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その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


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超巨大な魔物


短い休憩を終えると、調査隊は再び移動を始めた。


 採取した試料は専用の冷却容器へ収められ、北田も固定台からカメラを外している。


 川幅が狭くなっている場所まで上流へ進み、技術班が対岸へワイヤーを渡す。軽量の足場が固定されると、調査隊は一人ずつ川を渡った。


 対岸には、緩やかな上り坂が続いていた。


 初めのうちは濡れていた岩肌も、進むにつれて乾いていく。やがて川の音が遠ざかり、代わりに青白い苔が足元を覆い始めた。


 さらに二十分ほど進んだところで、先頭のカヅチが足を止める。


「今度は森か」


 坂道の先には、広大な森林が広がっていた。


 太い幹を持つ木々が隙間なく並び、淡い青色の葉が頭上を覆っている。枝葉の奥にあるはずの天井は見えず、地下深くとは思えない光景だった。


《地下に森がある》


《東京異界、広すぎるだろ》


《これも初めて発見された場所か?》


 森の中は静かだった。


 虫の羽音も、獣の鳴き声も聞こえない。


「生き物がいないな」


 友丸が周囲を見回す。


「これだけ植物があるなら、小型の魔物くらいいてもよさそうだけど」


 絢香も不思議そうに木々の間へ目を向けた。


 数分後、外気を調べていた測定器が警告音を鳴らす。


「花粉と思われる微粒子を検出。睡眠作用があります」


 淡い黄色の粒子が、青白い葉の間から降り始めていた。


「結界内への侵入はありません」


 技術班の報告どおり、調査隊の誰にも眠気は現れていない。


 絢香は結界の表面を流れていく花粉を眺めた。


「さっきの魚、この花粉を川の水ごと取り込んでいたのかもしれないわね」


「それを体内でガスに変えていたのか?」


「可能性はあると思う。詳しく調べないと分からないけど」


《魚だけが原因じゃなかったのか》


《結界の外に出たら眠るぞ》


《睡眠対策、本当に用意して正解だったな》


 森の奥へ進むほど、花粉は濃くなっていった。


 風はない。それなのに頭上の葉は、一定の間隔で揺れている。


 友丸の頭の上で、こはくが耳を立てた。


「みゃ」


 地面へ横たわっていた倒木が、ゆっくりと持ち上がった。


「止まれ!」


 カヅチの声が飛ぶ。


 倒木ではなかった。


 直径だけで三メートルを超える巨大な枝が、生き物の腕のようにしなっている。


 枝が友丸達に向ってくる。 


 結界へ激突し、低い音が森中へ響く。表面から剥がれた樹皮が飛び散り、周囲の木々を何本も薙ぎ倒した。


《枝が動いたぞ》


《木の魔物か?》


《大きすぎるだろ》


 一本目が離れるより早く、頭上から別の枝が振り下ろされた。


 続けて、左右からも地面を這っていた枝が持ち上がる。


「全員、固まって動け! 結界から離れるな!」


 カヅチの指示に従い、散らばりかけていた調査員たちが中央へ集まる。


 巨大な枝が次々と結界を叩いた。


 衝撃が重なるたびに透明な壁が揺れ、西郷の額から汗が流れ落ちる。それでも枝が内側へ届くことはなかった。


 激しく揺さぶられた木々から、大量の花粉が噴き出す。


 黄色い粒子が結界の外を埋め、数メートル先も見えなくなった。


 地面からは、先ほどよりも大きな振動が伝わってくる。


 土が盛り上がり、その下から何本もの黒い根が姿を現した。別々の木から伸びているように見えた根は、すべて同じ方向へ繋がっている。


 森の奥で、山の斜面に見えていたものが動いた。


 表面を覆っていた土や苔が崩れ落ち、その下から巨大な幹が現れる。


 周囲に並ぶ木々も、地面を這う根も、襲いかかってくる枝も、すべてその幹から伸びていた。


「森全体で一体か」


 カヅチが巨大な影を見上げる。


《全部繋がってる》


《森そのものが魔物なのか?》


《本体、どれだけ大きいんだよ》


 正面から、ひときわ太い枝が迫ってきた。


「西郷。前を一瞬だけ開けろ」


 結界の一部に、細い隙間が生まれる。


 カヅチは右手を突き出し、赤い炎を一直線に放った。


 炎が枝へ突き刺さる。


 樹皮を焼き抜いた直後、乾いた破裂音が響いた。


 周囲を漂っていた花粉へ火が移り、黄色く霞んでいた森が赤く染まる。


「閉じろ!」


 結界が閉じるのと、爆発が起きたのはほぼ同時だった。


 炎が巨大な枝を包み込み、その内側へ入り込み爆破。


 一度。


 二度。


 枝の奥から爆発が続き、火が別の枝へ燃え移った。


 爆発は枝から枝へと連なり、森の奥へ向かって走っていく。燃え上がった木片が四方へ飛び散り、結界へ爆風が叩きつけられた。


 北田の持つカメラが大きく揺れる。


《花粉が爆発した!?》


《枝の中まで燃えてる》


《これ、誘爆してないか?》


《西郷の結界は――》


 映像へ激しいノイズが走った。


 北田の端末から、通信異常を知らせる警告音が鳴る。


「森林入口に置いた中継器が応答しません!」


 爆発は入口付近まで漂っていた花粉にも燃え広がっていた。


 音声が途切れ、映像が白く染まる。


 次の瞬間、世界中へ届けられていた配信画面が暗転した。


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粉塵爆発以下略
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