ほんと、キリがない
配信が途絶えても、爆発は終わっていなかった。
巨大な枝の内部を走った炎が、離れた場所で次々と弾ける。腹へ響く爆音が続き、燃えた樹皮や枝の破片が結界へ降り注いだ。
やがて最後の爆発が収まり、赤く染まっていた森に暗がりが戻ってくる。
調査隊の周囲だけ、樹木が消えていた。
地面には折れた枝が散乱し、その向こうでは巨大な幹が黒煙を上げている。爆発に巻き込まれた範囲は広く、先ほどまで森だったとは思えないほど開けていた。
「配信は?」
「中継器が破損しています。こちらの録画は続いていますが、復旧には戻って設置し直す必要があります」
「うちのカメラもダメですね」
柳は冷静に報告した。
北田の報告を聞きながら、西郷が呼吸を整える。結界は保たれているものの、先ほどの爆発を受け止めた消耗は小さくない。
カヅチは黒煙の向こうへ目を凝らした。
「思ったより効いたな」
「森ごと吹き飛ばした人の言葉とは思えませんね」
「燃える方が悪い」
西郷の返答を聞き流し、カヅチは焼け焦げた巨大な幹へ近づこうとする。
その足が止まった。
焦げた地面に、淡い青色の芽が出ていた。
一つではない。
爆発によって開けた一帯から、同じ芽が一斉に顔を出している。
「下がれ!」
芽が急激に伸び始めた。
細い茎は数秒で人の背丈を超え、幹と呼べる太さへ変わっていく。枝が左右へ広がり、そこからさらに新しい枝が伸びた。
青白い葉が開き、再び黄色い花粉が放たれる。
焼け落ちたはずの森が、調査隊の目の前で元へ戻っていく。
「冗談だろ……」
誰かが呟いた。
それから一分も経たないうちに、爆発で生まれた空間の半分近くが新たな木々に埋められていた。
友丸は足元から伸びてきた根を、黒いナイフで切り払う。
切断された根は地面へ落ちたものの、残った部分から二本の芽が伸び始めた。
「増えたな」
「笑えないわね、それ」
絢香が友丸の横から飛び出し、迫ってきた枝を横から蹴りつける。
人の胴ほどもある枝が軌道を変え、調査隊の脇へ突き刺さった。反対側から伸びてきた別の枝も、北田が横から一撃を叩き込み、結界から逸らす。
枝を防いでいる間にも、新しい木々が次々と育っていく。
「魔力反応が減っていません。爆発の前と、ほとんど同じです!」
「外からいくら燃やしても無駄ということか」
カヅチが炎を放ち、新たに伸びてきた枝を焼き払う。
周囲に漂う花粉が小さく爆発し、枝が内側から砕け散った。だが、その下では早くも次の芽が地面を割っている。
「きりがないな」
森を形作っている枝や根は、どれだけ失っても再生する。
それだけの魔力を、無限に生み出せるはずがない。
「どこかに核がある」
友丸の言葉に、カヅチも頷いた。
「ああ。見つけて潰さない限り、森が増え続けるだけだ」
頭上から、建物ほどもある枝が振り下ろされた。
柳が片手を上げる。
その周囲へ無数の細い針が現れ、一斉に枝へ飛んだ。
銀色の光が巨大な枝を貫通する。
次の瞬間、枝の内部から無数の亀裂が走り、結界へ届く前に粉々に砕け散った。
柳は降り注ぐ木片を見上げながら、静かに息を吐く。
「核を探すなら、少人数の方が動きやすいでしょう」
「私と撮影者で行く。柳、ここは頼む」
「分かりました」
柳の前へ、左右から新たな枝が迫る。
二本目を針で貫き、残る一本は絢香と北田が左右から攻撃して軌道を逸らした。枝は地面を大きくえぐり、調査隊の横を通り過ぎていく。
ほかの者達も結界の周囲へ散り、次々と伸びてくる枝を迎え撃っていた。
柳は新たな針を周囲へ浮かべ、カヅチと友丸を見る。
「私の魔力が尽きる前にお願いします」
「十分だ」
カヅチが答え、全身を覆う防護装備を確かめる。
友丸は頭の上からこはくを抱き上げた。
「こはくは、ここに残っててくれ」
「みゃ」
こはくは友丸の手を離れ、絢香の近くへ飛んでいく。
結界の前方に、二人が通れるだけの隙間が開いた。
「撮影者、行くぞ」
「はい」
二人は濃い花粉が漂う森へ飛び出した。
背後で巨大な枝が砕ける音を聞きながら、すべての根が繋がる森の奥へ向かって走り始めた。




