↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/160

新技を配信する


「今回の調査は、ここまでにしよう」


 アンがそう告げると、誰からも異論は出なかった。


 新エリアの先へ進むには、睡魔への対策が必要になる。残り四日で専用の装備を一から用意してまで、無理に調査を続ける理由はない。


 東京異界深層の空白は大きく埋まり、新たなエリアまで発見した。


 二週間を予定していた大規模調査は、四日を残して終了することになった。


「それじゃあ、戻ろうか」


 アンの言葉を合図に、それぞれが撤収の準備を始める。


 友丸も戻ろうとして――やめた。


 拠点には日本政府の担当者たちがいる。


 あの感じだと、戻れば捕まる。


 それも、新エリアの話だけでは済まないだろう。


 撮影者さんについて、日本政府が知っていることは驚くほど少ない。


 日本語はどう聞いてもネイティブ。これまで姿を現したのも日本国内の異界ばかりで、実力だけならSランク級と考えるのが自然だ。


 それなのに、名前も所属地域も経歴も分からない。


 今回は、日本政府すら知らなかった新エリアについて、以前から知っていたことまで判明した。


 聞きたいことなど、いくらでもあるはずだ。


「……長そうだな」


 別に政府と話したくないわけではない。


 ただ、捕まれば面倒なのは目に見えている。


 なら、その前に本来の目的を済ませておけばいい。


 友丸は背負っていた荷物を下ろし、中から配信用のカメラを取り出した。


 それを見たアンが、納得したように頷く。


「ああ。そういえば、全く撮れてなかったね」


「ああ」


 友丸が頭上を指差す。


 猫マスクの上では、こはくが前足で顔を洗っていた。


 そもそも今日は、この小さな生き物の動画を撮るために東京異界へ来たのだ。


 それが《ヴァルカ》の調査に同行し、新エリアを案内して、気づけば調査そのものが終わっていた。


 肝心の撮影は、ほとんどできていない。


「じゃあ、私も出ようかな」


「別にいいぞ」


「調査が予定より四日も早く終わることになったでしょ。色々言われそうだし」


 新エリアが発見されたこと自体は、すでにテレビでも報じられている。


 その直後に大規模調査が予定を四日残して終了となれば、何かトラブルがあったのではないかと勘繰る者も出てくるだろう。


「先に、問題なく終わったって話しておくよ。詳しい調査結果は日本政府から正式に発表されるだろうし」


「分かった」


 友丸に断る理由はない。


 友丸は新エリアの入口が映る位置まで移動し、カメラを構える。


「じゃあ、始めるぞ」


 配信を開始した。


 数秒もしないうちに、コメントが流れ始める。


『きた!』


『撮影者さんだ』


『こはくいる!』


『今日も頭の上かわいい』


『そこどこだ?』


『待って、後ろ』


『新エリアの入口じゃね?』


『ニュースで見た場所だ』


 視聴者数も凄まじい勢いで増えていく。


 友丸はカメラを真上へ振った。


 猫マスクの上に乗ったこはくが、ぴたりと画面の中央へ収まる。


 毛繕いの途中だったこはくが顔を上げた。


「みゃ?」


『かわいい』


『開始早々助かる』


『今日も頭の上か』


『もっと映せ』


『カメラ振るの速いのに全然ブレないの何なんだ』


 友丸は満足してカメラを戻した。


 その横から、アンが画面へ入ってくる。


『!?』


『は?』


『アン!?』


『ヴァルカのクランマスターじゃん!』


『なんで一緒にいる!?』


『知り合いなの!?』


『撮影者さん、ヴァルカと繋がりあったの?』


『待て、今ヴァルカが東京異界調査してるよな』


『まさか撮影者さんも一緒にいた?』


『どういうことだよ』


 予想以上の勢いでコメントが跳ねる。


 アンは流れていく文字を眺め、軽く手を上げた。


「こんにちは。撮影者さんには、今回の調査を少し手伝ってもらってました」


『やっぱり!?』


『調査に参加してたのかよ!』


『いつから!?』


『新エリア関係?』


『もしかして発見にも関わってる?』


『何したんだ撮影者さん』


 友丸は黙ってカメラを構えている。


 アンもそれ以上は答えなかった。


「その辺りは日本政府からの詳しい発表を待ってね。私から勝手に話せることじゃないから」


『絶対何かある』


『気になる』


『撮影者さんますます何者なんだよ』


『日本政府は正体知ってるの?』


「それより、せっかくだから一つ報告しておくね」


 アンが一度後ろを振り返ってから、再びカメラを見る。


「今回の大規模調査なんだけど、さっき終了することが決まりました」


 一瞬置いて、コメントが跳ねた。


『え?』


『終わったの!?』


『今日で?』


『まだ四日残ってなかった?』


