↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/164

ロサンゼルス異界


ゲートを抜けた先には、ロサンゼルス異界を調査するための前線拠点が設けられていた。


 通信機器や物資を積んだコンテナが並び、その間を政府職員や支援要員が慌ただしく行き交っている。


 そこで装備と人数の最終確認を終えると、三十名からなる調査隊は新エリアへ向けて出発した。


 隊列の前後と左右を戦闘班が固め、その内側に政府の調査担当者や測量班、記録班が入る。友丸は後方寄りを歩きながら、カメラを回していた。


 ロサンゼルス異界の既知領域には、乾燥した赤褐色の荒野が広がっている。


 大地から突き出した巨大な岩柱の間を、深い峡谷が縫うように走っていた。大小いくつもの岩塊が浮かび、乾いた風が絶えず吹いている。


 新たなエリアが発見されたのは、少し前。


 向こう側に広がる新エリアは、先行隊が入口周辺を確認しただけで、本格的な調査はまだ行われていない。


 前線拠点が見えなくなったところで、記録班を率いる女性が友丸へ合図を送ってきた。


 ここまで来れば、公開できない設備や資料が映り込む心配はないらしい。


 友丸はカメラを操作し、配信を開始した。


「聞こえてるか?」


 事前に配信予約はしていない。


 それでも開始を知らせる通知が届くと、視聴者の数は瞬く間に増えていった。


『急に始まった』


『配信予約なんてなかったよな?』


『撮影者さん待ってた』


『こはくもいる?』


「いるぞ」


「みゃ」


 友丸の頭上から返事が聞こえ、コメントの流れが一気に速くなった。


『いた!』


『声だけでもかわいい』


『今日は頭の上か』


『ところで、ここはどこ?』


『Are you in America?』


 カメラに映っているのは、赤褐色の荒野と空に浮かぶ岩塊だけだ。


 ロサンゼルス異界の映像は過去にも少しだけ公開されているが、この景色だけで場所を言い当てられる者は少ないらしい。コメント欄には、様々な国の異界を予想する書き込みが流れていく。


