表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/83

斥候は得意


「――撮影者さん!?」


背後から響いた声に、友丸は足を止めた。


振り返ると、スーツ姿の男女が数人、こちらへ駆けてくる。


先頭の男は息を切らしながら、友丸の猫の被り物――その上に乗っているこはくを見た。


「本当に……撮影者さんですよね?」


「たぶん」


「たぶん?」


「そう呼ばれてる」


何とも締まらない返事だったが、相手もそこを気にしている余裕はないらしい。


すぐに表情を引き締めた。


「配信、見ました。応援を呼びかけていただいてありがとうございます」


「勝手にやっただけだから気にしなくていい」


「いえ、助かります。すでにゲート側への問い合わせが急増しています。近隣にいる冒険者からも、こちらへ向かうという連絡が入り始めています」


思った以上に早い。


友丸は自分の配信の影響力に若干引きながらも、それ以上は触れなかった。


今は別に聞きたいことがある。


「それで、どれくらいいる?」


職員たちの表情が変わった。


「現在、斥候が確認できているだけで数万です」


「数万」


「主力は中層と浅層に生息する魔物です。複数の群れが合流しながら、浅層方向へ移動しています」


「深層の魔物は?」


「確認できていません」


即答だった。


友丸が猫の被り物をわずかに傾ける。


「いない?」


「いえ。いるかどうかも分かりません」


職員は首を振った。


「斥候が確認できたのは群れの前方から中ほどまでです。数が多すぎて後方へ回れません」


「なるほど」


つまり、見えている範囲では中層と浅層の魔物が主力。


だが最後尾に何がいるのかは不明。


深層の魔物が混ざっている可能性も残っている。


友丸は少し考えた。


「じゃあ、俺が見てくる」


「……はい?」


「後ろ」


一瞬、何を言われたのか理解できなかったらしい。


数人が揃って友丸を見る。


「群れの後方を、ですか?」


「うん」


「ですが、斥候でも回り込めていません」


「だから俺が行く」


「いや、しかし――」


「ついでに、人が集まるまで足止めできそうならやる」


職員が完全に黙った。


友丸は構わず、手にしているカメラを軽く上げる。


「配信はこのまま続ける」


「配信を?」


「俺が見たものが、そのままそっちでも見えるだろ」


コメント欄には今の会話もすべて流れている。


当然、政府側でも確認できる。


「後ろに何がいるかも映す。そっちは配信見ながら作戦立ててくれ」


職員たちは顔を見合わせた。


無茶ではある。


だが、理屈は通っていた。


斥候が確認できなかった群れの全体像。


後方にいる魔物。


進行速度。


種類。


それらがリアルタイムの映像で手に入る。


しかも目の前にいるのは、世界中で散々規格外の行動を見せてきた『撮影者さん』である。


止める言葉を探している間に、友丸はもう歩き出していた。


「じゃ、行ってくる」


「待ってください!」


呼び止められたので振り返る。


「危険だと判断した場合は、すぐに撤退してください」


「分かった」


友丸は今度こそ走り出した。


     ◇


一区を抜ける。


街道を駆け、浅層へ。


最初こそ人間らしい速度だった。


だが、周囲から人影が消えた途端――一気に上げた。


「こはく、落ちるなよ」


『みゃ!』


頭の上から元気な声が返ってくる。


片手にはカメラ。


走りながら撮影しているにもかかわらず、友丸自身は画面の中央からほとんど動かない。


代わりに、背景だけが凄まじい速度で流れていく。


森。


岩場。


街道。


木々。


何が映ったのか理解した頃には、もう次の景色へ変わっている。


《速っ》


《待って待って待って》


《何も見えん》


《森なのは分かる》


《それ以外分からん》


《今なんか追い抜いた?》


《カメラ全然ブレてないのが一番怖い》


《これ何キロ出てんだよ》


友丸はコメントを見ていない。


進行方向だけを見て、ひたすら走る。


途中、一区へ退避している冒険者たちと何度かすれ違った。


彼らが何かに気づいて振り返った頃には、友丸は遥か先へ消えている。


浅層の奥へ。


さらに中層方向へ。


やがて――。


友丸が速度を落とした。


「……いるな」


進行方向の空気が違う。


地面から、微かな振動が伝わってくる。


一体や二体では生まれない震動だった。


友丸は近くにあった巨木へ向かい、その幹を蹴る。


一歩。


二歩。


枝から枝へ。


瞬く間に木々の頂上近くまで駆け上がった。


最後に太い枝へ足を掛け、立ち止まる。


風が抜けた。


視界が、一気に開ける。


「……あれか」


友丸がカメラを前へ向けた。


配信を見ていた者たちのコメントが――一瞬だけ減った。


森の向こう。


遥か彼方に、黒い何かが広がっている。


最初は地面そのものが動いているように見えた。


だが違う。


一体。


十体。


百体。


千体。


その向こうにもいる。


さらに、その向こうにも。


魔物だった。


四足の獣。


巨大な昆虫。


爬虫類。


鳥型。


大小さまざまな魔物が、まるで巨大な濁流のように浅層方向へ進んでいる。


友丸はカメラをゆっくり横へ振った。


群れが続く。


まだ続く。


さらに振る。


終わらない。


反対側も同じだった。


横方向だけではない。


奥にも、遥か地平線近くまで黒い群れが続いている。


数万。


斥候から上がった報告が大袈裟ではなかったことを、映像だけで十分に理解できた。


《…………》


《え》


《これ全部?》


《嘘だろ》


《地平線までいるぞ》


《数万ってこういうことかよ》


《北海道支部これ見てる!?》


《やばいって》


世界中が画面の向こうで騒いでいる。


その中心で、友丸だけが普段と変わらなかった。


しばらく群れを眺める。


「まあまあ居るな」


《まあまあ!?》


《まあまあじゃねえよ!》


《どこがまあまあだ!》


《感覚どうなってんだ》


《数万だぞ!》


《こいつ本当に数聞いてた?》


友丸は気にせず、カメラをさらに奥へ向けた。


前方は確認できた。


中央付近も、ここからならある程度見える。


だが――。


「やっぱ後ろは見えないな」


最後尾は遥か彼方。


ここからでは、何がいるのか判別できない。


深層の魔物が混ざっているのか。


それとも別の何かが、この大群を動かしているのか。


「取りあえず、後ろ行くか」


あまりにも軽い口調だった。


《行くの!?》


《今からあれの後ろに!?》


《迂回するだけで何キロあるんだ》


《一人で行く気かよ》


《待て装備は?》


そのコメントが目に入ったのか。


友丸が「ああ」と声を漏らした。


「そういえば、今日はこれしか持ってない」


腰へ手を伸ばす。


何かとんでもない武器が出てくる。


配信を見ていた多くの者が、そう思った。


紫色の巨大な刀か。


あるいは、まだ公開していない遺跡産の武器か。


友丸が鞘から抜いたものを、カメラの前へ持ってくる。


映ったのは――。


一本の短刀だった。


「これでいいか」


《…………》


《え?》


《それ?》


《一本?》


《数万だぞ?》


《撮影者さん?》


《待って》


《それで行くの?》


友丸は短刀を鞘へ戻した。


そして、遥か地平線まで続く魔物の群れへ目を向ける。


「じゃ、行ってくる」


『みゃ』


頭の上から返事がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