『予定より早いよな』


『何かあった?』


『中止?』


「中止じゃないよ。トラブルが起きたわけでもないから安心して」


 アンはすぐに否定した。


「予定していた深層の調査は十分に進められたし、報道されている通り、新エリアも発見できた。成果としては充分でしょう」


『じゃあ成功か』


『よかった』


『事故じゃないのね』


『新エリアまで見つけてるもんな』


『ならなんで今日で終わり?』


「新エリアについても調べたんだけど、これ以上進むなら相応の準備が必要になる場所があったの。残り四日で無理に進める必要はないって判断した」


 今度は別の疑問がコメント欄を埋める。


『相応の準備?』


『何があるんだ』


『魔物?』


『地形?』


『ヴァルカでも準備必要なのか』


『めちゃくちゃ気になる』


 アンはそこまで読んで、小さく笑った。


「その辺りも含めて、詳しい調査結果は後日、日本政府から正式に発表されると思う。私からはここまで」


『正式発表待ちか』


『まあ無事ならいい』


『調査隊お疲れ』


『ヴァルカも日本組もお疲れ』


 アンの説明は、それだけだった。


 友丸も詳しい話を足すつもりはない。


 ここから先は政府の仕事だ。


「じゃあ、今度こそ撮る?」


「ああ」


『ん?』


『何を?』


『撮る?』


『新エリア?』


 友丸はもう一度カメラを真上へ向ける。


 こはくが画面いっぱいに映った。


「こいつ」


「みゃ」


『こはく?』


『何?』


『こはくの撮影?』


「今日は元々、こはくを撮りに来た」


『は?』


『そうなの!?』


『調査じゃなかったのかよw』


『こはく撮りに来てヴァルカの調査手伝ったの?』


『どういう一日だよ』


 友丸はカメラを戻す。


「魔物と遭遇した時のこいつを撮りたい」


『魔物と遭遇した時?』


『何かするの?』


『こはく戦えるの?』


『あのサイズで?』


 アンは事情を知っているため、特に驚くこともなく頷いた。


「じゃあ、魔物を探そうか」


「ああ」


『アンも行くの!?』


『調査終わったばっかだぞw』


『クランマスター何してるんですか』


『しかも新エリア入る気か?』


 アンがコメントを見て肩をすくめる。


「奥までは行かないよ。魔物を一体見つけたら戻るから」


『この二人を心配する気にはならない』


『魔物の方を心配しろ』


『こはく撮影のために新エリア戻るの草』


 友丸はカメラを構えたまま、アンと並んで新エリアへ入った。


 頭上では、こはくが呑気に尻尾を揺らしている。


 大規模調査は、つい先ほど終わった。


 そしてようやく、友丸が今日やりたかった撮影が始まった。


 新エリアへ入ってからも、友丸はカメラを回し続けていた。


 隣を歩くアンは、いつもの軍服姿。手には二メートル近い大鎌を携えている。


 配信開始時こそ二人が一緒にいることへ驚きが集中したものの、事情が分かってからはコメントも落ち着いていた。


『しかし凄い組み合わせだな』


『撮影者さんとアンが普通に並んで歩いてる』


『目的忘れるな。今日はこはくだぞ』


『魔物見たら何するんだろ』


 肝心のこはくは、猫マスクの上でのんびりと周囲を眺めている。


 友丸が撮りたいのは、魔物を見た時の反応だ。


 以前から、こはくは魔物を前にすると妙な行動を取ることがあった。


「いないな」


「さっきまでは結構いたんだけどね」


 アンが周囲を見回す。


 探し始めて十分ほど。


「いた」


 アンが足を止める。


 姿を現したのは、三メートル近い人型の魔物だった。


 赤黒い皮膚。地面に届きそうなほど長い両腕。前屈みの巨体が岩の間を抜け、こちらへ向かってくる。


『でか』


『見たことない』


『新エリアの魔物か』


『普通に怖いんだが』


 友丸は魔物へカメラを向けた。


 まだ距離はある。


 アンも大鎌を構えることなく、その姿を眺めていた。


「こはく」


「みゃ?」


 頭上から返事が落ちてくる。


 その直後。


 こはくが魔物へ顔を向けた。


 小さな身体がわずかに動く。


 友丸は見逃さない。


 カメラを上げ、猫マスクの上にいるこはくを画面の中央へ収める。


 こはくが片方の前足を、すっと持ち上げた。


「みゃ~~」


 なんとも気の抜けた鳴き声だった。


 同時に、カメラが正面へ戻る。


 そこで――魔物が止まった。


「……ん?」


 走り出そうと踏み込んだ姿勢のまま、ぴたりと静止している。


 一秒。


 二秒。


 何事もなかったように、魔物が再び動き出した。


『え?』


『今止まった?』


『二秒くらい』


『配信止まった?』


『いや後の草動いてたぞ』


『魔物だけ止まってた』


 友丸はカメラを向けたまま、頭上へ意識を向ける。


