顔合わせしても思い出せない
翌日。
友丸が東京ゲート複合施設の会議室へ顔を出したのは、集合時間の二分前だった。
壁の時計を確認する。
「……間に合ったな」
櫻子には遅刻するなと念を押されている。
二分前なら文句はないだろう。
扉を閉め、改めて室内を見渡す。
思っていたより人が多い。
政府の担当職員が数名。その近くには、今回護衛を担当する冒険者たち。
反対側には事務所関係者と、護衛らしい者たち。そして、その中央に若い男女が固まって座っていた。
友丸は一人、二人と数えていく。
「……八人いるな」
「八人組ですからね」
すぐ近くにいた政府職員から冷静に返された。
「全員来るのか」
「その八人を護衛する仕事です」
「そうだったな」
昨日、櫻子から資料は送られてきた。
グループ名も、八人分の名前も顔写真も載っていたはずだ。
一応、見た。
見たのだが――。
友丸は八人を眺める。
誰が誰なのか、まったく分からない。
「坂田さん、こちらです」
「はいよ」
呼ばれるまま奥へ向かう。
その途中、八人の視線が自然と友丸へ集まった。
無理もない。
適当なシャツに動きやすいズボン。
伸びた髪は今日もボサボサで、腰に差している武器も小太刀一本だけ。
どう見ても、政府が用意した要人警護の専門家には見えない。
八人の中にいた若い男が、隣の女性へ顔を寄せた。
「政府の護衛って聞いてたから、Sランクとか来るのかと思ってた」
「ちょっと。聞こえるって」
小声で窘められる。
友丸にも聞こえていたが、別に腹は立たない。
実際、そう思うのも無理はなかった。
彼ら八人も全員がCランク冒険者だ。
自分たちと同程度の冒険者が護衛として追加されるとは、普通なら思わないだろう。
事務所側が雇った護衛たちも似たような反応だった。
露骨に顔へ出す者はいないが、友丸の服装、腰の小太刀へと視線が動いている。
「坂田さん。カードの確認だけお願いします」
「ああ」
友丸は首から下げていた冒険者カードを外し、政府職員へ渡した。
端末へ通される。
表示されたランクは――C。
ちょうど見える位置にいたアイドルの一人が、目を瞬かせた。
隣のメンバーも表示に気づく。
視線だけで何かを交わしていた。
やっぱりCランク。
自分たちと同じである。
事務所側の護衛からも、僅かに訝しむような視線が向けられた。
政府が異界内の不測の事態に備えて派遣してきた冒険者。
それがCランク。
しかも小太刀一本。
何のために呼ばれた人間なのか。
そんな疑問が室内に広がりかけた、その時だった。
「……坂田さん?」
奥から声が飛んできた。
友丸がそちらを見る。
政府側の護衛として参加していた四十代ほどの男が、驚いた顔で立ち上がっていた。
使い込まれた防具。
胸元にはAランクの冒険者カード。
見覚えがある。
「ああ、北田か。久しぶり」
「やっぱり坂田さんか」
北田が笑いながら近づいてきた。
「何年ぶりです?」
「三年くらい?」
「五年近いですよ」
「そんな経つか」
「経ちますって」
友丸は言われても、いまいち実感がなかった。
だが、周囲の反応は違う。
八人のアイドルたちが二人を見比べていた。
事務所側の護衛も、さりげなく会話へ耳を傾けている。
政府から選ばれたAランクのベテランが、明らかに友丸を知っている。
しかも、かなり以前から。
北田は友丸の首元へ目をやり、懐かしそうに苦笑した。
「坂田さん、まだCランクなんですか?」
「ああ」
「上げないんです?」
「面倒くさい」
即答だった。
北田が吹き出す。
「相変わらずですね」
「困ってないからな」
それだけで話を終わらせる友丸に対し、北田もそれ以上は何も言わなかった。
むしろ納得している。
そのことの方が、周囲には妙だった。
ランクを上げない。
その理由が、実力ではなく面倒だから。
Aランクの北田も、それを冗談として聞き流していない。
先ほど「Sランクが来ると思った」と話していた青年も、いつの間にか友丸をじっと見ていた。
そんな視線には気づかず、友丸は空いている席を探す。
「俺、どこ座ればいい?」
「ああ、坂田さん」
北田が思い出したように声をかけた。
「今回、坂田さんも最後まで同行するんですよね?」
「その予定らしい」
「そうですか」
北田は小さく息を吐いた。
どこか肩の力が抜けたようにも見えた。
そして何でもないことのように言う。
「坂田さんが来るなら安心です」
一瞬。
会議室が静かになった。
友丸が北田を見る。
「何が?」
「護衛ですよ」
「お前らいるだろ」
「それでもですよ」
北田は笑っていた。
冗談を言っている顔ではない。
そのやり取りを、八人が揃って見ている。
事務所側の護衛たちからも、先ほどとは違う種類の視線が向けられていた。
Cランク。
ボサボサ頭。
小太刀一本。
どう見ても頼りになる護衛には見えない。
なのに、政府から選ばれたAランク冒険者が、この男が来たことで安心している。
友丸はそんな周囲の空気など気にもせず、ようやく空いている椅子を見つけた。
「まあ、何も起きないのが一番だけどな」
そう言って腰を下ろす。
それから、向かいに並ぶ八人をもう一度眺めた。
昨日、資料には目を通した。
顔写真も見た。
名前も見た。
それでもやはり――。
誰が誰なのか、一人も分からなかった。




