魔法インパクト
言い放ったクルルの言葉に対し、
「……ああ?」
「何だテメェ」
ドワーフ達の反応は実に単純だった。
「非力な人間の分際で……」
「力で勝てると思ってんのか?」
拳を握って凄みながら、クルルに一歩近付く。
__知識が無いからよく分からんが、多分腕力じゃ勝てないんだろうな……。
怖くないと言えば嘘になるが、考えるのはそんな事。
「……ケンカってのは、力勝負だけじゃないんだぞ」
放たれたその言葉に、
「「あ?」」
ドワーフは堪忍部の緒が切れた。
「ふざけんなよ?」
ドワーフ一人のパンチが、クルル目掛けて放たれる。
「クルル君!」
背後でミリが悲痛な声を上げる。
だが、
「__別に挑発したつもりはなかったんだけどな……」
クルルは拳の側面に手を添えると、回転しながら受け流す。
「とっとっと……」
力を受け流されたドワーフは、勢い余ってつんのめる。
「正当防衛な」
そう言ってクルルは、回転した勢いで足払いをかける。それだけで、踏ん張りがきかなかったドワーフは転倒してしまった。
『はっ……?』
ギャラリーもミリも手を出したドワーフも、一瞬何が起こったのか反応できなかった。
「な……この野郎!」
最初に我に返ったのは、もう一人のドワーフ。激昂しタックルを仕掛けてきた。
前の教訓だったのだろうが、
「正面じゃあな」
クルルはあえて突っ込む。
ぶつかりそうになった瞬間、
「__!」
思わず目を瞑りそうになったミリの前で、クルルは跳躍。
ドワーフの背が低い事を利用し、そのまま彼の頭に手をつくと一回転して着地。
ドワーフからしてみれば、クルルは消えたように感じたはずである。戸惑ったままブレーキがかけられず、立てかけてあった木材に激突。ボウリングのピンのようにそれらをなぎ倒した。
「……確かにエグい力だな。あんなの食らったら骨まで砕けそうだ」
今さらながらそんな感想を呟くクルル。__そして見た。木材の一つが、ミリ目掛けて倒れるのを。
「ミリさん!」
クルルは駆け出すが、とても間に合わない。ミリの方も、とっさには動けないようだった。
だがミリは、片手を迫り来る木材に向ける。
そんな細い腕で防ぐつもりか、とクルルが思った直後、
「__ファイアバレット!」
ミリが言い放った。
すると、突き出した掌の先からテニスボールほどの火の玉が出現。
まっすぐ木材に飛来すると、
「なん……」
呆然とするクルルの前で、中心部分を爆散させた。
衝撃で吹っ飛んだ木材は、誰もいない石畳に落下し大きな音を立て、あとは静かに横たわった。
「「申し訳ありませんでした」」
騒動の数分後、怒りの冷めたドワーフ二人は頭を下げていた。体も下げていた。__土下座である。
背の低いドワーフが土下座すると、その小ささに失笑してしまいそうだが、
「どうすりゃいいんだこれ……」
残念ながら、当事者のクルルにその余裕は無い。
「貴族様に失礼を働いてしまった事は認めます」
「ですが、どうか御慈悲を」
ドワーフ達の口調は、半ば諦めが強い。謝罪の意がこもっていない訳ではないが、心の底から漏れた声ではない感じが、クルルにはした。
「えっーと……とりあえず、おれには処罰する権利も度胸も無いんで、顔上げて下さい」
ミリさんとも似たような会話したなー、と思ったクルルだが、とりあえず意識の外に飛ばす。
クルルの声を聞いたドワーフ二人は、驚いて顔を上げる。
「ゆ、許していただけるのですか?」
「……まあ、俺も手を出したし、おあいこって事で」
「「ありがとうございます!」」
再度頭を下げたドワーフに、
「……ケンカして、残るのは後悔だけ」
クルルは低く呟く。
その言葉から何かを察したのか、
「肝に命じておきます!」
「申し訳ありませんでした!」
座ったまま背筋を伸ばす。