「今の、こはくなの?」


「たぶん」


 アンも同じものを見ていたらしい。


 だが、一度だけでは分からない。


 魔物が速度を上げる。


 地面を蹴り、一気に距離を詰めてきた。


 そして再び。


 頭上で、こはくの前足が持ち上がる。


 その気配を感じた瞬間、友丸のカメラも跳ね上がった。


「みゃ~~」


 前足を上げたこはくを一瞬だけ捉え、直後にはカメラは魔物へ戻る。


 ぴたり。


 二度目。


 今度は誰の目にも明らかだった。


 魔物が完全に停止している。


「こはくだな」


「こはくだね」


 二人の声が重なった。


 コメント欄が爆発した。


『また止まった!?』


『偶然じゃねえ!』


『何した!?』


『麻痺?』


『麻痺ならあんな止まり方するか?』


『精神干渉じゃない?』


『威圧系とか』


『重力操作?』


『重力操作する数持ち冒険者いたな』


『あいつと同じか?』


『知らん』


『前足上げてみゃ~~って鳴いただけだぞ』


『字面がかわいすぎる』


 麻痺。


 精神干渉。


 重力操作。


 次々と仮説が飛び交う。


 当然、答えなど出るはずもない。


 二秒ほど経つと、魔物は再び動き始めた。


 すでに距離はかなり縮まっている。


 それでも友丸は退かない。


 アンも動かなかった。


「もう一回できるか?」


「みゃ」


言葉は通じてるはずだ。


 ただ、こはくは再び魔物を見つめた。


 そして三度目。


 小さな前足が上がる。


 友丸のカメラも、それに合わせて跳ね上がった。


「みゃ~~」


 こはくを捉え、即座に魔物へ戻す。


 だが。


「……あれ?」


 止まらない。


 魔物は速度を落とすことなく迫ってくる。


 頭上からも、不思議そうな声が聞こえてきた。


「みゃ?」


『止まらない!』


『三回目駄目だった』


『二回まで?』


『回数制限あるのか?』


『こはくも分かってないw』


『いや魔物!』


『もう目の前だぞ!』


 長い腕が振り上げられる。


 それでも友丸は避けなかった。


 レンズの先に魔物を収めたまま、わずかにカメラの角度を変える。


 巨腕が振り下ろされる――その直前。


 画面の端から、巨大な刃が滑り込んだ。


 一閃。


 魔物の巨体が傾ぐ。


 友丸のカメラは振り抜かれた刃を追い、そのままカメラを引いた。


 巨大な鎌。


 それを握る軍服姿のアン。


 刃を振り抜いた姿まで、最初からそう撮ると決めていたかのように画面の中央へ収まる。


「はい、終わり」


 アンが大鎌を軽く戻す。


 その背後で、魔物が地面へ崩れ落ちた。


『出た』


『アンの鎌』


『一撃かよ』


『いや待て』


『今のカメラ何!?』


『こはく→魔物→アンまで全部撮ったぞ』


『一回もブレてない』


『撮影の練習してるの?』


『そういやこいつ撮影者さんだった』


 友丸は倒れた魔物にはほとんど興味を示さず、再びカメラを頭上へ向けた。


 こはくはまだ、自分の前足を見ている。


「二回までなのか?」


「みゃ?」


「分からんか」


 聞いた友丸も、答えが返ってくるとは思っていない。


 こはくはしばらく前足を見つめたあと、何事もなかったようにそれを下ろした。


 そのまま猫マスクの上にちょこんと座る。


 一方、コメント欄では考察が止まらない。


『麻痺だと思う』


『精神干渉じゃね?』


『重力系に一票』


『二秒停止を二回って普通にヤバいぞ』


『相手が深層の魔物だからな』


『かわいいで誤魔化されてるけど何なんだこの子』


『そもそも猫じゃなくて魔物なんだよな?』


 友丸も少し考える。


 何をしたのかは分からない。


 二回までなのか、それとも別の条件があるのかも分からない。


 分からないことだらけだった。


 ただ、一つだけ確かなことがある。


 友丸はカメラの映像を確認した。


 前足を上げるこはく。


 鳴いた直後に停止する魔物。


 二回目も、しっかり映っている。


「よし。ちゃんと撮れてるな」


『そこかよ!』


『能力を調べろw』


『撮影目的は達成したな』


『満足そうで草』


 友丸は満足してカメラを戻した。


 何をしたのかは、そのうち分かればいい。


 今日の目的は、これで達成だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
句読点と行換が多くて凄く見にくいし内容が全体的に薄く見えます。 もう少し煮詰めてはいかがでしょうか?
 ふ、2秒あれば~?。  スカートの中を覗けるっ☆  うむ。  ただし、その後どうなるかは知らにゃい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。