を聞いていたストロは、
「……まあ、とりあえず、二人がお互いがお互いに感動した事は伝わったよ」
苦笑いでそう答えた。
「ミリの話は、僕も大いに興味がある。だからまずは、クルル君の方から片付けるか」
ストロに連れられ、裏の庭園に出たクルル。
「こんな所あったんですね……」
玄関口から回り込んだそこは、広さにしてサッカーコート。一面芝生で覆われていた。こちら側にも両開きの扉があったが、どうやら固く閉ざされているようだった。
「あまり立ち入る用事も無いからね」
「色々使えそうな広さなのに、ちょっともったいないっすね。__それはそうと……」
「ん?」
「……これ、何に使うんです?」
クルルの腕の中には、何本かの薪。
「説明に使うんだよ。__それを、向こうに並べてきてくれるかい? 位置は適当でいいよ」
「はあ」
意図を理解できないまま、言われた通りクルルは三十メートルほど離れた場所に薪を立てる。
戻ってきたクルルに、ストロが説明を始める。
「一口に魔法といっても、種類は色々あるんだ。僕が君にかけたワード・イリュージョンやハイディング・ミラージュは、補助魔法と呼ばれるもの。今の二つは、僕のオリジナルだけどね。まあ、生活を助けるための、道具のような魔法だと思ってくれればいい」
「ほー、道具……」
「対して、さっきクルル君が見たであろうミリの魔法は、攻撃魔法と呼ばれるもの。こっちは、まんま武器みたいなものかな。__実際に見せた方が早いか」
ストロはミリに視線を向け、ミリが頷く。
「ファイアバレット!」
先ほどと同様、テニスボールほどの火の玉が出現。クルルが並べた薪の一つを、豪快に蹴散らした。
「はぁ〜……。やっぱすげぇ」
二度目ながらその感動が尽きないクルルに、
「今のは下級魔法で威力も低いけど、」
「今ので⁉︎」
「ミリは上級、キャノン級まで使えるよ。僕はせいぜい、中級のボール級だけどね。__見せる?」
「……いえ、いいです」
__あれで下級魔法なら、上級は見るのも怖いな……。
「それにしても、ボール級とかキャノン級とか、強さによってカテゴリがあるんですね」
「まあそうだね。今見せたエレメント魔法の下級は、魔法の基礎といった所か。魔力を丸く集めて打ち出すだけの簡単なイメージだから、最初に使えるようになる人も多いね」
「……おれには使えませんけど」
その難易度の低さを理解したクルルは、少しだけいじける。それを見たストロは、励ますように笑顔を作った。
「そう悲観する事はないさ。君には種があるじゃないか」
__ん? ポテンシャル……?
また聞きなれない単語を拾ったクルルは、ストロに質問、
「それって何なんです「エアバレット」かぁぁぁぁぁ危ねぇぇぇぇっ⁉︎」
する暇なんてなく、至近距離で放たれた攻撃を全力で回避した。
「本当に避けるとは……」
「何するんですか⁉︎」
何やら感心しているストロ目掛けて、怒り心頭クルルは抗議スタート。
「いや、ごめんごめん。エア魔法は当たっても大してケガする魔法じゃないし、気を悪くしないで欲しい」
「そういう問題ですか⁉︎」
だがストロは、軽やかに抗議をスルー。クルルの肩に手を置くと、
「ありがとうクルル君。おかげで、魔法と種の相違性を証明できたよ」
「ポテンシャル……?」
新たに飛び出した単語に、クルルの怒りは霧散してしまう。
「何ですか? そのポテンシャルってのは」
「え……?」
「え?」
「ん?」
驚愕に近い反応を返され、クルルは首を傾げる。
「無自覚……? いやいくらなんでも、それはありえない……」
「日常的に使えるとも思えませんし……」
何の話なのか、クルルにはさっぱりである。
「その、ポテンシャルって単語に聞き覚えはないです。説明……してもらっていいですか?」
「ああ、構わないよ。__種というのは、魔法とは別の、もう一つの能力の事さ。魔法は魔力を消費するけど、種は体力や精神力を消費するんだ」
「魔法とは別の、能力……」
「ただ、その消費量は魔法とは桁違いだ。連続して使えるのは、せいぜい数回って所だろうね。__それに、全員が使える訳じゃない」
「どういう事ですか?」
「魔法は、クルル君みたいな特別な事例を除けば、誰でも扱えるようになる。でも、種はそうはいかない。種を使うには、自身の根幹を成す感情や想い、才能に反応する。使える人は稀なんだよ」
「へぇー……」
心から感心した様子のクルルは、
「ストロさんは使えるんですか?」
「いや、使えないよ」
「え?」
思わず素で返したクルルに、ストロは苦笑を向ける。
「おいおい、そんな意外そうな顔をしないでくれよ。僕だって普通の、人間なんだよ?」
「そ、そっすか」
その言葉に何かを感じ取ったクルルは、それ以上の追求をやめた。
「ああでも、ミリは使えるよ」
「え? そうなんですか?」
クルルは少し驚いてミリを見る。ストロの話では、種を使うためにはそれなりに意志力が必要だという。それならばこの大人しいミリは、何を力に変えているのだろうか。
「あまり、使う機会は無いですけど……」
やや照れた様子のミリ。
「ちなみに、どんな能力なんですか?」
それを聞いたストロは、いつもの笑みを浮かべる。
「はは、実はクルル君、一度見ているんだよ?」
「え? いつですか⁉︎」
クルルは、インパクトだらけの一日の記憶を遡る。
「今朝です」
「今朝……?」
__今朝のミリさんの出来事といえば、キッチンで一緒に料理したくらいだけど……
「ああ! あの時の魔水晶!」
思い出したクルル。あの時、クルルが暴発させた魔水晶は、誰が「オフ」と言うでもなく発動をやめていた。若干気になってはいたのだが、他の出来事に流れてしまっていた。
「ご名答。一瞬とはいえ、ミリは種を使っているんだよ」
頷くストロに、クルルはその能力を考える。当然、その見当はつかない。
「__無効化。それが、私の種です」




