お面つけるとやっぱりバレない
夕方。
友丸はユリアを連れ、アパートを出ることにした。
「そろそろ絢香の仕事も終わる頃だ。一区に行くぞ」
「いいわね。久しぶりに会いたい」
立ち上がったユリアを見て、友丸はふと思い出す。
「その前に、これ着けろ」
「何?」
部屋の隅に置いてあった紙袋から取り出したのは、女の子向けアニメキャラクターのお面だった。
ピンク色の髪に大きなリボン。星を散りばめたような瞳で笑っている。
ユリアの目が輝いた。
「可愛い! これ、ミラクルリリィじゃない!」
「知ってるのか」
「ヨーロッパでも人気よ」
近藤から以前もらった物だと話すと、ユリアは迷うことなく装着した。
長い金髪に、女児向けアニメのお面。
鏡を見た本人はかなり満足そうだった。
「どう?」
「これならバレないだろ」
「そうじゃなくて。可愛い?」
「行くぞ」
「写真くらい撮ってよ」
結局、一枚だけ撮らされた。
しかも変身ポーズつきだった。
電車を乗り継ぎ、東京ゲートへ着いた頃には、日もだいぶ傾いていた。
巨大な複合施設は、この時間になっても人が多い。
これから異界へ向かう者だけではない。探索を終えて戻ってきた冒険者たちが、素材の入ったバッグや武器を抱えて行き交っている。
海外から来た冒険者の姿も珍しくなかった。
「ねえ、友丸」
ユリアが前を指差した。
甲冑姿の外国人が歩いている。
腰には刀。
その後ろにも似た格好の二人組が続き、片方は鬼のお面までつけていた。
「増えた?」
「増えたな」
「あなたのせい?」
「そうか?」
「絶対そうでしょ」
先日の配信以降、こういう格好をした冒険者は明らかに増えていた。
甲冑に刀。
さらに、お面。
日本人だけでなく外国人にもいる。
ユリアは自分の顔を指差した。
「じゃあ私、全然目立たないじゃない」
「よかったな」
「近藤、天才ね」
実際、効果は抜群だった。
長身に金髪というだけなら、外国人冒険者の多い東京ゲートではそこまで珍しくない。お面まで今では似たような者がちらほらいる。
本人だと気づく者はいなかった。
二人はそのまま冒険者用ゲートへ向かう。
ユリアが日本国内用の冒険者カードを取り出した。
「これ、かざすだけよね?」
「そう」
「久しぶりだから忘れたわ」
カードを読み取り部へかざす。
電子音とともにゲートが開き、上部へランクが表示された。
――Cランク。
ユリアが止まった。
一歩戻って表示を見上げる。
「C?」
「Cだな」
「ふふっ」
お面の奥から笑い声が漏れた。
「櫻子、最高やるわね」
「気に入ったのかよ」
「面白いじゃない。Cランクなんて何年ぶりかしら」
続いて友丸もカードをかざす。
こちらも当然、Cランク。
それを見たユリアが嬉しそうに肩を叩いてくる。
「一緒じゃない」
「そうだな」
「今日はCランク同士、仲良くしましょう」
二人揃ってゲートを抜けた。
東京異界、一区。
夕暮れ時の街は、一日の探索を終えた冒険者たちで賑わっていた。
買い取り所には素材を持ち込む者が列を作り、武器屋の前では修理に出す武器を抱えた冒険者が順番を待っている。食堂からは夕食の匂いが流れ、あちこちで今日の成果を話す声が聞こえてきた。
日本人だけではない。
海外の冒険者も多く、様々な言葉が飛び交っている。
ユリアは大通りの真ん中で足を止めた。
「……懐かしい」
先ほどまでとは少し違う声だった。
「そんな久しぶりか?」
「東京異界には来てるわよ。でも、こうやって普通に歩くのは久しぶり」
仕事で来れば迎えがつく。
移動先も時間も決められ、外を歩き回ることなどほとんどないらしい。
今日は違う。
誰もユリアに声をかけない。
本人もそれが楽しいのか、店先を覗きながら歩いている。
「ずいぶん変わったわね。店も増えてる」
「数年もありゃ変わるだろ」
「絢香のお店は?」
「まだ先」
「繁盛してるの?」
「してる。最近は特にな」
「へえ」
何か面白いことを聞いたような声だった。
友丸は嫌な予感がした。
「本人に余計なこと言うなよ」
「まだ何も言ってないでしょ」
「顔見りゃ分かる」
「お面してるのに?」
「そうだったな」
ユリアが笑う。
二人は夕方の人混みを抜け、絢香の定食屋へ向かった。
ちょうど店じまいを始める頃だった。




