表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/74

無事帰宅


二泊三日のキャンプも、今日で終わりだった。


昼前にはテントを畳み、調理器具や配信用の機材も片づけ終える。三日間使った川辺は、荷物をまとめてしまえば元の静かな森へ戻っていた。


ユリアは最後に川の方を振り返った。


「楽しかったわ」


「私も。また来ようね」


「いいわね。今度はもう少し長くてもいいわ」


「私はお店があるから難しいかな」


「じゃあ今度は絢香が来なさいよ。私の国に」


絢香が少し驚き、それから笑った。


「行ってみたい」


「決まりね。案内してあげる」


「休み取らないと」


二人の間では、もう行くことになったらしい。


当然、ユリアは友丸にも話を振った。


「友丸も来る?」


「遠いから嫌だ」


「飛行機で寝てれば着くわよ」


「家で寝てる方がいい」


「本当につまらない男ね」


友丸は相手にせず荷物を背負った。


絢香が横から笑う。


「でも私のお店には来るでしょ?」


「行くぞ。今月無料だからな」


返事だけは早かった。


ユリアが呆れた顔を向ける。


「私の国には来ないのに?」


「絢香の店は近い」


「そこじゃないでしょ」


三日間のキャンプは、最後までいつも通りだった。


     ◇


一区へ戻る途中で、絢香とは別れることになった。


店へ戻らなければならない。


「じゃあ、私はこっちから行くね」


「もう行くの?」


「お店あるからね」


ユリアは少し名残惜しそうにしたものの、すぐに絢香を抱きしめた。


「今度、本当に来なさいよ」


「うん。約束」


「友丸もね」


「気が向いたらな」


「それ絶対来ないやつじゃない」


絢香が笑いながら手を振る。


「またね」


「ええ。また」


「おう。店には行くからな」


「はいはい」


最後までそこだけは念を押し、三人は別れた。


残った友丸とユリアは一区へ向かう。


だが、人の姿が増え始めたところで友丸は足を止めた。


昨夜から今朝にかけて、ユリアの姿は世界中へ流れている。


顔や金髪を隠すだけなら簡単だが、長身で目立つ体型まで誤魔化すとなると話は別だった。


「お前、ここで待ってろ」


「どうするの?」


「なんか借りてくる」


友丸だけが一区へ入った。


     ◇


十分ほどで戻ってきた。


両腕には、大きな全身甲冑を抱えている。


東京異界には外国人冒険者も多い。そのため一区のレンタルショップには、日本人向けより一回り大きな防具も普通に置かれていた。


「……それ、私が着るの?」


「他に誰がいるんだよ」


ユリアはしばらく甲冑を見つめた。


友丸は嫌がると思っていた。


ところが、兜を受け取ったユリアの反応は違った。


「結構格好いいわね」


「気に入るのかよ」


「剣は?」


「変装だぞ」


「甲冑なのに?」


「剣士になりたいわけじゃねえだろ」


少なくとも嫌がる心配はなさそうだった。


金髪を頭巾の中へ収め、大柄な外国人向けの甲冑を身につければ、ユリアの体型は完全に隠れた。


最後に兜を被る。


友丸は一歩離れて確認した。


「これなら分からんな」


「どう?」


「大柄な男にしか見えん」


兜の奥から返事がなくなった。


「……褒めてんだぞ?」


「分かってるけど腹が立つわ」


声を出せば女だと分かる。


そこだけ気をつければ問題なさそうだった。


     ◇


二人はそのまま一区へ入った。


結果は、拍子抜けするほど簡単だった。


誰もユリアに気づかない。


もともと東京異界には海外冒険者が多く、最近では撮影者さんの影響で甲冑姿の冒険者まで増えている。大柄な甲冑が一人歩いていたところで、珍しくもなかった。


むしろ歩いている間、何度も本人の噂を耳にした。


「ユリア、まだ深層かな」


「今日出てくるんじゃないか?」


「撮影者さんも一緒らしいぞ」


そんな話をしながら、当の二人とすれ違っていく。


兜の奥から笑い声が漏れた。


「これ、面白いわね」


「喋るな。バレるぞ」


ユリアは素直に黙った。


どうやら変装そのものを楽しみ始めているらしい。


出口の自動改札でも問題は起きなかった。


ユリアが冒険者カードをかざす。


《Cランク冒険者》


表示を見た友丸は、思わず笑いそうになった。


世界ランキング十位。


昨日は数億人の前でドラゴンを素手で圧倒した冒険者が、今は借り物の甲冑を着てCランクとして改札を抜けている。


「何?」


「いや。別に」


「今、笑ったでしょ」


「早く行け」


そのまま東京ゲートを出た。


外にはユリアを待っているらしい報道陣や配信者もいたが、全身甲冑へ目を向ける者はいない。


友丸も同じだった。


スーツもお面もない、いつものくたびれた格好である。


世界中が探している二人は、誰にも気づかれないまま人混みを抜けた。


     ◇


アパートへ戻ったのは、それから一時間ほど後だった。


古びた建物の前で友丸が足を止める。


「着いたぞ」


「やっと脱げるわね」


さすがのユリアも、ずっと甲冑を着ているのは疲れたらしい。


階段を上がるたび、背後からガシャガシャと金属音が響く。


友丸は部屋の鍵を開けた。


「それ、あとで返しに行くから脱いどけよ」


「返すの?」


「レンタルだからな」


ユリアが兜を脱ぐ。


閉じ込められていた長い金髪が一気にこぼれ落ちた。


「ちょっと欲しいんだけど」


「自分で買え」


「買おうかしら」


「気に入ってんじゃねえか」


ユリアは甲冑を眺めながら、本気で悩み始めていた。


友丸はそれを放って荷物を部屋へ運び込む。


二泊三日のキャンプは終わった。


そして明日は、絢香の店へ行く。


今月は無料なのだから、行かない理由はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