__あ、どうでもいいけど、こうやって正座が生まれたんだな。
心底どうでもいい事を考えたクルルだった。
感謝し手を振るドワーフ達や近くの住民に別れを告げ、クルルとミリは再び帰路につく。
「ひやひやしました……」
「……すいません。見過ごせなくて」
様々な意味を込めて言われたであろうその言葉に、クルルは苦い顔をする。
「それが、クルル君の優しさと厳しさなんですね」
「……そんな立派なモンじゃないですよ。ちょっとした実体験です」
「クルル君……」
隣の少年が見つめる空は、この空とは違う、どこか別の世界のような気が、ミリにはした。
「__あの、少し、寄り道してもいいですか?」
「え? あ、はい。いいですけど……どこに?」
視線をミリに戻したクルルは、辺りを一周見渡す。すでに森の中。歩いてきた、そして屋敷に繋がる道以外には木々ばかり。
「こっちです」
ミリが向いた先には、やはり木以外何も無い。
「一体どこに……」
クルルの疑問の声をスルーし、ミリは近くの木に手を添えると小さく呟く。
「__マジック・ジャミング」
すると、その手を添えていた木が消滅。続いてその先も、その先も。
「んな……」
クルルが呆然と目と口を開けている間に、森の中に別の一本の道が生まれた。
振り返ったミリは、クルルの顔に小さく笑いながら、
「本当はこの場所に、木は無いんです。ストロさんの魔法、ハイディング・ミラージュでそう見せているだけなんです。今は、私の魔法で相殺させて、一時的に解除しました」
「今消えた木は……幻って事ですか?」
「はい」
__魔法スゲー。
「それで……この先には何があるんですか?」
魔法を使って隠すほど価値のある何か。家宝的な何かかあるいは__
「菜園です」
「……はい?」
赤、黄、緑、その他数色。色鮮やかな野菜、果物類がそこにはあった。
「…………」
__まあ、ミリさんの様子から、危険は無いだろうなー、とは思ったけどさ……。
若干の肩透かしを食らったクルルは、楽しそうに食材を選り分けるミリの姿を眺めていた。
「これとこれと……うん、あとこれも」
クルルには基準がまったく分からないが、ミリは判断した大量の食材を抱える。
「手伝いましょうか?」
「あ、う……お願いします」
だが欲張ったからなのか、今にも溢れそうな量である。ミリ一人で持つには限界が近い。
「うん? これって……」
渡された食材の中に、見覚えのある分厚い葉っぱ。
「これ……ノムットの葉じゃないですか?」
「はい、そうですよ。一般的な食材ですし、ここでも栽培しているんです」
「へー。初めて見るのは、やっぱり面白いな」
呟いたクルルの横で、ミリが少し驚くのが分かった。そして小さく笑うのも。
「ん?」
「あっ、すみません。……気を悪くしましたか?」
「いや、別に……。ただ、どうしたのかなー、と思って」
「いえ、単に、本当に貴族らしくないな、と思いまして」
__貴族違うって……。
「そもそも貴族って、こういう栽培とかするんですか?」
「ほぼありえません」
「そんな気がしました。__じゃあストロさんは……」
「ストロさんも、貴族から見たらかなりの変わり者ですからね……」
「じゃあ、貴族の仕事って?」
ギルド経営の話は聞いた。トリリオン家がギルドを畳んだ事も。
「私も他の貴族については詳しくないですけど、ストロさんは魔法の開発をして、それで収入を得ています」
__特許みたいなモノかな?
「何で、ギルド畳んじゃったんでしょうね」
「私も詳しくは知りません。ストロさんも、あまり話したがらないので……」
それを、ミリも語りたくないのは、明白だった。問い詰めれば答えてくれるのかもしれないが、クルルはそれをしない。
「……いつか、それを知る日が来るのかな」
綺麗な青空を見上げながら、クルルは呟く。
その答えは、思ったより早くやってくる。




