↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その日暮らしのおじさんの冒険  作者: よろず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
158/163

英雄達の深層散歩


 翌朝、櫻子から入域と配信の許可が下りたと連絡があった。


 友丸たちは黒田家で合流し、東京異界へ向かった。こはくはいつもの小さな姿で、友丸の鞄に入っている。


 ゲートのある複合施設は、朝から人の出入りが絶えなかった。武器や荷物を担いだ冒険者たちに交じり、一行も受付へ向かう。


 友丸は鞄のほかに、布で包まれた長い武器を背負っていた。


 全長は三メートルほど。今朝、耀から預かった遺物だ。斬馬刀を思わせる幅広い刀身も、長い柄も白一色だった。


 今は刀身を厚い布で包み、その上から三本の黒い帯で縛ってある。布の合わせ目と帯の留め具には、細かな文字の書かれた札が貼られていた。外に出ているのは、白い柄だけだ。


 すれ違う冒険者が何人も振り返る。友丸は人の流れから少し離れ、包みの先端が周囲に当たらないように歩いた。


「爺さん。今日は、これを使うのか?」


「さてな。久しぶりに持ち出したんだ。ひとまず、お前が持っていてくれ」


 耀はそう答えると、隣を歩くジョージとの話へ戻った。


 アントニオが友丸の背中へ目をやる。


「懐かしいものを持ってきたな」


「ええ。今朝、爺さんに頼まれて」


「そいつまで一緒なら、昔を思い出すな」


 アントニオは笑い、耀たちの後を追った。


 受付では、それぞれ冒険者カードや身分証を提示した。引退している耀たちの入域許可を含め、申請の内容を確認してもらい、手続きは滞りなく済んだ。


 ゲートの前まで来たところで、友丸は長い包みを背中から下ろした。柄を握り、先端の向きを確かめながら肩に担ぎ直す。


 ジョージが友丸の鞄へ目をやった。


「ここから撮るのかい?」


「配信は、深層に着いてからにします」


「そうか。楽しみにしてるよ」


 ジョージは耀と並び、ゲートへ目を向けた。


「久しぶりだな」


「おう。行くか」


 香菜とはなが先にゲートをくぐる。耀とジョージが続き、十蔵たちもその後へ向かった。


「こはく、行くぞ」


「みゃ」


 鞄の中から返事があった。


 友丸も、布と札で封じられた白い遺物を担いだまま、ゲートをくぐった。



     ◇


一行は香菜の案内で浅層と中層を走って進み、途中で一泊して翌日に深層へ到着した。


 深層へ入ると、道の脇に大きな岩が目立ち始めた。足元にも小石が散らばり、香菜は時折、後ろを確かめながら歩いている。


 深層の道は、奥へ進むほど細かく枝分かれしていた。一行が進んでいるのも、政府の調査がまだ十分に及んでいない道の一つだ。


「こはく、こっちへおいで」


 はなに呼ばれ、こはくが友丸の頭から飛び立った。差し出された腕へ降りると、胸元へ頬を寄せる。


「みゃ」


「今日は、みんなと一緒で嬉しいね」


 はなが背中を撫でると、こはくの尻尾がゆっくり揺れた。


 道が広くなったところで、香菜が足を止める。


「ここで、ひと息入れましょうか」


「ああ。じゃあ、俺も撮影の準備を始めるよ」


 友丸は鞄からカメラを取り出し、端末で配信の準備をした。


 耀たちが道の脇へ集まる間に、カメラを前方へ向ける。大小の岩と、その間を奥へ続く道が画面に映った。


 予告は出していない。配信を始めると、通知を見た視聴者が集まり始めた。


「今日は東京異界の深層に来てる」


 《急に始まった!?》


 《予告あったっけ?》


 《通知来たから飛んできた》


 《こはくちゃんの話?》


 《人になった理由、今日こそ聞ける?》


 《あの分身の説明も頼む》


 《待って、深層って言った?》


 《今日も最初は岩を見るのかw》


 友丸はカメラを一行へ向けた。


「今日は、こちらの人たちに配信を頼まれたんで。その様子を撮っていく」


 画面に入ったのは、道の脇に集まった年配の男女だった。


 はなの腕の中から、こはくが顔を出す。カメラを見つけると、前脚を上げた。


「みゃ」


 《こはくちゃん!》


 《元の姿に戻ってる!》


 《普通に戻れるのかよ!?》


 《その姿だと、また「みゃ」なの?》


 《そのお婆ちゃん、誰?》


 《こはくちゃん、すごいなついてる》


 《聞きたいことがまた増えたんだが》


 はなはこはくを抱いたまま、カメラへ笑いかけた。こはくも腕の中で身を起こし、もう一度、前脚を振る。


 その隣へカメラを向けた途端、コメントに別の名前が混じり始めた。


 《GEORGE!?》


 《今映ったの、ジョージ?》


 《いや、待て。本当に?》


 友丸が声をかけると、ジョージは軽く手を上げた。


「ジョージだ。今日は久しぶりに、昔の仲間と異界を歩かせてもらうよ」


 《本人だああああ!?》


 《元世界一位のジョージだぞ!》


 《何で撮影者さんの配信にいるんだ!?》


 《ちょっと父さん呼んでくる!》


 友丸は、隣に立つアルフも映した。


「アルフだ。今日はよろしく頼むよ」


 《アルフまでいる!》


 《元世界二位じゃないか!》