 友丸がカメラを進行方向へ向けた。


 画面に映り込んだのは、隊列を組んで荒野を進む冒険者たちだ。その中には、アメリカだけでなく、海外でも顔を知られている者が何人もいる。


 最初に気づかれたのは、やはり双子だった。


『ちょっと待て。前にいるの、テルスとギルじゃないか?』


『本物だ』


『ほかにも有名な冒険者がいるぞ』


『アメリカの上位勢が集まりすぎだろ』


『政府の調査隊?』


『ロサンゼルス異界にいるのか?』


『SAMURAI is in Los Angeles!』


『なんで撮影者さんがアメリカにいるんだよw』


 景色ではなく、同行している冒険者たちから場所を突き止めたらしい。


「よく分かったな。ここはロサンゼルス異界だ」


 友丸が認めると、コメント欄の流れがさらに速くなった。


『やっぱり!』


『外国人が入っていいのか?』


『アメリカ政府はよく許可したな』


『もしかして、新エリアの調査?』


「ああ。」


 調査期間は一週間。


 異界内で野営しながら、まだほとんど調べられていない領域を進む予定になっている。


 詳しい場所や行動計画は公開できない。そのことも伝えてから、友丸は再びカメラを荒野へ向けた。


 しばらく進んだところで、前方にいた冒険者が片手を上げる。


「魔物だ! 正面から十二体!」


 峡谷の斜面を駆け下りてきたのは、羽のないダチョウに似た魔物だった。


 人間よりも背が高く、太い二本脚で荒野を走っている。灰色がかった皮膚に毛はなく、細長い頭の先には、尖った伸くちばし。


 この一帯で何度も確認されている浅層の魔物だ。


 Aランク冒険者なら、一人でも十分に対処できる。


「第三班、頼む」


「了解」


 隊列から、長槍を持った女性が一人だけ前へ出た。


 ほかの戦闘班は動かない。前後左右の守りを崩さず、周囲の警戒を続けている。


 先頭の一体が地面を蹴り、長い嘴を突き出した。


 女性は横へずれ、すれ違いざまに槍を振り抜く。魔物の脚を払って転倒させると、その首へ穂先を突き立てた。


 後続の二体が左右から迫る。


 槍を引き抜いた女性は、右から来た一体のくちばしを柄で弾き、そのまま喉を貫いた。背後へ回ろうとしたもう一体には、振り向きざまの一撃を叩き込む。


 残る魔物も次々と襲いかかったが、女性を捉えることはできなかった。


 一体ずつ確実に数を減らされ、最後の一体が背を向ける。


 女性の手から放たれた槍が、その胴体を正確に貫いた。


 戦闘が始まってから、一分も経っていない。


 女性は槍を回収すると、何事もなかったように隊列へ戻ってきた。


『一人だけで倒した』


『十二体いたよな?』


『Aランクなら、あのくらいは普通だぞ』


『分かってても速いよ』


『ほかの冒険者達も慣れてる感じする』


「今回の参加者は、全員Aランク以上だ」


『全員!?』


『三十人近くいるよな?』


 その後も、浅層の魔物は何度か現れた。


 だが、そのたびに別の冒険者が一人だけ前へ出て、短時間で処理していく。


 友丸は戦闘だけでなく、冒険者が前へ出るまでの動きや、戦闘中も隊列を崩さず進んでいく調査班の様子まで撮影していた。


 今回の調査へ参加している者の多くは、これまでにも同じ任務を経験している。新エリアへ入る前にも、合同での訓練を重ねてきたのだろう。


「二人は戦わないのか?」


 友丸は、近くを歩いていたテルスとギルへ尋ねた。


「この程度なら、私たちが出る必要はないわ」


 テルスが答える。


「俺たちは何か起きたときのために居る。この先では、何が出るか分からないからな」


 ギルは進行方向から目を離していなかった。


 世界十七位と十八位の二人を、既知領域にいる魔物の相手で消耗させる理由はない。


 友丸は配信へ向け、日本語で簡単に説明した。


「二人は、非常時に備えて温存らしい」


『世界ランカー二人が予備戦力かよ』


『贅沢すぎる』


『この調査隊、普通に強いな』


『撮影者さんも予備戦力?』


「俺は撮るために来たんだよ」


『そう言いながら絶対戦う』


『海外でも撮影者さんは撮影者さんだった』


 友丸はコメントを聞き流し、再びカメラを前へ向けた。


 調査隊は何度か短い休憩を挟みながら、赤褐色の荒野をさらに進んでいった。


     ◇


 新エリアの入口へ到着したのは、それから二時間ほど経った頃だった。


 左右から迫る巨大な岩壁の間に、人が数人並んで通れるほどの裂け目が開いている。


 安全な経路を示す標識は、その手前で途切れていた。


「この先よ」


 テルスが裂け目を指した。


 先行隊が確認したのは、ここから坂を下りた先にある湖岸まで。さらに先は、まだ誰も調べていない。


 調査責任者から許可を得た友丸は、隊列を大きく離れない範囲で位置を変え、岩壁の隙間へカメラを向けた。


 裂け目を抜けたところで、友丸は足を止める。


 目の前の地面が緩やかに下り、その先に大きな湖が広がっていた。


 岸に近い場所では、水底の白い砂まで見える。そこから沖へ向かうにつれて水の色が濃くなり、湖の中央は深い青色に変わっていた。


 裂け目の向こうから、湿り気を含んだ冷たい風が吹いてくる。


 友丸は何も言わず、湖の端から端までゆっくりとカメラを動かした。


 後ろに続いていた者たちも、しばらく足を止める。


『綺麗な湖だな』


『さっきまで荒野だったよな?』


『水が青すぎる』


『ここが新しく見つかったエリア?』


『この映像、今まで公開されてなかったよな』


「新エリアの映像が一般に公開されるのは、これが初めてらしい」


 友丸が答えると、コメントの流れがさらに速くなった。


「綺麗でしょう?」


 隣へ来たテルスが、湖を見ながら尋ねる。


「ああ亅


 調査責任者が全員の到着を確認し、前方へ手を上げた。


「ここからが新エリアだ。先行隊が確認したのは湖岸まで。その先では、何が起きてもおかしくない。戦闘班は警戒を続けろ」


 前方を固める冒険者たちが、ゆっくりと坂を下り始める。


 そのあとに調査班と記録班が続いた。


 友丸もカメラを回したまま、まだ誰も詳しく調べていない土地へ足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここ 会話は英語でコメントには日本語かな? 通訳機能で全部英語かもしれんがw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。