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その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


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50/83

撮影者さん配信コラボを断られる


近藤はしばらく何も言わなかった。


友丸の髪の隙間から、小さな生き物が顔を出している。


「……何それ?」


「それを聞きに来た」


「ちょっと待って」


近藤が立ち上がった。


「え?」


「かわいい」


一瞬で距離を詰める。


髪の中から小さな身体を両手で抱き上げ、そのまま撫で始めた。


「かわいい。何これ、すごいかわいい」


「知らないって」


「どこで見つけたの?」


「この前の洞窟」


「魔物?」


「たぶん」


「こんなかわいい魔物いる?」


近藤は聞いているようで、もう友丸を見ていなかった。


顎の下を撫でる。


頭を撫でる。


背中も撫でる。


小さな生き物は嫌がるどころか、気持ちよさそうに目を細め――ころん、と仰向けになった。


小さな腹を惜しげもなく晒す。


「……かわいい」


「確かに」


そこは友丸も否定しなかった。


近藤が腹を撫でる。


謎の生き物は完全にされるがままだった。


「連れて帰っていい?」


「ダメ」


「即答……」


「なんか俺の頭から離れないし」


「じゃあ仕方ないか……」


心底残念そうに呟きながら、それでも近藤はしばらく撫で続けた。


ようやく満足したのか、小さな身体を友丸へ返す。


謎の生き物はふわりと浮かび、当然のように友丸の頭へ戻った。


そのまま髪の中へ潜っていく。


近藤が羨ましそうに見送った。


「で、これを配信で聞きたいの?」


「うん。何なのか知ってる人いるかなって」


「いるかもしれないけど……」


近藤は少し考えてから、首を振った。


「もう自分で配信した方がいいんじゃない?」


「俺が?」


「うん」


「近藤のところでやればいいじゃん」


「嫌」


「なんで」


「大変だから」


近藤は即答した。


「撮影者さんが出ただけで、DMがえげつないくらい来るの。コラボしてくださいとか、紹介してくださいとか、海外からもいっぱい」


「そんなに?」


「そんなに。絢香ちゃんなんて私よりずっと凄いはずだよ」


世界中に名前が知られている絢香なら、届く量も桁違いだろう。


友丸は少し考えた。


今後も何か聞きたいことが出るたび、誰かに機材を借りるのも面倒だ。


「じゃあ配信機材買うか」


「それがいいと思う」


「ローンで」


近藤が何とも言えない顔になった。


「……数億人に見られてる人が、配信機材をローンで買うの?」


「金ないから」


「知ってるけど」


近藤は苦笑すると、店の奥へ向かった。


しばらくして、大きめのケースを抱えて戻ってくる。


「これあげる」


「何?」


「私のお古」


ケースを開く。


中には小型カメラをはじめ、友丸には用途の分からない機材がいくつも収まっていた。


「古いの?」


「私にとってはね。性能は今でもかなりいいよ」


「売ったら高い?」


「売ったら怒るよ」


「冗談」


「今、一瞬本気だったよね?」


近藤はため息を吐いた。


それから機材を一つずつ取り出し、簡単な使い方を教えていく。


友丸は途中から露骨に面倒そうな顔をしていたが、近藤は無視した。


「あと、これだけはちゃんと聞いて」


「何?」


「身バレ対策」


友丸も少しだけ真面目になる。


「家から配信しない。窓の外を映さない。近所の音にも気をつける。特徴のある建物とか、店とか、そういうのもなるべく映さない」


「そんなので分かる?」


「分かる人は分かる」


近藤の声には妙な説得力があった。


「撮影者さんの場合、見る人数が普通じゃないから。数億人いたら、その中には本気で探す人も絶対いる」


「怖いね」


「他人事みたいに言わないで」


さらに近藤は友丸の頭を指差した。


「あと髪」


「髪?」


「お面つけても、後ろは隠れないでしょ」


友丸は自分の髪を摘まむ。


「こんなの目立つ?」


「一人なら目立たない」


近藤は即答した。


「でも数億人が見る」


「……ああ」


「長さとか癖とか色とか。後ろ姿だけでも、何度も映れば特徴になるから。特定する人たちはそういうの全部見るよ」


友丸は少し考えた。


今までは顔さえ隠せばいいと思っていた。


だが、規模が違う。


一人や二人に見られるのではない。


世界中から見られる。


「じゃあどうする?」


「隠せばいいよ。フードでもいいし、後ろまで覆えるものでもいい」


「なるほど」


「服も毎回普段着はやめた方がいい」


「面倒だね、配信」


「だから言ってる」


近藤が呆れたように笑った。


友丸は貰った機材を見る。


その頭の上では、話に飽きた謎の生き物が再び髪の中へ潜り込み始めていた。


「とりあえず、これで配信できる?」


「できるよ」


「じゃあ今日やるか」


「待って」


近藤の声が低くなった。


友丸が顔を上げる。


「何?」


「今の話、もう一回最初から聞いて」


「……面倒なんだけど」


「その性格で数億人相手に配信しようとしてる方が怖いんだよ」


それを言われると、友丸も反論できなかった。

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― 新着の感想 ―
過去の動画に髪の毛映ってるのに、それは誰も関心無かった扱い。
絶望的に客商売向いてないんだよなぁ
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