 《この二人が一緒に日本に来てるの!?》


「アントニオだ。俺も一緒に歩かせてもらうぞ」


 アントニオもカメラへ手を振る。


 その横では、マルリアが微笑んでいた。


「マルリアです。よろしくね」


 《アントニオ!?》


 《元世界六位まで来た!》


 《マルリアもいるじゃないか!》


 《うちの国の英雄が、日本の配信に普通に出てるんだけど!》


 《今日は何の集まりなんだ!?》


 ジョージが名乗った映像と配信のリンクが、SNSへ投稿されていく。そこからやって来た視聴者がほかの同行者にも気づき、さらにリンクを広めていた。


 コメントの流れが速くなり、いくつもの言語で彼らの名前が書き込まれ始める。


 《ジョージは知ってたけど、ほかの人もそんなにすごいのか》


 《この人たち、昔の世界ランキングの上位だぞ》


 《全員、撮影者さんの知り合いなの?》


 《何でこんな顔ぶれになったんだよ》


 友丸が端末を確かめていると、耀が声をかけた。


「もう歩いていいのか?」


「ああ。撮ってるから、そのまま進んでくれ」


「おう。では、行くか」


 香菜が先頭に戻り、一行も歩き始めた。


 耀は隣のジョージへ顔を向ける。


「どうだ」


「来てよかったね。こうして皆で歩くのも、久しぶりだ」


「お前、カメラが回り始めてから、妙に姿勢がいいな」


 アントニオが口を挟む。ジョージは笑って答えた。


「せっかく撮ってもらってるんだから、格好くらいはつけたいだろう」


「いつも、そのくらいしゃんとしてろよ」


 耀も笑いながら、足元の石を避けて進む。


 友丸は一行の少し後ろを歩き、会話を拾いながら撮影した。ジョージもアルフも、一昨日の食卓と同じ調子で笑っている。


 《ジョージ、こんな顔で笑うんだな》


 《この人たち、普通に友達なんだ》


 《さっきからジョージと話してる爺さん、誰?》


 《狐面のお姉さんが先頭にいる》


 《瀬戸内海の案内動画に出てた人だよな》


 《撮影者さん、今日は本当に撮る係なんだな》


 友丸は耀へ声をかけた。


「爺さんも、ひと言頼む」


「わしもか?」


「ああ。名前だけでも」


 耀が歩調を緩め、カメラへ顔を向ける。


「黒田だ。今日はよろしくな」


 《撮影者さんが爺さんって呼んでる人か》


 《黒田?》


 《初めて聞いた名前だ》


 《黒田って……誰?》


 《どの黒田? 分かるなら教えてくれ》


 友丸がはなへカメラを向けると、はなも歩きながら挨拶した。


「はなです。ほら、こはくもご挨拶」


「みゃー」


 こはくが前脚を上げる。


 《こはくちゃん、また手を振ってるw》


 《おばあさんに抱っこされてるの、かわいい》


 《そのまま寝そうなくらい、くつろいでるな》


 はながこはくの前脚をそっと下ろす。続いて友丸は、十蔵へカメラを向けた。


「十蔵さんも、お願いします」


「十蔵だ。今日は、こいつらに誘われてついてきた」


 十蔵が片手を上げると、彼を知る視聴者たちが反応した。


 《あれ、十蔵さんじゃないか。瀬戸内海の》


 《瀬戸内海で働いてるんだけど、何で東京にいるの!?》


 《十蔵さんまで、この人たちと知り合いなのか》


 挨拶を終えた十蔵が、アントニオたちの会話に加わる。マルリアは、はなに抱かれたこはくへ手を伸ばしていた。


 《ジョージたちと話してる黒田って人、何者?》


 《はなさんも、昔の仲間なのか?》


 《誰か詳しい人いない?》


 そこへ、一つの書き込みが流れてきた。


 《うちの爺さん、日本の元Sランクでそこそこ有名なんだけど、黒田さんとはなさんのことを聞いたら「お前、黒田を知らんのか」って言われた》


 《誰?》


 《その爺さんに、詳しく聞いてくれ》


 《元Sランクの人には分かるのか》


 しばらくして、同じ視聴者から続きが書き込まれた。


 《さっき爺さんに聞いた者だけど、今、興奮して昔の仲間に電話してる。あんな爺さん、初めて見た》


 《説明する前に電話しに行ったのかw》


 《電話終わったら、続き頼む》


 《こっちも黒田を知らないから聞いてるんだけど!》


 耀はジョージと話しながら、香菜の後を歩いていた。


 道が二つに分かれたところで、香菜が足を止める。


 右の道は、大きな岩の向こうへ続いていた。香菜はそちらを見つめ、一行へ声をかける。


「この先に魔物がいます」


「そうか。では、頼むぞ」


 耀が答えると、はなが腕の中のこはくを抱き直した。ジョージたちも足を止め、香菜の見ている先へ目を向ける。


 《深層の魔物だよな?》


 《みんな落ち着きすぎだろ》


 《撮影者さんまで普通にカメラ向けてる》


 友丸はカメラを右の道へ向けた。


 香菜は一行から離れ、岩の向こうへ続く道を進んでいく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
昭和の伝説の十人ライダー状態だなw
令和のウルトラマンの番組に初期のウルトラマンが出てくるような感じかw おっさん大感激なやつw ライダーでも可w
これは「アルティメット老人会」だなw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。