占拠事件の背後
管理施設へ戻った友丸は、猫の仮面をつけたまま、案内された部屋へ入った。
久世と西郷が待っていた。机には坑道の図面が広げられている。友丸の姿を見ると、久世が椅子から立ち上がった。
「戻ったか。怪我はないか?」
「ありません」
久世はほっと息をつき、椅子へ座り直した。
「人質は全員、保護できた。宮本君も無事だ。よくやってくれた」
「撮影者さん。搬出路を引き受けてくれて、ありがとう。おかげで、避難に集中できた」
西郷にも礼を言われ、友丸は頷いた。
「西郷さんの結界があったから、俺も安心して任せられました」
友丸は空いている椅子に腰を下ろし、搬出路での出来事を報告した。
機関銃を使っていた男たちは全員拘束した。元数持ちのガリンも捕らえ、目を覚ましたあとに話を聞いている。
連盟の幹部から占拠を命じられたことに続き、資金について聞いた話を伝えると、久世が眉を寄せた。
「千葉の採掘を止めれば、連盟に金が入るという話か」
「はい。ただ、ガリンも幹部から聞いただけです。金のやり取りを見たわけじゃありません」
「そうか。資金の話はこちらで調べよう。占拠を命じた相手は分かるか?」
「端末に連絡が残っていました。占拠の指示と、入域や移動の手配です。ガリンが支援を求めた連絡もありましたが、そちらには返事がありませんでした」
「その端末は?」
「持ってきています」
友丸はガリンの端末を取り出し、久世へ差し出した。
久世は端末を受け取ると、画面に残るやり取りを確かめた。
「ガリンも、政府には話すと言っています。ただ、取り調べと、この端末の保管は気をつけた方がいいと思います」
久世が画面から顔を上げた。
「政府の中にも、連盟と繋がっている人がいるんじゃありませんか」
「ああ。その可能性は考えている」
久世は端末を机に置いた。
「取り調べには、私が信用できる者を当たらせる。供述の内容を知らせる相手も絞ろう」
久世は受け取った端末へ目を落とした。
「これも、保管を任せる相手は私が選ぶ。記録は複製して、保管先を分ける。」
友丸は頷いた。
「お願いします」
「あとは任せてくれ」
久世は自分の端末を手に取り、短く要点を記録した。
友丸はそれが終わるのを待って、椅子から立ち上がった。
「ほかに確認することはありますか?」
「今は大丈夫だ。必要があれば、また連絡する」
久世は友丸を見上げた。
「車を用意させよう。今日は帰って休んでくれ」
「ありがとうございます」
西郷も席を立った。
「今日は助かった。また会おう」
「はい。お疲れさまでした」
友丸は二人に挨拶をして、部屋を出た。
黒田家に寄ってこはくを迎えた友丸が、アパートへ戻ったのは深夜だった。
こはくは夕飯を済ませ、すっかり眠っていた。起こさないようにアパートへ帰り布団へ下ろし、友丸は夕方に買っておいた弁当を温めた。
遅い夕食を済ませて風呂に入り、眠ったのは朝方だった。
◇
翌日の夕方。
友丸がテレビをつけると、久世の会見が始まるところだった。画面の隅には、千葉異界占拠事件についての政府会見だと表示されている。
『千葉異界の採掘区画を占拠していた実行犯を拘束し、人質となっていた方々は全員救出しました』
久世は正面を向き、事件の経過を説明した。
『今回の事件による死者は出ていません。警備に当たっていた冒険者など、複数名が負傷しています。負傷者は医療機関で治療を受けています』
友丸の膝に乗っていたこはくも、テレビへ顔を向けた。
久世は手元の資料を一度確かめ、説明を続けた。
『押収した通信記録や、入域や移動の手配に関する資料など、複数の証拠から、《国際異界撤退連盟》の構成員による犯行と確認しています。実行犯に占拠を命じた連盟幹部についても、捜査を進めています』
そこで久世は、資料から顔を上げた。
『さらに、今回の占拠には、他国による工作が関わった形跡も見つかっています。指示を出した人物や、資金提供の経路については、現在捜査中です』
発言が終わると、記者たちの手が上がった。
指名された男性記者が立ち上がる。
『他国とは、どの国でしょうか』
『関与した人物の所属や、その背後にある組織を調べています。国名を含む詳しい発表は、捜査の進展を踏まえて判断します』
次に指名された記者は、連盟が出した声明について尋ねた。
『連盟本部は、占拠を指示した事実はないと説明しています。この声明について、政府はどう見ていますか』
『声明は承知しています。ただ、実行犯が連盟幹部から指示を受けたことを示す記録が残っています。その幹部と本部との関係についても調べます』
久世は質問した記者を見たまま、言葉を継いだ。
『今回の事件を指示した者や、武器、資金を提供した者についても、責任を追及します』
友丸はこはくの背を撫でながら、画面の中の久世を見た。
「久世さん、ちゃんと寝てるのかね」
声はしっかりしていたが、目元には疲れが見えた。
次の記者が立ち上がり、久世がそちらへ顔を向ける。
友丸はリモコンを机へ置き、会見の続きを見守った。




