いい時代になったもんだ
食後の茶が運ばれてきた頃、十蔵が友丸へ顔を向けた。
「そういえば、最近の小規模なモンスターパレードの話、聞いてるか」
「ええ、塁から。あの件は、俺も気になってました」
友丸は湯呑みを受け取り、卓上へ置いた。さっきまで耀の昔話に口を挟んでいたアントニオも、今は黙って十蔵を見ている。
「規模が小さくても、群れが動いてることには変わりないからな。今後も同じ程度で済むかどうかは分からん」
「何か起きる前触れかもしれない、ということか」
アルフが尋ねると、十蔵は少し考えてから答えた。
「そう決めつけるつもりはないが、注意しておきたいとは思ってる」
ジョージは肘を卓から下ろし、隣のこはくへ目を向けた。
こはくは人の姿で、はなの話に耳を傾けている。長い尻尾の先が動き、はなの膝に触れるたび、そっと撫でてもらっていた。
「こはくのことも、今までの異界の話だけでは説明できないね」
ジョージの声に、こはくが顔を上げる。
「こはく?」
「ああ。君のことだよ」
耀もそちらへ目をやった。
「異界から出てきた卵が孵って、こはくが現れた。それが今では、人の姿でこうして話をしとる。わしらが長く異界へ入っていた頃にも、こんなことはなかった」
「私たちが見つけられなかっただけかもしれないわ」
マルリアが言うと、耀は頷いた。
「そうかもしれん。ただ、近頃の出来事を聞いているとな。これから、わしらの知らんことがもっと起きるんじゃないかという気がする」
友丸はこはくを見た。目が合うと、こはくはいつものように笑ってくる。
あの卵を魔物が落としたときには、いつか人の姿になって話す日が来るなど、考えてかった。異界には、まだ何が残っていてもおかしくないと思えた。
「モンスターパレードと関係があるかは、まだ分からないけどな」
「もちろんだ。今ある話だけで、答えを出せるとは思っとらん」
耀が茶をひと口飲み、皆へ顔を向けた。
「それで、どうだ。久しぶりに、皆で異界へ入ってみんか」
「東京へか?」
ジョージが聞き返す。
「ああ。今の様子を、自分の目で見ておきたい」
「いいね。俺も行きたいと思っていたんだ」
返事は早かった。マルリアもはなへ顔を向ける。
「あなたも行くでしょう?」
「ええ。みんなが行くならね」
はなは友丸にも声をかけた。
「あんた、明日は空いてるかい?」
「ああ。こはくと一緒に行くよ」
十蔵も時間は取ってあるという。アルフとアントニオにも異存はなく、耀は皆の予定を確かめてから、友丸へ身を向けた。
「それと、撮影を頼めるか」
「配信するのか?」
「一度、やってみたかったんだ。お前のを見ていてな」
「その話は、俺からも頼みたい」
ジョージが続いた。
「画面で見ていると、こちらまで一緒に歩いている気になる。今度は、撮ってもらう方で参加してみたい」
耀が頷いた。
「昔は、異界へ入らん連中が中の様子を知ろうにも、公表された資料を読むくらいしかなかった。撮って持ち帰った映像は、ほとんど各国の政府が握っとったからな」
「今以上に、異界の資源を確保することが、国にとって重要だった頃だった」
アントニオが口を挟んだ。
「何が、どこで採れるか。映像には、そういう情報まで映る。当時は各国とも、簡単には外へ出したがらなかった」
ジョージが友丸へ笑いかけた。
「今は、家にいながら、異界で新しいものが見つかる瞬間を見られる。君たちと一緒に驚けるんだから、いい時代になったよ」
友丸は二人を見比べた。ジョージまで、返事を待つように身を乗り出している。
「いいよ。じゃあ、俺は撮影だな」
「うむ。頼むぞ」
こはくが友丸の袖を引いた。
「こはくも一緒?」
「ああ。いつものように、俺と回ろう」
「うん!」
はなが、空いた皿を下げに来た香菜へ声をかける。
「香菜。明日はみんなの護衛を頼めるかい」
「はい。承知いたしました」
香菜は皿を盆へ載せてから、友丸へ向き直った。
「友丸さんは、撮影に専念なさってください」
「分かった。そっちは頼む」
耀が懐から端末を取り出した。
「では、先に申請だな。櫻子に連絡しておく」
通話がつながると、耀は東京異界へ行くことと、元冒険者の仲間たちの入域申請を頼みたいことを伝えた。
『ジョージさんたちも一緒なの?』
「皆で行く。明日を考えとるんだが」
『分かった。同行する人の名前と予定を送って。確認して連絡するわ』
耀は通話を終え、出発時刻を皆と相談した。香菜が参加者の名前をまとめ、決まった予定とともに櫻子へ送る。
ジョージが耀へ顔を向けた。
「楽しみだな」
「おう」




